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21 俺無双、その序章

 結論から言うと、俺たちは異世界にぶち込まれたわけではなかった。

 別の次元だか星だかわからんが、とにかくこの世のどこかにナントカという名前の異世界は確かに存在するんだそうだ。

 異世界には俺たちと似たような人間がいて、地球とはまた違った文明を築いている。その文明の発展を阻止しようとしているのが、ノビ夫たち魔物なんだと。

 人間と魔物の戦いはまさに地球時間の昨日、最終局面に突入したらしい。人間はなりふり構わない手段を駆使し、一気に攻勢に立った。そして……。


「魔物を魔界に強制送還し、魔界ごととある空間に封じ込めた。それが地球だった、ってことでOKか?」

「いかにも、いかにも」


 たまたまこの辺は、魔界の中でもペンペン草一本生えないような荒れ地が広がっていたため、せいぜい揺れるくらいしか被害がなかったようだ。

 ということは、朝なのに相変わらず空が黒いため遠くが全然見えないが、場所によっては突然山が出現したり、海底に沈んでしまったりする場所もあるのでは……。

 俺たちは、この幸運に感謝しなければなるまい。


 今朝、生徒会の号令のもと全校生徒の点呼が行われたが、昨日から八人減っていた。

 この生活に嫌気が差して……というほどには時間が経っていないため、恐らく家族が心配でたまらず自宅に帰ったのだろう。そう、好意的に解釈する。

 学校というちっぽけなコミュニティから、今後も人が減っていく可能性は高い。黙って抜けていく奴もいるだろうし、不慮の出来事で命を落とす奴も出てくるかもしれない。

 俺は自分自身に言い聞かせるように、「幸運だ」と口の中でつぶやいた。


「みんな、生きてるか?」

「……」

「……」

「異常ナシでありますッ!」

「わたしも平気だよ」

「……」


 俺の点呼に返答を寄越したのは、衛生兵と黒帯だけか。パーティリーダーとして非常に遺憾である。

 思ってもみなかった乗り物を手に入れ、意気揚々と遠征に出発したというのに、まったく。

 俺たちは今、終末の世界をドライブしている。

 しかも操縦はフルオートだ。

 それでもって、結構速い。ほかに走っている車がないため比較できないのが残念だが、この足場の悪い道を、自動車と比べてあまり遜色のない速度で走っているのだから、手放しで喜ばなければバチが当たるというものだ。

 まぁ、乗り物というのがノビ夫なんだが。


「み、宮沢……普通に歩こうよ。ヘビはやっぱ、気持ち悪いよ……」

「ノビ夫に失礼なことを言うもんじゃない。気を悪くしたらかわいそうだろ」

「だって……だってこれ……」


 さっきからナビ女が背中にしがみつくので、実は苦しくてしかたがない。

 乗っているのがノビ夫だからまだいいものの、これがもしバイクかなんかで、後ろに乗せた女に親の仇みたいにしがみつかれたら事故が起こるぞ?

 しかし、ナビ女の空気の読めなさは格が違った。


「ね、宮沢。あ……足もしがみついてみていい?」

「……いいわけないだろ」


 あまりにもぶっ飛んだ発言に、さすがの俺も反応が遅れたぜ。

 いつ路地裏からトゲ付き肩当てでモヒカンの集団がヒャッハーしてしてきてもおかしくない世界をヘビで走行中、背後からだいしゅきホールドをキメてくる奴があるか。

 俺はナビ女が怖い。何かとんでもないことをしれっとしでかしそうで、すごく怖い……。

 背後で「だって鱗が太ももに当って」とかなんとか言うのを華麗にスルー。

 オートリーダースキルがカンスト気味の俺は、回避スキルもまた衝撃的な高さなのだった。


 そのときだ。

 進行方向で数度にわたって派手な爆発音がしたと思うと、小型の恐竜のような静物が吹っ飛んで駐車してあったライトバンに激突し、バウンドして地面に転がった。

 遅れて地響きが、尻から伝わってくる。


「そろそろ縄張りの境界線か」

「いかにも」


 恐竜が飛んできたところから、昨日のフライドチキンの怪物を巨大化させたような正体不明の物体がゴリゴリいいながら登場してきた。

 ミニバンくらいはあるぞ。しかも、昨日の奴に比べて少し肉付きがいい。もちろん、美味そうだとは思わないが。

 なるほど、あいつらは前の王の敵対勢力だったわけか。それでもって、地面にうずくまってもがいているのが俺の眷属、と。

 そう思うと恐竜がとても愛おしく思えてきた。

 同時に、そいつを酷い目に遭わせたフライドチキンに殺意がわいてくる。

 俺はノビ夫からひらりと飛び降りた。


「ちょっとシメてくる」

「王よ、ここは私が」

「目の前でやられている仲間の一人も助けられないで、オートリーダーは名乗らないさ」


 一応かぶってきた防災ヘルメットのあご紐を確かめ、ついでに眼鏡もずり上げておく。

 手に馴染んだシャベルをくるりと一回転させ、両手に構えた。

 悪くない。


 俺が向かっていくのに気づいたか、フライドチキンは恐竜から俺へと向きを変えたと思ったら、ゆっくりゆっくーり後ろに下がり始めた。

 ゴリゴリ音をなるべく立てないするとは小癪な。

 俺はフライドチキンに距離を詰めるため、足を踏み出――したと思ったときにはすでに、奴の目の前にいた。

 俺の跳躍力やべえ。

 ただ、これまでリアルの喧嘩はやったことがない俺。小さい子の喧嘩特有のブンブンパンチすら繰り出したことがない喧嘩バージンだ。運動神経などという言葉は、生まれてこの方聞いたこともない。

 そんな俺だから、間合いというものを考慮することなく、無造作にシャベルを振り下ろしてしまった。


 空振り格好悪い! 特に黒帯と巴御前には見られたくない!

 そう思ったのだが……。

 俺のシャベルの切先は、確かに空を切った。時代劇で聞くような、ものすごい切り裂き音とともに。

 だからきっと、衝撃波的な何かが出たんじゃないかな。

 俺から結構遠くのほうで、フライドチキンが斜めに切り裂かれ、崩れた。

 肉片になったと言おうとしたが、最初から肉片みたいなものなのでやめておこう。


 後ろで拍手と黄色い声が乱れ飛んでいた。が、あえて無反応でいることで「それほどでもない」感を演出した。

 なるほど。俺は相当強いらしい。

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