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愛を知った悪魔の追憶

いつも読んでくださっている方、本当にありがとうございます。

感謝の気持ちを込めて、番外編です。

短めですが、よろしくお願いします。

 目を閉じても、眠れない。眠らない。

 夜が深くなり、部屋は闇に包まれている。それでも、まだ眠る気にはならない。

 ただただ、この腕の内にあるぬくもりを抱きしめる。

 こちらに寄り添う重みが愛おしい。


「んぅ……?」


 少し強く抱きすぎたかもしれない。ルディはティアレシアを包みこむ腕をそっと緩める。

 気持ち良さそうに、安心しきった顔ですやすやと眠るティアレシアを見て、ルディは目を細めた。

 とろり、とあたたかな何かが胸に溢れてくる。

 これが、幸せか。馬鹿みたいに、口元が緩む。

 昔はこんなことなかったのにな、と心中で呟く。



「お前のせいだぞ」


 頬にかかる銀色の髪をはらい、その滑らかな肌に触れる。ティアレシアの桜色のかたちの良い唇に目を奪われ、眠りを妨げないよう、そっとその花唇を塞ぐ。

 少しだけ、眉間にしわを寄せ、寝苦しそうな表情をしていたが、ティアレシアの眠りは深い。

 復讐心だけを糧に生きていた頃は、悪夢にうなされてこんな風に熟睡はしていなかった。それが、自分の腕の中ではこんな無防備な寝顔を晒して、すべてを委ねるように夢の中にいる。ゾクゾクする。それと同時に、その眠りを妨げて、閉じたその眼に自分の姿を映したいとも思う。


 ――あなたほどの悪魔が一人の人間にご執心ですか。


 封印されていた、今はチャドという名を持つ悪魔の言葉をふと思い出す。

 一人の人間の魂を転生させるなど、並の悪魔にできることではない。


 ルディは、ただの悪魔ではなかった。

 悪魔というよりも、神に近い存在。しかし、悪魔であることに代わりはない。

 ただ、魔王と呼ばれた時代もあっただけのこと。

 一方的に担ぎ上げられたから、魔界を捨てた。執着などなかった。

 魔界は、悪魔が生まれ、生きる場所だ。

 魔力が空気中に漂っていて、魔力の低い悪魔でも生きていける。魔界を出れば、悪魔の魔力は枯渇していく。

 人間が酸素がなければ生きられないように、悪魔は魔力がなければ生きていけない。

 魔界を出ても生きていける悪魔は、ごく少数の高位悪魔だ。

 そして、その高位悪魔の中でも、自分は頂点に立っていた。悪魔にとって重要なのは、魔力の高さだけだった。

 あのチャドとかいう悪魔は、高位悪魔だったようだが、人間の世界に干渉し過ぎてレミーア神の怒りを買い、封印された。ただの馬鹿だ。しかし、チャドはそれだけ執着する何かがあったのだ。世界を手にしたいという馬鹿げた野望を持っていたのだ。ルディとは違って。

 

 心を動かすものなど、何もなかった。

 


「お前に出会えてよかったよ」

 

 ティアレシアの額に口づけを落とし、さらさらの銀髪に手を埋める。


 長い、長い夜をいくら過ごしてきただろう。

 空虚な時間が、無駄に、無意味に過ぎていった。

 高い魔力のせいで死ぬこともなく、ただ在り続けた。魔界と人間界の狭間にある、無の世界で。そしてそこは、あらゆる魂が行き交う場所でもあった。

 通り過ぎていく魂をからかったり、喰ったり、その記憶を覗いたり……しかし、それすら何の暇つぶしにもならなかった。


 ――――強く、激しい憎悪に燃えながらも、純粋な人への愛をも内包した魂を見つけるまでは……。


 人を憎みながらも愛しているなど、矛盾している。裏切られてなお、人を信じたいと願っていた。

面白い、と思った。

 もし、この魂が記憶を保ったまま生まれ変わるとしたら、二度目の人生をどう生きるのか、見てみたいと思った。

 だから、有り余る魔力のほとんどをその魂に捧げた。記憶を覗き、クリスティアンに関係のある家系に生を受ける赤子に転生させた。


「思えばあの時から、俺はお前に魅せられていたのかもしれないな」


 一目惚れをしたのは、クリスティアンの魂。

 そして、恋をし、愛したのはその魂が生まれ変わったティアレシア。


「どれだけ愛を囁いても、どれだけ身体を重ねても、まだ足りない。どうしてだろうな……こんなに何かを求めたいと思ったのは初めてだ」


 魔力をどれだけ持っていても、無意味だと感じていた。

 力を求めたことなどなかった。他者からの羨望も、求めたことはなかった。

 何も、執着するものがなく、何も求めていなかった。

 だから、きっと何にも満たされることがなく、ただただ無意味に時が過ぎていたのだろう。

 執着するものを見つけて、その愛を求めたいと思った時から、自分の中で何かが変わった。


 ティアレシアを愛したことで、世界は変わった。


 たった一人の人間。ただの人間。

 そんなちっぽけな存在に、変えられてしまったのだ――この、悪魔である自分の世界は。

 感情の色を知る度に、ティアレシアを見る度に、ティアレシアに名を呼ばれる度に、自分の世界は輝き、満たされていた。

 そして同時に、もっと、という欲が生まれてくる。満たされても、満たされても、すぐに足りなくなる。ずっと一緒にいても、目の前で愛を囁いていても。

 今までの空虚な時を埋めるように、求めるものもなく乾いた心を潤すように、際限なくティアレシアを愛している。

 こんなルディの心中をティアレシアが知れば、きっと怖がらせてしまうだろう。そして、怒らせてしまうかもしれない。

 ルディの過去を知りたがる彼女に、ルディは何も話していないから。

 話すような過去などない。ティアレシアとの日々の方がよっぽど大切で、濃厚な時間だ。

 だから、何も言わない。

 そして、時々こうやって、眠っているティアレシアに本音を零すのだ。


「かっこ悪い過去なんて、愛する女には知られたくないだろう」


 ちゅっ、と眠る彼女の瞼にキスをする。

 きっと、ティアレシアは幸せな夢を見ている。

 一体、どんな夢だろうか。

 微笑む彼女の夢の中に、自分はいるのだろうか。


「……ん、ルディの、ばか」


 紡がれた寝言は望んでいたようなものではなく、罵倒ではあったが、どういう訳かティアレシアの言葉はルディには甘く聴こえる。


「ったく、どんな夢みてんだ」


 そう言ってにやけたルディの顔は、かつて悪魔の頂点に立っていた男だとは思えないほどに幸せに緩みきっていた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

今回はルディの過去編的なお話でした。

何千年の時を感情を知らずに生きていたルディが、ティアレシアに会って恋を知り、感情を知り、何も知らなかった年月の分の感情すべてティアレシアに注ごうとしています……。ティア大変ですね。ルディの重すぎる愛、受け止めきれますでしょうか。とりあえず、毎日ルディにデレデレのドロドロに甘やかされたり、からかわれたり、喧嘩もしているでしょう。それでも、二人はらぶらぶです。

でももう二人のいちゃらぶはもう十分書いたかなぁとか思いますので、作者的にはフランツを幸せにしてやりたいです。いつまでも叶わぬ恋を想うのもいいですが、やはりフランツにも恋を……と思っていますが、これもまた一筋縄ではいかないでしょう。

またこれからも更新するかと思いますので、どうかよろしくお願いします。


奏 舞音

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