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13 ココハドコ

「これから俺たちは、何件かの民家を訪ねつつセブンまで行き、物資を調達する」

「直線距離で片道一〇〇メートルってとこね」

「そこでナビ女には、つねに逃走ルートを把握していてほしい」


 別人のように素直になったナビ女に、俺は多少の親近感を覚えていた。

 やはり人間、素直なのがいい。


「全員、この先で必ずバケモノと遭遇するつもりでいてくれ。ただし、可能な限り戦闘は避ける」

「え、なに? 戦わないの?」

「戦わない」きょとんとしすぎて妙に幼く見える長身の黒帯に、俺は大きくしっかりとうなずいて見せた。「そのために、警戒を厳にして進軍する。まず、俺は前方の監視を担当する。黒帯は俺の左側後方、巴御前は反対の右側後方の陣形を崩さないように。それぞれが左右の側面を警戒してくれ」


「ナビ女は俺のすぐ後ろ、黒帯と巴御前に挟まれる位置で進軍だ。周囲の警戒はしなくていいが、さっきも言ったように、つねに現在地を把握しておき、アクシデントの際には最適な逃走ルートを選択できるようにしておいてくれ」

「つまり、間違って行き止まりに迷い込んだりしないようにナビすればいいのね?」

「そういうことだ」


 もちろん、ワクワクしながら俺を見つめてくる衛生兵にも任務を言い渡してやる。


「衛生兵は、対空監視。ヤバそうなのが飛んでいないか警戒してくれ」

「イエッサー!」


 めちゃくちゃうれしそうに応じてくれるので、こっちもなんだかうれしくなってくる。

 それから、料理番だ。

 正直なところ、衛生兵と料理番は留守番していてもらうことも考えた。校内の清掃中にケガをする奴がいるかもしれないし、料理番に至っては往復二〇〇メートルの探索任務に食事が必要になるはずもない。

 ただ、こうした難易度の低いクエストで少しずつ経験を積んでいかないと、後々困ったことになる。パーティ内でメンバーにレベル差――あくまで経験という意味だが――がありすぎると、行動に支障をきたす恐れが出てくるからな。

 せめて、外の環境と、バケモノという存在に慣れてもらわなければならない。


「料理番は最後尾で後方警戒。転ばないよう、前を行く衛生兵の肩に手を置いておくといい」

「やってやろうじゃないの。で、もしバケモノを発見したらどうすればいいわけ? 声出して気づかれたら意味ないからね」

「両翼の二人は、異変があったら俺の視界に入るように手を振ってくれ。後方の二人は、両翼のどちらかの視界で手を振る。そのご、気づいたほうが俺の視界で手を振る。伝言ゲームの要領だ。料理番が言うとおり、声を出すのは厳禁だぞ」


 全員がうなずいた後に、ナビ女が小さく手を上げて発言した。


「バケモノと出くわしたら、逃げればいいの?」

「奴らの登場の仕方にもよるが、できる限り音を立てずに後退する。進行方向にいる場合は迂回するので、そのときにもルート確認を頼む」

「お化け屋敷みたいに、急にバーンて出てきたらどうするの? わたし、自慢じゃないけど平常心でいられる自信ないわよ」


 もしものときに平常心でいられない自信があるなら、なぜ日頃から『バイオハザード』シリーズなどのホラーゲームをやらないのか。

 あれらのゲームはグロ描写を繰り返し目に焼きつけることで耐性を高めるほか、クローゼットから急にゾンビが飛び出してくるなどのトラップ系のビックリへの耐性も同時に高められる。

 真夜中の暗い部屋でヘッドホンをつけてプレイしても心拍数が上がらなくなれば、まず第一段階はクリアだ。

 ――が、そんな女が果たしていいのかと言われると返答に窮する。

 たがこの状況でもしバケモノに遭遇し、恐怖に動転した女にしがみつかれて身動きがとれずむざむざ殺される……などという展開は困る。


「悲鳴をあげたらバケモノに気づかれると思っていいだろう。そうなった場合、最終手段として応戦する。ナビ女、衛生兵、料理番は無理に戦闘に加わらなくてもいい。その代わり、ほかのバケモノが絡んでこないか警戒を続けていてくれ」

「了解でありますッ!」

「敵が非常に強力だった場合や、多数だった場合、逃走を試みる。俺が逃走を指示したら、ナビ女は先導してくれ。敵がデカいなら、潜り込めそうな場所。多数の場合は狭い路地などに引き込んで、各個撃破に持ち込むことも考慮しつつ」

「わ、わかったわ」


 カンファレンスのあと、出発と相成った。

 そして俺たちは、通い慣れた通学路を、普段の半分以下のペースで進んでいる。


 外に出てまず気づいたのが、地面の荒れ具合だ。いや、荒れているなんてレベルでは済まない場所もある。

 まず、マンホールというマンホールの蓋がことごとく吹っ飛んでいるため、道中には即死級の落とし穴が点在しているという状況。

 アスファルトはひびが入ったりめくれ上がったりして、通行にはまったく適さない道となっている。恐らく、車ならオフロード車でなければまともに進めないだろう。


 さらに酷いというか意味不明というか……誰か、この状況を俺にも理解できるように説明してくれないだろうか?

 道路には大きな裂け目がいくつも走っている。小さなものから、落ちたら確実にアウトな大きさのものまで、多種多様だ。

 俺が納得いかないのは、その底に、なんというか火のようなものが燃えているということだ。煙の出ている裂け目もあり、例の硫黄の臭いは、どうやらここから来ているものと思われた。


 俺は、常識を放棄することにした。

 これはこうあるべき。こうでなければおかしい。

 そうした常識は、様変わりしてしまったこの世界において、単なる固定観念にすぎない。それにしばられて身動きが取れなくなるなど、愚の骨頂だ。


 地下が燃えていようが、酸の雨が降ろうが、浮遊大陸があろうが、俺は律儀に驚いてやるつもりはない。

 ワープゾーンしかり、迷いの森しかり、見えない壁しかり。

 俺を驚かせたくば、ゲームでも見たことがないような世界を用意しろ。プランナーたちがひねり出した以上のトラップを持ってこい。

 そう、俺はこの世界に噛みついてやったのだ。

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