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ご機嫌取り

いつも読んでいただき本当にありがとうございます。

今回は、本当に作者の自己満足なお話となっております。ただただ二人のいちゃらぶが書きたかったんです。私は楽しんで書きましたが、どうか読者の皆様にも楽しんでいただけますように。

よろしくお願いします!

 ティアレシアは、どうしたものかと思案していた。ルディの機嫌がとてつもなく悪いのだ。その原因はもちろんティアレシアにあるのだが、いつもならルディの方から話しかけてくるくせに、今回は全くその気配がない。

(でも、仕方ないじゃない)

 夕食を終え、ティアレシアは一人、私室でむくれていた。ソファに身体を預け、目を閉じる。

 つややかな黒髪、人を魅了する漆黒の瞳、美し過ぎる容姿、ルディの姿が思い浮かび、ティアレシアは反射的に目を開けていた。

「な、なんですぐに思い浮かぶのがルディの顔なのよ!」

 それほどまでに彼のことを考えていたのだとは認めたくはなくて、ティアレシアは誰に言い訳するでなく声を出していた。ルディが怒っている、というか一方的に機嫌を損ねている理由は、なんとなく察知はつく。

 しかし、それをティアレシアが今後改められるかというと答えは否である。


(フランツは大切な友人だし、カルロの病院も気になるし、父の様子だって、チャドのことだって……)

 そう、ティアレシアはここのところルディとの時間を持っていなかった。ルディにかまっている暇もないほど忙しかったのである。かつては友人でもあるフランツと二人で王都の視察に行ったり、カルロが医院長を務める王立病院の様子を見に行ったり、目覚めはしたが記憶を失っているチャドの様子を見に教会に行ったり、国王となった父のために色々とやりたいこともあった。そして、空いた時間があれば家庭教師のリチャードを招いて理論を展開したり、知識を深めたりしていた。

 しかしこうしてルディからティアレシアに何も構わなくなると、それはそれで寂しいという思いがある。何故なら、どういう訳かティアレシアはあの意地の悪い笑みを浮かべ、人を見下したような、口の悪い悪魔のことが――そう、ルディは悪魔なのだ――好きになってしまったらしい。


「どうして、あんな奴のことが好きなのかしら」

 クリスティアンの魂が転生し、ティアレシアとして生まれることができたのはルディのおかげだ。しかし、彼ははじめティアレシアが復讐を遂げればこの魂を捧げろと言っていた。もちろん復讐のためにしか生きるつもりがなかったティアレシアはずっとそのつもりだった。

 だからこそ、ルディを利用はしても信用してはならないと感じていた。

 それなのに、いつからかルディが側にいることが当たり前になって、その存在に安心感すら覚えるようになって……。もう誰も愛さないと決めていたのに、ルディはティアレシアの心を動かす存在になってしまった。悪魔のくせに、いや、悪魔だからだろうか。時々、ティアレシアは人ではないルディの中に、闇をみる。ずっと独りで、退屈を持て余していた頃のルディだろうか。

 とにかく、ティアレシアはルディに強く求められる度に、彼をもう独りにしたくないとまで思ってしまうようになった……はずだった。

 それなのに、ティアレシアはルディのことを放っておいた。ルディならば大丈夫だろう、と勝手に思っていた。

「ルディに謝らなくちゃ」

 ティアレシアは、ルディに甘えていたのだ。

 ルディは、ティアレシアに愛していると囁き、優しい口付けを与えてくれて、時々胸が苦しくなるぐらいの愛情を示してくれていた。だから、ティアレシアがルディを必死で求めなくても、ルディの心を繋ぎ止めようとしなくても、彼はいつも側にいてほしい時はティアレシアの隣にいてくれると甘えていた。

 謝って許されるか分からないけれど、会って話をしなければ。

(ルディに、会いたい)

 自分からルディに会いに行くのは、はじめてかもしれなかった。だって、いつもルディは呼べばすぐに来てくれたし、呼ばなくても側にいてくれたから。



 ◇◇◇



「へぇ、それでようやくお嬢様は俺のところに来た訳か」

 謝る、という行為には慣れていないが、ティアレシアは真剣にルディに向き合った。しかし、彼はにやりと口角をあげて意地悪くティアレシアを見つめるだけだ。

「謝るだけじゃ足りねぇな」

「な、何をすればいいのよ」

 普段のティアレシアなら、もういいわ! と言って部屋を出ているところである。しかし、今回はティアレシアが全面的に悪い。

「俺の機嫌をとれ」

「……は?」

「前から思ってたんだが、お前の心は本当に俺にあるのか? いつも俺ばかりがお前を愛している」

 その言葉に、ティアレシアは顔が真っ赤になった。そういうことを恥ずかしげもなくさらっと言ってしまうルディが憎らしい。ティアレシアの心臓が、今にも飛び出しそうに暴れている。

「なぁ、ティアレシア?」

 自分の名前が自分の名前でないような、変な熱を持って耳に届く。

 真正面から覗きこむ漆黒の双眸に、間近にあるルディの吐息に、ティアレシアは緊張する。

(む、無理よ、これだけでどきどきするのに……)

 機嫌をとるってどうやって?

 いつもルディはティアレシアに何をしていた?

 それを思い出すと、ティアレシアの鼓動はさらに早鐘を打つ。

『この身体すべて俺のものだ』

 そんなことを甘く優しく囁いて、ルディはティアレシアに触れるのだ。真綿でくるまれるようにあたたかく、安心できる、ルディの体温に身を任せればティアレシアは幸せな心地になったものだ。時々強引だったり、意地悪を言ったりするが、ルディは基本的には優しかった。決して、ティアレシアの嫌がることはしなかった。

 悪魔のくせに、本当にティアレシアを大切にしてくれていた。


(そういえば、最近キスしてない……)

 目の前にある、形のよい唇を見て、ティアレシアは思わずそんなことを思っていた。

「なんだ、欲求不満か?」

「ば、そんな訳ないでしょう!」

 おもいきり否定して、ティアレシアはすぐに後悔した。仲直りしに来たはずなのに、拒絶してどうする。案の定、ルディはまた意地悪な笑みを浮かべてティアレシアを見ている。

「そうか。俺は欲求不満なんだ。誰かさんが他の男ばかり相手にして俺をちっとも相手にしてくれないからな」

「そ、そんな言い方しなくても……!」

「あぁ、気にするな。俺は別にかまわないんだ。女には不自由しないからな」

 にやっとルディが笑う。それはそうだろう。ルディは悪魔だ。人を魅了し、惑わすこともできる。しかし、魔力を使わずとも、ルディのような男に惹かれる女性は多い。娼館通りを歩いていた時だって、女たちはみんなルディにメロメロだった。その時のことを思い出すと無性に腹が立ち、ティアレシアはルディの胸倉を掴んでいた。

「他の女のところに行ったら許さないわよ!」

「何故? お前は他の男と仲良くしているのに」

「もう、馬鹿!」

 ティアレシアはそう言って、掴んでいたルディのシャツをおもいきり引っ張った。背の高いルディが前かがみになったところに、ティアレシアは自分の顔を近づけ、唇を奪った。

「彼らには、こういうことはしないもの」

 目を見開いて驚いているルディを睨みながら、ティアレシアは言った。なんともかわいくない女である。しかし仕方がない。今まで自分の感情を表に出したり、言葉にすることなんてなかったから。純粋で素直だったクリスティアンの魂を持っていても、ティアレシアとして素直になれるとは限らないのだ。

 全く甘くない雰囲気でキスをしたティアレシアに、ルディは一拍の後吹き出した。

「っははは、そうだな。もし他の奴にこういうことをしていたら、俺はそいつを殺すかもしれねぇ」

 ルディは、こういう物騒なことを笑顔で言う。しかし、すっかりその様子がいつも通りになったので、ティアレシアは内心ほっと息を吐く。


「おいおい、まさか今ので俺が満足したとでも思ったのか」

 そう言うと、ルディはティアレシアの顔を引き寄せて、とても熱いキスをした。

「さ、俺が退屈していた分、しっかり機嫌をとってもらうからな」

 ティアレシアはそうして、愛する悪魔にキスをねだられるままにぎこちないキスを落とした。唇に、まぶたに、頬に、首筋に、鎖骨に……いつもルディがティアレシアにキスを落とすように。

「……ルディ、愛しているわ」

 ふいに、熱に浮かされるようにティアレシアは呟いた。普段は恥ずかしくて言葉にできない気持ちを。聞こえていなければいい、そんな風に思ったが、その言葉をルディが聞き逃すはずもない。

 いつの間にか立場が逆転し、ティアレシアは朝までルディからの甘いキスの雨を受け続けることになってしまった。

 

「もう、絶対ルディをほったらかしになんてしないわ!」

 この日、そうティアレシアは強く心に決めた。



読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただけたでしょうか。

ルディ視点では甘いエピソード書いたのですが、ティアレシアからはなかったなぁと書いてみました。本当に、ツンデレちゃんは扱いが難しいです。ルディも大変ですね。でも二人はなんだかんだラブラブですから、大丈夫でしょう。それにルディの愛は深すぎて、重すぎるので(笑)

これからもこんな二人のバカップルにお付き合いいただければと思います。

本当にありがとうございました!


奏 舞音

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