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騎士たちの休日

カクヨムでこの悪キスの連動作を連載中なので、宣伝も兼ねて番外編更新です。

今回は騎士たちが主人公です。

皆様に楽しんでいただけますように!

それでは、番外編よろしくお願いします。

「なあ、ヴァルト。お前、休みなしで働いてるってホントか?」

「そうだが?」

「いや、ジェームス様とティアレシア様が働きすぎだと心配してたぞ」

「別に。休みをもらったとしてもやることがない」

「お前は本当に真面目すぎるな」


 そんな会話が、ブロッキア王国の騎士団長室で繰り広げられていた。

 執務机で書類に目を通して難しい顔をしているのは、王立騎士団長のヴァルト。そして、そんなヴァルトを呆れたように見つめるのは近衛騎士団長のベルゼンツ。二人は、騎士団では同期だった。歳はベルゼンツの方が三つ上の三十二歳。ヴァルトはまだ若いながらも持ち前の正義感と実力で騎士団長に就任した。もちろんその裏には、ヴァルトの父親ゼイレン伯爵の口添えがある。だからこそ、ヴァルトは自分が正しくあろうと必死になっている。世間からみれば、クリスティアン女王を処刑に追い込んだ罪と父親の不正の結果がヴァルトの今の立場だ。しかし、騎士団にいる者ならば、皆ヴァルトが誠実に仕事をしていると理解している。決して、父親の罪の上にあぐらをかいて好き放題している訳ではないと知っている。

 だからこそ、ゼイレン伯爵の罪が暴かれた時、辞任を考えていたヴァルトを国王ジェームスは引き止めた。そして、ヴァルトは今まで以上に仕事にのめり込むようになった。父親が犯した罪を贖うかのように。


「そういうお前こそ、ずっと忙しくして寝ていないだろう」

 ちらり、と目をベルゼンツに向けてヴァルトが言う。

 近衛騎士団長であるベルゼンツは、主に王族の護衛をしている。といっても、国王の護衛には常にブラットリーがついている。ベルゼンツの仕事は、城の警備体勢や人員の配置を考え、騎士団を動かすことだ。城内で何か問題が起きた時も、すぐに動けるようにしていなければならない。また、国想いの国王のために国内で起きている問題などにも注意を払い、地方の騎士から上がってくる報告書すべてに目を通している。そして、必要があれば国王に報告し、自ら視察にでかけたりもする。今までシュリーロッドの下で働いている間は、女王の我儘に付き合わされていたために、そういうまともな仕事ができていなかった。その反動で、ベルゼンツもかなり仕事馬鹿になりかけている。

 そのことを指摘され、ベルゼンツは苦笑を零す。

「それで、忙しいはずのお前がどうしてここにいるんだ」

 ヴァルトが今度こそ書類から顔を上げてベルゼンツを見た。

「それはこっちの台詞だ。俺はお前からの呼び出しだと聞いてここまで来たんだぞ?」

「何だと? 呼び出した覚えなどない」

 二人が訝しげに見つめ合っていると、執務室の扉がバーン! とおもいきり開けられた。そこにいたのは、二人の先輩にあたるフランツとブラットリーだ。


「今日一日、お前達には休みをやろう! ということで、今日は仕事禁止な」


 太陽のような笑みを浮かべて、ブラットリーが言った。

「え、あの、どういうことですか?」

 ベルゼンツが戸惑いつつも問う。突然言われても意味がよく分からない。

「お前達に休むように言っても全く休まないだろう。だから、今回は国王命令で強制的に仕事を取り上げる」

 グっと親指を出して、ブラットリーが明るく笑う。

「ティアレシア様にも心配をかけているんだ。しっかり休んであの方を安心させてやってくれ」

 王女ティアレシア付きの護衛であるフランツが、柔和に微笑む。しかし、その言葉には有無を言わさぬ力があった。

「でも、仕事はまだ残っています! 休む訳には……」

 眉間のしわを深めて、ヴァルトが抗議する。

「ちょ、ブラットリー様がここにいるってことは国王陛下の護衛はどうなっているんですか!」

 ベルゼンツも、慌てた様子で声を上げる。

「心配するな。ジェームス様は今ティアレシア様とルディ様と三人でお茶会中だ。護衛の騎士も数人置いて来たし、何かあってもルディ様がいりゃあ大丈夫だ。それに、ヴァルトが言う残ってる仕事だってお前じゃなくてもできるものばかりだろ」

 ブラットリーの言葉に、二人は返す言葉を失った。たしかに、その通りだった。二人とも、シュリーロッドに仕えていた時代の後悔と罪の意識で、無理に仕事をしようとしていた。

「お前たちが確実に休んでいるところを見届けて来い、という命令をティアレシア様から受けてしまってな。俺も早く見届けてティアレシア様のところに帰りたいんだ」

 フランツがティアレシアに騎士としての忠誠心以外の感情を持っていることは、この部屋にいる者皆が知っていた。

 しかし、そんなフランツをからかうようにブラットリーが小突く。


「嘘つけ。フランツはジェシカちゃんに夢中じゃねぇか」

「な、何を言ってるんですか! ジェシカのあれは本気じゃありません!」

 顔を真っ赤にして、フランツが否定する。その様子を見て、ベルゼンツとヴァルトにも悪戯心が湧いてくる。

「フランツ先輩、そういえばこの間ジェシカちゃんに言い寄る男を見かけましたよ」

 というベルゼンツの言葉に、フランツがすぐさま反応した。

「どんな男だ⁉ ジェシカは夢見る乙女だから、変な男に騙されている可能性が……」

「あ、それなら俺も見ましたよ。なんか、ジェシカちゃんも嬉しそうに話してました」

 ヴァルトもベルゼンツの言葉に乗っかる。

「な、何だと! 俺だけだと言っていたのに……」

 後半の言葉はフランツの独り言だったが、まる聞こえだった。

「あ~、そういやジェシカちゃん婚約者候補がけっこういたんだよな」

 フランツの反応を楽しんでいるブラットリーは、さらに追い打ちをかける。

「……元々、ジェシカはお見合いから逃げ出してきたんです。婚約者ぐらいいてもおかしくはないでしょう。ま、そんなこと俺には関係ありませんけど」

 だんだん、フランツはふて腐れてきた。

「おいおい、関係なくはないだろ。お前、ジェシカちゃんの恋人として茶会に参加したんだろ」

「それは! その場しのぎの嘘で……」

「だが、ジェシカちゃんは本気なんだろ?」

「ジェシカは若い。俺よりもいい男がいるはずです」

 いじけたように言うフランツを見て、ベルゼンツとヴァルトは顔を見合わせた。

「フランツ様、俺が見かけたのはあなたと話すジェシカちゃんですよ。とても幸せそうな笑顔でした。きっと、ジェシカちゃんにあんな幸せそうな笑顔をさせられるのはフランツ様だけですよ」

 ヴァルトの言葉に、フランツは目を見開く。

「そうですよ。城で時々見かけて話したりしますけど、ジェシカちゃんが口にするのはほとんど先輩のことですよ」

 ベルゼンツがにっこり微笑む。

「それにな、ジェシカちゃんを呼び捨てにしてるの、お前だけだぞ。お前もジェシカちゃんを意識しているのはバレバレだ。いい加減、素直になったらどうだ?」

 ブラットリーがはっきりと口にして言った。

「それは、その……いえ、無理ですよ。俺はジェシカから見たらおっさんだ」

「そのおっさんを好きだって言ってくれてるんだからいいんじゃねぇの」

 ブラットリーはそう言って、フランツの肩を叩いた。

「他の誰かにとられてもいいのか?」

 クリスティアン様やティアレシア様の時みたいに……フランツは、暗にそう言われた気がした。

「……ジェシカは、誰にも渡したくありません。俺が、側にいたいんです」

 乗せられて、感情的になったフランツはとうとう本音を零した。それを聞いて、ブラットリーは満足そうにうなずいた。

「よし、じゃあこれから皆で飲みに行くぞ! お前達二人の休みとフランツの恋の応援を兼ねてな」


 ブラットリーの勢いに逆らうこともできず、仕事を名残惜しく思いながらもベルゼンツとヴァルトは執務室を出た。



 久しぶりの騎士達の休日は、フランツの恋バナと神経質なヴァルトの愚痴と意外にも酒に弱かったベルゼンツの介抱で過ぎて行った。

 実は後輩三人にハメを外させてやる、という任務を密かに受けていたブラットリーは、久々に見る後輩たちの姿に心からほっとしていた。


読んでいただきありがとうございます。

意外とこの騎士たち仲がいいんです。そしてみんな働き者。ジェームスとティアレシアもまた働き者なので、誰かが休ませてあげなきゃです。そういう意味ではいつもだらけてそうなルディがいてちょうどいいのかも……?

今回はルディ登場しませんでしたが……。きっとティアレシアといちゃついてるでしょう(笑)


そしてですね、

この作品と同じ世界、カザーリオ帝国が舞台の「悪魔の花嫁と蒼き死神」をカクヨムで連載中です。こちらも読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。


ありがとうございました!

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