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結婚式前夜

いつも読んでくださる方、本当にありがとうございます。

今回は、作者が結婚式に出席したことで感化されて書きたくなったお話です。

楽しんでいただければ嬉しいです。

 慌ただしい日々がようやく終わる。

 ティアレシアが眠った後で、ルディは溜息を吐いた。

 明日はついに、ティアレシアとの結婚式だ。

 しかし、悪魔であるルディに結婚式に至るまでの日々は非常に面倒だった。結婚式の会場決め、招待客のリストアップ、衣装合わせ、式の段どり……もちろん、ルディは完全にティアレシアやフランツ、バートロム公爵家の侍女たちに任せきりで関わっていない。その度に、ティアレシアには「二人の式なのよ!」と怒鳴られた。立場が公爵令嬢から王女に変わったために、国民へのお披露目まであるらしい。

 ルディはティアレシアと二人で生きられるだけでいい。しかし、人間の場合そうはいかないのだ。二人だけ、なんて狭い世界でティアレシアがティアレシアらしくいられないのなら、ルディが我慢しなければならない。

 めんどくさくて丸投げにしていたが、ティアレシアの怒った顔や嬉しそうな顔、真剣に悩む顔を近くで拝めたのは退屈ではなかった。


「なんであんなに可愛いんだ」


 ティアレシアを思い出し、ルディはふっと口元を緩める。

 ルディがティアレシアを想ってにやけていると、部屋に訪問者がやってきた。



「明日は、とうとう結婚式か」

 訪問者は、ティアレシアの父ジェームスだった。ルディは侍従としてバートロム公爵邸に存在していたので、ジェームスとは使用人としては接したことがある。しかし、ティアレシアの婚約者としてまともに話したことは今まで一度もなかった。

「私は、今まで娘の意志を尊重してきた。だから、今回の結婚についても反対する気はない。だが、ルディ、君はティアレシアを本当に愛しているのか」

 何を話すのかと思えば、やはり娘を預けられる男かどうか最後の確認にきたらしい。

 ルディは真面目な顔をつくって、ジェームスを見据える。

「はい。俺は、ティアレシアのすべてを永遠に愛し抜くつもりです」

 もとより、ルディが愛するのはティアレシアただ一人。この愛がティアレシアを縛り、苦しめてしまう日が来るとしても、ルディはティアレシアを愛することをやめられないだろう。だから、ティアレシアがルディを愛し続けてくれることを願うしかない。ルディがティアレシアを手放す日はきっとないから。

「それを聞いて安心したよ。君の目は驚くほど迷いがない。本当は、少しでも迷ったり、口ごもったりすれば、父親として社会的に抹殺してやることも考えていた……娘には悪いがね」

 愛する者の父親は、優しげな笑顔でとんでもないことを言った。


(父親って怖ぇな……)


 悪魔のルディにとって怖いものなどあまりない。

 しかし、ジェームスの機嫌を損ねたらやばい、と直感した。

 ティアレシアの笑顔を守るためには、ジェームスに認められなければならない。


「ジェームス様、俺は侍従として仕えていた身ですが、ティアレシアを想う気持ちは誰にも負けないつもりです。しかし、俺一人でティアレシアを幸せにできるとは思っていません。彼女は、周囲の人たちを心から愛しています。そして、ジェームス様のことを本当に大切に思っています。だから、俺はティアレシアだけではなく、これからは彼女を支えてくれた人たちも大切にしていきたいと思っています」

 ルディが真剣に紡いだ言葉を聞いて、ジェームスは満足したように笑った。しかし、その目は笑っていない。

「そうか。それならば何故、結婚式の準備をすべてティアレシアに任せているのかな?」

 ジェームスがルディに会いに来た理由はこれだったのだ。ルディはうっと言葉に詰まる。

「……ああいうことは苦手なんです。結婚式の主役は花嫁ですから、彼女の好きなようにさせたいな、と思いまして……」

 結婚式の準備をするよりもティアレシアを見ていたかったから、などとは口が裂けても言えない。

「私とベルローゼの結婚式の時は、二人で一緒に考えていたがな。一生に一度の結婚式だ。その日をどう過ごすのか、二人で悩むこともまた良い思い出になる。ティアレシアは、きっと君とそんな時間を過ごしたかったんじゃないか?」

 ジェームスはその顔からも笑みを消していた。ジェームスの言い分は最もだ。

 長い時を生き過ぎたルディにとって、時間の概念はあまりない。

 しかし、ティアレシアは人間だ。思い出をつくることで、記憶に残すのだ。

 ルディは完全に追い詰められていた。


「俺は、ただ、ティアレシアといられるだけで満足していました……彼女ばかりに負担をかけたのは、本当に申し訳ないと……」

「ふ、すまない。いじめすぎたようだな」

 ルディが珍しくしどろもどろになっていると、ジェームスの含み笑いが耳に届いた。

「娘はたしかに結婚式の準備を君がしないことに文句を言っていたが、その表情も幸せそうだったんだよ。何の準備もしないくせに、自分の側にいてうっとおしいぐらい機嫌をとってくる、とね。その話を聞いて、私は君がうらやましくなって、少し意地悪がしたくなったんだよ」

 にこやかにネタばらしをするジェームスに、ルディは驚きすぎて声が出ない。いつも真面目に仕事をこなし、ふざけたことは滅多に言わないジェームスが意地悪を仕掛けてきた。娘が絡めば、どんな人間もただの父親になるのだ。ルディはなんだかおかしくなって、吹き出した。

「ジェームス様、こんなこともうしないでくださいよ。心臓に悪いですから」

「そうだな。君の行動次第で考えよう」

「それは、下手なことはできませんね」

「なぁに、簡単なことだよ。ティアレシアのことを世界で一番幸せな女にしてくれればいい」

 まったく簡単ではなさそうなことを要求され、ルディは苦笑を漏らす。

「えぇ、努力しますよ。でも、ティアレシアが世界で一番幸せな女なら、俺は世界で一番いい女を手にした最高の男ですね」

 ルディの軽口に、ジェームスは一瞬ぽかんとしていたが、すぐに腹を抱えて笑い出した。

「ふははは、明日の結婚式でだらしない姿でも見せて、ティアに幻滅されてしまえ! この私直々に花婿を潰してやろう!」

 そうして、ルディはジェームスとはじめて酒を酌み交わした。


 ◆◇◆◇


 翌日の朝早く、ルディを呼びに来たティアレシアは、とんでもないものを目撃する。

「ちょっと、二人とも何をしているの! 起きて頂戴!」

 愛する父、愛する婚約者が、二人ともグラス片手に床に転がっているのである。

 二人はティアレシアにこっぴどく怒鳴られながらも、ずっとにこにこと幸せそうな笑みを浮かべていた。



いかがでしたでしょうか。

ルディとジェームスを二人きりにしてみたらこうなりました。

とりあえず、二人ともティアレシアが大好きですね。

きっと明るい家庭になると思います!


皆様にも楽しんでいただけているといいのですが。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


奏 舞音

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