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戻ってきた日常

冬待桜 様からのリクエストで、ほのぼのを目指して書きました。

期待通りのものになっているかわからないですが、とても楽しんで書きました!

皆様にも楽しんでいただけますように……!

よろしくお願いしますm(__)m


 明るい太陽が、きらきらと水面を照らしている。庭にある美しい噴水の側には、二人の男女が立っている。新国王の娘ティアレシアとその従者ルディである。

 バートロム公爵家の屋敷で、二人は何やら言い争っている。と言っても、怒っているのはティアレシアだけで、ルディは楽しそうに笑っている。

「あぁ、ティアお嬢様があんな風に怒る姿が見られるなんて……!」

 二人の様子を生け垣から覗いていたのは、バートロム公爵家のメイド頭キャシーである。

 ティアレシアが生まれてからずっと見守ってきたが、ティアレシアが感情的になったところをキャシーは見たことがなかった。それどころか、ティアレシアは誰にも弱味を見せたことがなかった。

 そんなティアレシアが、ルディには様々な表情を向ける。誰にも頼らずに生きていくのかとキャシーは心配していたのだが、その心配はもう無用のようだ。

 だからこそ、キャシーはルディに膨れっ面をしているティアレシアを影から見守りつつ、号泣していた。


「……うわ! 何やってるんですか、キャシーさん」

 偶然生け垣の側を通りかかり、号泣するキャシーに驚いたのは、ティアレシアの騎士フランツである。

「フランツ様、大きな声を出さないでくださいまし!」

「……はあ」

 無理矢理にフランツを生け垣の影に隠し、キャシーは再びティアレシアを見つめる。

「お嬢様が授業の度に隠れていたのが懐かしいですわ」

 つい最近までの日常だったのに、王国の変化が目まぐるしく、ティアレシアを探して走り回っていた日々がどこか懐かしい。キャシーの目にはまた、涙が浮かんでいた。

「ティアお嬢様と旦那様がご無事で本当に、本当によかったですわ……!」

 王国の革命に二人が関わっている、ということを知った時、キャシーは待っていることしかできなかった。もし二人の身に何かあればと、心配でたまらなかった。

 だからこうして、ティアレシアが無事に帰ってきて、弱味を見せられる人ができたことが、キャシーにとっての幸せでもある。相手が従者、というのが引っ掛かるが、ルディはとても魅力的な男性で、やるときはやる男だと知っているから、キャシーは二人を見守ることに決めたのだ。

 キャシーが割り切って傍観者に徹しているのとは反対に、フランツは複雑な表情でティアレシアを見つめている。

「なんで俺はいつもこういう役回りなんだ……」

 フランツの悲しい呟きは、感激しているキャシーには聞こえていなかった。

「あら、ルディったら大胆な……まぁまぁまぁ」

 ルディの胸を怒りながらぽすぽす叩いていたティアレシアの腕を掴んで、ルディが強引に口づけたのだ。

 大切なお嬢様が本気で嫌がっていたなら、キャシーは命懸けで止めるが、ティアレシアの表情が恥ずかしがっているだけだと分かるから、キャシーは二人の邪魔はしない。

 しかし、その隣で拳を握る男の心情はキャシーのように穏やかではなかった。

「あの男、絶対俺に見せつけている……!」

 口づけた後、ルディはフランツを見てにやっと笑ったのだ。

「ティアレシア様……!」

 我慢できずに、フランツは生け垣から飛び出した。その声に反応して生け垣に視線を向けたティアレシアは、泣いているキャシーと憤慨しているフランツを見て、なんと言っていいのかわからない様子だった。

「あ、あなたたち……見たの……」

 徐々に目の前の状況を把握したのか、ティアレシアがふるふると震えて言った。

 そして……ばっと身を翻した。


「ティアお嬢様が逃げたわー!」


 キャシーの声で、他にもちらほらと見守っていた使用人たちが飛び出して、お嬢様を追いかける。

 

 使用人とお嬢様のかくれんぼ兼追いかけっこの日常が、またジェロンブルクの地に戻ってきた。


「はぁ、はぁ……またお嬢様を追いかける日がくるなんて……」

 息を切らすキャシーは、戻ってきた日常に明るい笑みを浮かべた。







 

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