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新しい命

冬待桜様からのリクエストです!

ご期待に沿えるかどきどきですが、どうかよろしくお願いします。

 この世界は、危険だらけだ。

 刃物、人間、飛行物、空気、火、水、氷、虫、段差……あらゆる危険が身のまわりに溢れている。

 ルディはそんな危険から、愛するティアレシアと生まれてくる娘を守らなければならない。

 ティアレシアのお腹はずいぶん大きくなった。もういつ生まれてもおかしくない、という状態だ。

 ティアレシアは今、安楽椅子に座り、子どものための産着を編んでいる。

 そして、そんな彼女の側で毛糸玉が風に吹かれて転がった。

「危ないっ!」

 ルディは即座に毛玉を拾い、ふう、と息を吐く。あと一歩遅ければ、ティアレシアに当たっていたかもしれない。

「ねぇ、ルディ。毛糸玉くらい、危険でもなんでもないわよ」

 もう日常と化したルディの行動だが、ティアレシアは一応口を挟む。

「いや、何があるか分からねぇだろ。これにつまずいて転んだらどうする?」

「転びそうになったら、ルディが抱き止めてくれるでしょう?」

「当たり前だ」

「それなら大丈夫よ」

 ね? とかわいく笑うものだから、ルディは思わず頷きそうになる。

「いや、俺が抱きしめた衝撃でお前とシュリーに何かあったらどうする?」

「もう、それじゃあ何もできないじゃないの!」

 ぷぅ、とティアレシアが頬を膨らませた。怒っているのかもしれないが、可愛すぎて迫力がない。しかし、あんまり怒らせても身体に良くない。ルディはティアレシアの機嫌を取ろうとポケットから包みを取り出す。

「何それ」

「安産を祈る守り石だ」

 カーネリアンという淡いオレンジ色の石をハート型に加工してもらい、ルディはティアレシアのためにネックレスをつくった。

「きれい」

 ティアレシアはうっとりと石に見入っている。

「気に入ったか?」

「えぇ、もちろん。ありがとう」

 そう言うと、ティアレシアはルディの頬にキスをした。夫婦になってもなかなか自分からこういうことをしてこなかったティアレシアだが、妊娠してからは随分積極的に愛情表現してくれるようになった。そのことがあまりに嬉しすぎて、ルディは理性を抑えるのが大変だ。子どもが早く無事に産まれてくれたら、ティアレシアにおもいきり愛情を注いでやる。ルディはそう心に決めている。しかし、幸せそうにお腹を撫でて微笑むティアレシアを見ていたら、自分が我慢するくらい別にいいか、とも思ってしまう。

「これで、絶対大丈夫だ」

 ネックレスをティアレシアの首に付けてやり、ルディはにっと笑った。ティアレシアも頷いて、またお腹を撫でる。

「早く、シュリーに会いたいわ」

 ルディも大きくなったティアレシアのお腹に触れて、命の鼓動を感じる。

「元気に生まれて来いよ。たっぷり可愛がってやるからな」

 


 変化が起きたのは、その次の日だった。



「うぅ、痛いっ!」

 陣痛の痛みに、ティアレシアが叫ぶ。

「大丈夫、大丈夫ですからね」

 苦しむティアレシアに優しく、しかし力強い声をかけるのは王宮医師のカルロだ。臨月に入ってからは、何があるか分からないから、とカルロはバートロム公爵家に泊まり込んでいた。そんなカルロから出産についての基礎知識をレクチャーされていたキャシーも、大切なお嬢様のために、とテキパキと出産の準備を進めている。

 あんなにあらゆる危険から守ると豪語していたルディは、どうしていいか分からずにただただティアレシアの手をぎゅっと握っていた。

 よっぽど痛いのか、ルディの手を握るティアレシアの手は、尋常ではないくらいの力が入っていた。ルディでさえ、顔をしかめるほどの強さだ。こんな力、ティアレシアのどこにあったのか不思議なくらいだ。

「俺がついてる。大丈夫だ」

 ふう、ふう、と痛みに堪え、顔をしかめるティアレシアに、ルディはずっと声をかける。

「ルディさん、どうかそのままティアレシア様を励ましていてください」

 カルロに真剣な眼差しで言われ、ルディは頷く。

「ティア、もうすぐシュリーに会えるぞ」

「んん……っ!」

 目をぎゅっと瞑って叫び声を上げながらも、ティアレシアにはルディの声が届いていた。シュリーに会える、という言葉に、大きく頷いている。

「頑張れ、ティア」

 ルディの手を握っている右手とは逆の左手で、ティアレシアは昨日贈った守り石のネックレスを握っている。

「おい、カルロ、まだなのか!」

 数時間、ティアレシアはずっと痛みに耐え続けている。もう声は枯れて、体力も残っていない。このまま長引けば、ティアレシアも子どもも危ない。

「頭は半分見えています。あと少し、がんばってください!」

 カルロの声に、気を失いかけていたティアレシアはまた腹部に力を入れる。

「うぅぅ……!」

「ティア、大丈夫だ。がんばれ」

 祈るように、ティアレシアの手を握る。もうルディの手の甲はティアレシアの爪が喰い込んで血が出ていた。しかし、これ以上の痛みにティアレシアは耐えているのだ。ルディは懸命にティアレシアを励まし続ける。

 そして―――。


「んぎゃあっ……!」


 大きな赤子の鳴き声が、部屋に響いた。

 カルロが赤子を抱き上げ、キャシーがお湯で小さな身体を拭いている。

 ここに今、新しい命が誕生した。ティアレシアとルディの、愛の結晶である愛しい子が。

「ティアレシア様がおっしゃっていた通り、女の子です」

 ふぎゃあ、とまだ泣いている赤子を、カルロはティアレシアの横に寝かせる。

「ふふ、かわいい」

 力なく、しかしほっとしたようにティアレシアは赤子に笑いかける。そして、ルディも生まれてきた子どもの顔を覗き込む。まだしわくちゃの小さな顔は、なんとも言えない表情をしていた。

「シュリーの目元は、なんだかティアに似てるな」

 口元を緩めながらルディが言うと、ティアレシアはそう? と首を傾げる。

「顔立ちはルディに似てる気がするわ。だからきっと、将来は美人になるわね」

「いや、どう見てもティア似だろう。だから絶対美人だな。それにしても、本当によく頑張ったな」

 ルディは愛する妻の額に、そっとキスを落とす。

「ルディがいてくれたから、頑張れたの。それに、早くこの子に会いたかったから」

 ティアレシアはそう言って、シュリーの額にキスをした。愛する妻が、愛する子を抱きしめている図というものは、どうにも心をあたたかくする。

 今までも幸せだと思っていたが、これからはさらに幸せに満ちた日々がやってくるだろう。

 愛する妻子を抱きしめて、ルディはたくさんのキスをした。


 そんな二人の幸せいっぱいのやり取りを微笑ましく見つめ、カルロとキャシーは部屋を出た。


読んでいただきありがとうございました。

いやあ、もうティアレシアがお母さんですよ。そしてルディがお父さん(笑)

どんな家庭になるのか、とても楽しみです。

またその様子も書きたいと思っていますので、待っていてくださると嬉しいです。


奏 舞音


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