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11 校舎奪還成功。そして始まる新たなミッション

 もう隠密行動の必要はない。

 俺は足音も高らかに階段を登り、クラスへ凱旋する。


 道中、教室から顔をのぞかせる連中にサムズアップをして見せれば、割れんばかりの拍手と歓声がわき起こる。あと、男女問わず抱きついてくる奴もいた。

 オーケイ、わかったから野郎は飛びついてくるな。犬かお前らは。

 ただまあ……全身で喜びを示し、褒め称えてくれるのは、正直なところちょっとうれしくもある。

 『BB』の中では「さすがYamatoさん!」なんて言われるのは日常茶飯事だったけれど。


 瞬時に俺のファンになった連中をゾロゾロ引き連れて3-Dに帰還すれば、果たしてそこでも大歓迎が待っていた。


「宮沢ゴメン、私が悪かったわ」しおらしく頭を下げるのは、ナビ女だ。「ハッキリ言って、あなたとまともに喋ったの、今日が初めてだし、本当に冷たいひとなのかも……って、勘違いしてたの」

「わかればいい」

「あのっ……」


 クールに言い捨てて教室に入ろうとしたが、ナビ女がモジモジし始めてちょっと気持ちが悪いので、仕方なく声をかけてやった。

 まったく、面倒くさい系な上にかまってちゃん属性持ちとは、恐れ入る。


「まだ何か?」

「こ……これからヨロシクね?」


 ふむ。仲直りの握手をしろと、そういうワケか。

 それとなく視線を周囲にやれば、ギャラリーが感動的なイベントに立ち会ったみたいな顔で見守っていた。これは飲まざるを得ない。

 俺は黙って、差し出されたナビ女の手を握り、軽く上下に振って離した。

 ……肉親意外の女の手を握ったのは、初めてではないだろうが前回の記憶が無い。

 血色がいいから温かいのかと思ったら、案外ヒンヤリしていた。実際に体験してみないとわからないものだ。


「隊長ぉおおお! お疲れ様でありますッ! エステサロンに務める姉直伝のヒーリングマッサージはいかがですかッ!」

「……大丈夫だ。引き続き、けが人を頼む。あとこれ、応急手当に使えるかと思って持ってきた」


 興奮に胸がホバリングする衛生兵の申し出を丁重に辞退し、ラップを手渡した。


「アンタやるじゃん」

「まあな」


 チビのくせに見下すような眼差しで見上げてくるのは、料理番か。

 セリフと共に髪をファサ……とかやっているので、多分ナルシストなんだと思う。


「待ってな、落ち着いたらほっぺたが成層圏に打ち上がるくらいうまい飯を食べさせてやるからさ」

「楽しみだ」


 そして、3-Dのドアの前で仁王像よろしく左右に別れて俺を待ち受けていたのは、黒帯と巴御前だった。


「見くびって悪かった。宮沢って、すごいヤツじゃん!」

「たまたま目論見がうまく行っただけだ」

「謙遜なんてするなって、すごいことをやってのけたんだから! ほら、見てみなよ」黒帯が巴御前のブラウスを袖を引っ張りながら言う。「わたしはこんなに喜んでるカノコを見たことないもん」


 言われるがままに、俺は巴御前を見た。二度見して、念のため三度見までした。ああ、鹿野だからカノコか。

 漆黒の髪と目を持つ、雪女っぽい風貌にが特徴的な巴御前。その表情は――さっきとどこが違うんだ?

 ただひたすらに、大平原のごとく無表情だ。

 それでも真っ黒な瞳から向けられる圧は、たしかに強い……ような気もする。黒帯の催眠術という可能性も払拭はできないが。


 あとはもう、もみくちゃにされた。

 頭と言わず肩と言わず背中と言わず、とにかくあちこちをやたらめったら力強く叩かれた。本当に歓迎されているのかと疑いたくなる所業だ。

 それに、ハイタッチの強要。「ヘーイヘーイ」じゃない。なんだ、「ヘーイヘーイ」って。


 善意の暴行に体力を根こそぎ奪われているとき、生徒会の奴らが尋ねてきた。

 聞けば、これからの学校――三〇一人の生存者たちの今後について話し合いたいのだそうだ。

 三百人って。

 俺は危うくWキーを連打するところだった。


 六人以上の面倒を見るのはマジで無理です、勘弁してください。

 という内容のことを、インテリ風に落ち着いた口調で申し述べると、学校全体の今後については生徒会が引き受けてくれることになって、まずは一安心。

 ただ、顧問として相談に乗ってほしいと頼まれた。

 俺は、差し当たって四つの意見を出した。


 校内は今のところとりあえず安全だと思うが、単独行動は絶対にさせないこと。

 バケツでも鍋でもなんでもいいから、とにかく水をためておくこと。

 校舎の周辺に交代で見張りを置くこと。

 全員に何かしらの役割を与え、定時報告を義務づけること。


 最初の三つは、防災なんたらの受け売りだが、最後の一つはネトゲの実体験からの意見だ。

 大規模戦闘で五十人、六十人で集団行動していると、絶対にサボるパーティが出てくる。それくらいの規模になると、実際には一パーティくらい稼働してなかろうが大勢に影響はない。

 ただ、それを身近で見つつまじめに任務を遂行しているパーティの士気がガタ落ちする。それは無視できない痛手になるのだ。

 今自分たちが何をしていて、MPはどれくらい余裕があるのか。救援が必要なのか、余力があるのか。それらを逐一報告することでお互いの状況が透明化され、ピンチのパーティに救援を差し向けることもできる。

 このルールが決まってから、大規模戦闘での不満はだいぶ減ったものだ。


 生徒会はすぐに、役割分担について話し合いを始めたが、それが決定するまでの間、差し当たって全校生徒にこう言い渡された。

 それは、掃除だ。


「四階からホウキで水を掃いていって、通用口から外に出しましょう! 動ける人はなるべく協力してください!」


 かくして、校内大清掃ミッションが発付されたのである。

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