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14 なにかが あらわれた!

「生存確認のため、ちょっと中に入らせてもらいますよー」


 俺は一言一句同じセリフを六回目に叫んだあと、民家の庭から中へ入った。

 誤解しないでくれ、庭の窓をブチ破ったのは俺の猛々しいシャベルではない。

 例の、ガラスの雨を巻き起こした衝撃波は、付近一帯のガラスというガラスに壊滅的なダメージを与えたようだった。つまり、これまで見て回ったすべての民家の窓は最初から割れていたのだ。


 棚や机からさまざまなものが落下し、散乱している。

 食器の類はことごとく割れているので、ゴム底の運動靴でうっかり踏み抜かないよう慎重に進まなければならない。


「誰かいませんかー? 助けに来ましたよ」


 一応言ってはみるが、はなから期待などしてはいなかった。

 これまで見て回った民家は、無人だった――生存者がいないという意味で。

 住人は取るものもとりあえず逃げ出したか、バケモノに食われたかのどちらかだった。


 先頭を行く俺のマグライトが、元々は人体だったモノの一部を照らした瞬間、探索は打ち切りになる。


「撤収」


 感情のない声でそれだけ言えば、後ろに続く女子たちも黙って従う。

 その点で言えば、急ごしらえのパーティのわりに統率が取れているんじゃないかと思う。

 もちろん、キャーキャー騒ぎがちな女子たちがグロシーンを目の当たりにする前に撤収を命じる俺の采配もあるだろう。


「もう、付近の住民はいないと思ったほうがいいな」

「なんでだろう……一人くらい生存者がいてもいいのに」


 庭に出たところで、俺の言葉にナビ女が地図にバツ印をつけながら応じた。


「繰り返していても時間の無駄だ。民家の探索はひとまず打ち切り、まっすぐセブンをめざす」

「そうこなくっちゃ!」


 空腹らしい黒帯が、助かったとばかりに応じた。

 だが、俺には不安もあった。

 いったいどこまでがこうなのかわからないが、少なくとも学校から見渡せる一帯はとんでもないことになっている。

 生存者がいた場合、水や食料を我先に確保したいと思うのは当然だろう。

 そして、コンビニには生きるために必要な物資が豊富にあるということは、誰でも知っている。

 ということは――俺たちがセブンに着いたとき、そこでは略奪が行われているのではないか?

 物資をめぐって一触即発という空気になった場合、俺たちは応戦すべきなのか?


 俺は前進しつつ、手の中で存在感を主張するシャベルを持ち直す。

 これは、バケモノから身を守るために手に取った武器だ。

 本当は倒すためと言いたいところだが、果たしてどこまで通用するものやら。

 ただし一つ確実なのは、断じて人と争うための武器ではないということ。

 これだけは肝に銘じでおきたい。これまでも、これからも。


 ――視界の右端に白いものがひらめいて、俺は足を止めた。

 巴御前が合図を送っている。

 どうでもいいが、白魚のような手というのは本当だな。

 色白で華奢な手がひらひら舞うさまは、まるで風に弄ばれる純白のリボンのようで……白魚じゃないじゃないか。


 全員で足を止め、住宅街の一車線もへったくれもない道路の右側を注視する。

 民家と民家の細い路地から、何かが出ている。

 それが何か、できればうまく説明したいのだが、いかんせん俺自身、それがなんなのかわかりかねている。

 まず色はえんじ色。光沢があるか、もしくは濡れているようだ。

 形は……行儀の悪い奴が食い散らかしたフライドチキンに似ている。つまり、よくわからない形なのだ。

 ライオンに似ているとか、鳥みたいだとか、わかりやすい特徴があればいいのだが、今まで見たことない形状なので困る。


 まず、あのバケモノがこっちを向いているのか後ろ向きなのかわからない。

 顔らしきものどころか、目と思しき器官すら確認できないのでお手上げだ。

 ただ……ずっと立ち止まっているわけにもいかないため、ゆっくり道路の左端に避けて通過することにした。

 緊張しているのかしらないが、肩に置かれたナビ女の手が骨と肉の間に入り込んで痛すぎるからだ。


「あ、気づかれた」


 ナビ女の指が俺の肩のツボをいい感じに抉った直後、フライドチキン状のバケモノが動いた。

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