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幸せな未来

冬待桜様、リクエストありがとうございました!

希望通りになっているかはどきどきですが、二人はこんな感じです。

楽しんでいただけますように。

よろしくお願いします。

 穏やかな風が、ティアレシアの銀の髪を誘う。今日はとても気分がいい。ティアレシアはあたたかな空気に包まれて、頬を緩めた。

 しかし、その穏やかな空気はすぐにぶち壊されてしまった。


「ティア! 一人で外に出たら駄目だろう!」

 血相を変えてティアレシアの身体を心配するのは、愛する夫ルディだ。正体は悪魔であるのに、今、彼はとんでもない格好をしている。なんと、いつもの黒いスーツの上から白いフリフリのエプロンを付けているのだ。初めてこの姿を見た時は、ティアレシアは笑いを堪えることができなかった。

 懐妊したティアレシアを気遣って、父ジェームスが故郷ジェロンブルクでゆっくりと過ごせるように取り計らってくれた。そのため、今は王宮ではなくバートロム公爵家で身体を第一に生活している。

(きっと、お母様のことがあるから心配してるのね)

 ティアレシアを生んだベルローゼは、産後、体力の低下で亡くなってしまった。だから、ジェームスは子どもができたことを喜ぶ以上に、心配している。そして、ティアレシアは知らないが、ルディはジェームスから出産がいかに危険かを教えられ、妊婦に絶対に無理はさせてはならないと釘をさされている。

 そういう訳で、愛するティアレシアに何かあってはいけない、とルディは何かと必死だった。


「大丈夫か? どこも痛くないか? 苦しくないか? つわりはどうだ?」

 ルディは壊れ物を扱うようにそっと、ティアレシアに触れてくる。

「もう、ずっと家の中にいてもつまらないじゃない。少しくらい外の空気を吸わないと、この子のためにも良くないわ」

 ぷうっとむくれて見せると、ルディは眉間にしわを寄せた。

「それもそうだが、黙って外に出るな。頼むから、俺の側にいてくれ」

「……わかったわ」

「よし。じゃあもう中へ入ろう。いくら暖かいからって外に長時間いるのは良くない。また領民たちが果物をくれてるから、それを食べよう」

 長時間、といっても、ほんの数分だ。ティアレシアは心配症な夫に呆れながらも、胸にはじんわり幸せが広がっていた。


 陽のあたる窓辺で、ティアレシアは林檎を口にしていた。それも、白いエプロンをつけたルディが一生懸命剥いた、一口サイズの林檎を。

「ねぇルディ。私、自分で剥けるわ。病人じゃないのよ?」

 ルディは何でもできる万能悪魔だと思っていたが、林檎を剥くのは苦手らしい。手の平サイズの林檎を剥いていたはずなのに、いつの間にか親指サイズになっている。ティアレシアのために、と世話を焼いてくれるのは嬉しいのだが、これはこれで心配になってくる。

「もし果物用ナイフで指を切ったらどうする? 子どもがびっくりするだろ」

「でも……」

「こういう時くらい、俺に甘えろ。子どもを産むことができない代わりに、俺はティアのために何かしたいんだ」

「……ありがとう」

 真剣なルディの瞳に、ティアレシアは目頭が熱くなる。子どもを産む、という未知の恐怖に脅えている自分がいることをルディは分かってくれている。だからこそ、ティアレシアが困るぐらい、呆れるぐらい、側にいて何かと世話を焼こうとするのだ。

「ほら、あ~ん」

 漆黒の悪魔が、子供にするようにティアレシアの口に林檎を食べさせる。こんな光景、なかなか見られるものではない。ティアレシアはもう拒絶することもバカバカしく思えて、受け入れる。

「ん、おいしいっ」

 シャクっという触感と、口に広がる甘酸っぱい風味。ティアレシアは林檎のおいしさに自然と頬を緩めた。

「じゃあ俺も」

 そう言って、ルディはティアレシアの唇に優しいキスを落とす。妊娠したことを伝えてから、ルディは優し過ぎるくらい優しいキスをするようになった。今までの、情熱的に求めるようなものではなく、本当に甘く心地よいキス。ティアレシアの身体を気遣ってのことだとは分かっているが、なんだか物足りない。そんな思いが顔に出ていたのか、ルディがにやりと笑う。

「なんだ、もっと激しくしてほしいのか?」

 わざわざそんなことを聞かないでほしい。誰のせいでそうなったと思っているのだ。そんな抗議の視線を向けるが、ルディはティアレシアの頬や額に軽くキスを落とすだけだ。

「俺だって我慢してるんだよ。続きは、お前が元気に子どもを産んでからだ」

 ルディの大きな手が、少し膨らんだティアレシアのお腹に触れた。優しく、包み込むような手の動きに、幸せすぎてティアレシアの目からは涙がこぼれてきた。そんなティアレシアの涙を、ルディが舐めとる。ルディのぬくもりに包まれて、ティアレシアは妊娠したと分かった時から抱いていた想いを口にした。

「……私ね、この子は女の子だと思うの」

 お腹に触れるルディの手に自分の手を重ねながら、ティアレシアは言った。

「女か……ティアみたいな美人になるだろうな。変な男に捕まらないように見張ってねぇと」

 ティアレシアの予感を疑うことなく、ルディはもうすでに娘に近づく男の心配をしている。なんだかおかしくなって、ティアレシアはくすりと笑う。

「何がおかしい? 重大な問題だぞ。俺の可愛い娘に近づく男は俺以上でないと認めん」

「ルディ以上の男なんていないわよ」

「まあ、そうだな」

「でも、そんなこと言ってたら、この子はずっと独身じゃないの」

「他の男に嫁いでいくのを見るくらいなら、俺とティアの側にずっといてくれた方がいい」

 ルディの言い分に、ティアレシアは開いた口が塞がらなかった。その言葉は、そっくり自分に返ってくるとは思わないのだろうか。

「ふふ、まだ産まれてもいないのに、寂しがり屋なパパねぇ」

 ティアレシアは、自分のお腹の中で確かに命を宿している子に語りかける。まだ、はっきりとした胎動を感じることはできないが、ティアレシアは我が子の存在を感じていた。

「もう名前は決めてるの」

「へぇ。なんていうんだ?」

 優しい声音で、ルディがティアレシアを見つめて問うてくる。


「シュリーよ」


 愛を求め、孤独を抱きつづけた姉、シュリーロッド。クリスティアンが憎み、復讐を誓いながらも、愛したかった存在。

「きっとお姉様の魂が生まれ変わって私のところに来てくれているんじゃないかって思うの。もしそうじゃなくても、私はシュリーをお姉様のように孤独の闇に踏み入れさせたりしない。たっぷり、私の全身全霊で愛そうって決めてるの」

 ルディには嫌な顔をされるかも、と心のどこかで脅えていたが、そんな不安はルディの顔を見て吹き飛んだ。そうだな、と頷くルディはとても幸せそうな顔をしていて、ティアレシアの胸をときめかせる。

「俺も、俺のすべてを懸けて二人を愛する。だから、無事に生まれてきてくれよ、シュリー」

 ティアレシアの唇にキスをして、ルディはお腹にも優しいキスを落とした。


 自分が母になるなんて、思ってもみなかった。それも、悪魔との子どもだなんて。

 それでも、こんなにも心が幸せに満ちているのは、全力で愛してくれて、支えてくれるルディがいるからだ。

 復讐を誓ったあの時は諦めていた、幸せな未来。

 自分に宿った小さな命を感じて、自分が本当に新しい人生を歩み始めたのだとティアレシアは改めて実感していた。

 クリスティアンではない、ティアレシアとしての人生。

 新しい家族が増えて、ますますティアレシアの周囲は愛に溢れ、騒がしくなるだろう。

 クリスティアンが夢見た、幸せな家庭をティアレシアがつくるのだ。愛するルディと共に。




読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけましたでしょうか?

ルディはきっと子煩悩なパパになります。そしておそらく息子が生まれたら息子にも嫉妬してティアレシアを困らせることでしょう。

賑やかな家族になりそうです。


ありがとうございました!!


奏 舞音

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