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氷撃のカイ・フィリード  作者: 狼花
2章 【青き嶮山 イーヴァン】
47/202

◇旅は道連れなんとやら(4)

 目の前の地面にぽっかりと開いた、巨大な穴。

 周囲に漂う、強い硫黄の匂い。

 僅かに聞こえる、細かな地揺れの音。


「……」


 音が大きくなる、というよりも近づいてくる(・・・・・・)――。


 そして噴き上がる、天を突く巨大な水の柱。


「きゃあっ」

「うっわ」

「おお、すごい」


 あまりの轟音に悲鳴を上げたイリーネとチェリンの隣で、カイがそれなりの感動のこもった声で水柱を見上げた。傍でアスールが団扇片手に微笑む。


「これぞ温泉地といった光景だなあ」



 四人はハサンの街からオスト街道を南下し、クローツという街を経由して温泉地タニスへ来ていた。タニスの街はオスト街道からは外れた山間地だが、さすが行楽地ということで人が多い。イーヴァン人だけでなく、フローレンツやサレイユのヒト、さらにはもっと肌の色の濃い黒人まで見受けられた。彼らは南西の砂漠国家、ケクラコクマ王国のヒトだそうだ。


 温泉はイーヴァン王国における数少ない観光業だ。イーヴァン国内には、文字通り「掃いて捨てるほど」鉄資源や木材が豊富だ。この国の経済はそういった資源の輸出によって成り立っており、観光業は副次的要素になっている。

 ちなみにアスールの故郷サレイユ王国は、イーヴァンとは逆で観光業によって経済を回しているのだという。だからあちこちに行楽地があり、どの街も非常ににぎやかな反面、資源に乏しい。それらはすべてイーヴァンからの輸入でやりくりしている。


 そんなアスールによる社会の勉強をしながら、四人は名物のひとつ、タニスの間欠泉(かんけつせん)を見物に来たのだ。

 ここの間欠泉は数が多く、しかも今現在も活発に噴き上がる。柵があって近づくことはできないが、距離はあってもかなりの迫力だ。湯の温かな匂いや湯気が届くころには間欠泉も沈静化し、周囲にいる人々はもう一度噴き上がるのを今か今かと待ち構えている。


「すごいですねっ、どうしたらあんなに大量のお湯が勝手に噴き上がるんでしょう?」

「どうなんですか、アスール先生」


 イリーネの素朴な疑問を、カイはアスールに丸投げする。


「さて、私も専門家ではないからな」

「あたしたちも専門的な説明は求めてないわよ」

「するとチェリン姫も私の説明が聞きたいのか? ふふふ、ならばこうしよう、君も一度私のことを『先生』と――」

「聞きたくない」


 きっぱりと拒否したチェリンがそっぽを向く。アスールはどういうわけか少し嬉しそうに笑いながら、「地熱によって温められた地下水の水蒸気がどっかーんとなるのだよ」と簡単に説明してくれた。「そっか、どっかーんか」などと素直に納得しているカイに溜息をついたチェリンが三人を振り返る。


「ほら、見るものは見たんだから、温泉とやらに行きましょうよ。一日歩き通しで疲れたわ」

「でもチェリン、割と感動してませんでした?」


 イリーネの指摘にチェリンが言葉を詰まらせた。同じセリフをアスールが言ったのなら問答無用で足を踏みに行っていただろうが、チェリンはイリーネにそこまで強く当たれないのである。

 アスールも空を見上げ、太陽の眩しさに目を細めた。もうすぐ日が西の山に沈んでいく。夕日が目に眩しかった。


「時間も良い頃合いだな。それでは行くとしようか」


 歩きはじめたアスールの後を女性二人が追いかけ、最後尾をカイがぽてぽてと歩いてついていく。すっかり口数が少ないのは暑さにやられたせいだ。最初こそ心配したが、喋らないのは余計な体力を使わないためなのだとか。しっかり歩くし、食欲は十分すぎるほどある。



 タニスは国内のほぼ中央にそびえる、ラッタという小規模な山の東の麓につくられた街だ。先程の間欠泉はそのラッタ山中で見ることができ、見物場から十分も山道を下ればそこが温泉街となっている。

 木造の建物がずらりと並ぶ街並みには温かみがあって、あちこちから観光客を呼び込む声が聞こえてくる。飲食物を売る店が多いが、中には木彫りの人形や織物、装飾品の店もある。


「すごい、楽しそう! ね、イリーネ、あとでゆっくり来てみない?」

「はい!」


 いつの間にか先導役のアスールを追い抜かして、楽しそうに店を見ている女子二人の様子を、アスールはしみじみと眺めている。


「本当に、文字通り目が輝いているな……目に優しいな、女の子がふたりではしゃいでいる姿というのは」

「うん。俺じゃああはできない」

「お前が目を輝かせて笑っていたら、ぞっとするんだがな。……ああ、ふたりとも、そこの角を右だ」


 夢中になって直進しそうになったイリーネとチェリンに、アスールが慌てて指示を出しながら小走りに駆けだした。

 その後ろ姿を見て、カイは小さく笑みを漏らす。――なんだかんだ、アスールもいい歳こいて楽しんでいるではないか。イリーネとチェリンがあんなに楽しそうな姿も、カイは初めて見た。


「……みんな楽しそうで、何より」


 そんなことを呟きながら、横合いから差し出された試食用の温泉まんじゅうを悪びれずに受け取り、一足先にカイは温泉の味を堪能していた。





★☆





 到着したのは、温泉街を抜けた先にある巨大な建物だった。入り口の看板には『湯』の一文字がでかでかと掲げられ、存在感は抜群だ。

 のれんをくぐると、こもった熱気が一気に身体にまとわりついた。カイなどそれだけで息苦しそうな顔をしたが、アスールはやはりこんな時でも爽やかだ。三人に靴を脱ぐよう言って室内に上がり、フロントの女性に四人分まとめて代金を払っている。

 靴を壁際の収納にしまいながら、イリーネはぐるっと建物の中を見回す。高い天井に真っ平らな床、ど真ん中に置かれたフロントテーブル。部屋の右側には売店が出ていて、左側には椅子が置かれている。中央奥には赤いのれんと青いのれんが垂れるふたつの廊下がある。女湯と男湯だ。


 戻ってきたアスールが、イリーネとチェリンに向けて女湯を指差した。


「受け付けは済ませたから、姫君たちは女湯へどうぞ。入ってからのことは……まあ、周りを見てうまくやってくれたまえ」


 ふたりが頷いたところで、壁に視線を送っていたカイが不意に口を開いた。


「アスール、露天風呂って何?」


 カイが見たのは壁に掲示されていた張り紙だ。そこに露天風呂という文字が書かれている。この風呂屋の宣伝らしい。


「ああ、外に浴槽があるのだ」

「外!?」


 チェリンがぎょっとして声をあげる。アスールはからからと笑った。


「目の前にラッタ山を見て、風にあたりながら湯に浸かる。最高だぞ」


 さあ行った行った、とアスールに背を押されて、イリーネとチェリンは女湯へ突っ込まれたのである。





 湯煙というのは、これほどまでに視界を奪うものなのかとイリーネは愕然とした。それくらい浴室内には湯気が充満していて、視力の良いはずのイリーネもチェリンも、シルエットでしか互いが見えないほどだ。

 身体を洗ってから、いざ浴槽へ。恐る恐る爪先をつけてみると、その熱さに飛び上がってしまった。チェリンが覚悟を決めて肩まで浸かったのを見て、イリーネも頑張って同じようにしてみる。猛烈に腕や背中が『チカチカ』したのだが、慣れてしまうと意外に気持ちいい。数分もすれば、ふたりは浴槽の縁に身体を預けて広々と風呂を堪能していた。


「はー、こりゃいいわー」


 すっかりリラックスしたチェリンがそう言った。まったく同感なのだが、ちょっとその言い方はおばさんくさいのでは――なんて思っていると、浴室の奥の方に扉があることに気付いた。目を凝らしてみると、外へ出る扉らしい。あれがアスールの言っていた露天風呂だろうか。


「チェリン、外行ってみません?」

「ああ、露天風呂だっけ? いいわよ、行ってみましょ」


 湯から上がってタイル張りの室内を歩き、扉のもとへ。扉を開けると、冷たい風が吹き込んできて思わず身を竦める。夏でも夜の空気は寒い――というより、四十何度のお湯に浸かっていたすぐ後では外気は寒すぎるのだ。

 外は庭園のようになっていた。背の低い生垣に周りを囲まれて、正面にはラッタ山。少し身を乗り出してみると、下は川が流れていた。そんな風景を眺めながら浸かる、お風呂。


「確かに開放感あっていいわね、これは」


 チェリンは満足そうだ。ふたり並んで石造りの浴槽に座る。あの湯煙がよく室内より薄いために、周りの景色もよく見える。隣にいるチェリンは手足が細くて長くて、スタイルが本当に綺麗だ。羨ましいというより、素直にすごいなあと思える抜群の肢体――。


 イリーネが束の間チェリンを見ていたことにも気づかず、チェリンは「あっ」と顔を上げた。彼女が見ているのは、右手にある一際大きな木の柵だ。


「どうしたんです?」

「あの柵の向こう、男湯みたいよ」

「あ、そうだったんですね」


 確かに対称的な造りの建物だったから、そういうことになるだろう。……ということはあの木の柵の向こうに男の人たちがいて、中には耳の良い化身族も目の良い化身族もいるということだ。

 木の柵に隙間とかないと良いのだが、と内心で思う。


「そういえば、ふたりはどうしているんでしょうね?」

「あの変態紳士は長風呂タイプよ。絶対ひとりで一時間くらい平気で浸かってるわ」

「そ、そうなんでしょうか」


 チェリンの根拠のない断言に、イリーネが苦笑する。透明なお湯を掌で掬い上げながらチェリンは続けた。


「カイは暑い暑い言って騒いでるんじゃない? もう上がってたりしてね」

「入る前からぐったりしてましたしね――……」


 イリーネの言葉は途中で吸い込まれるように消えた。遠くから――というより、あの木の柵の向こうから、聞き慣れた声がしてきたのだ。



『――熱ッ、熱い熱い熱いッ!? なにっ、これヒトを茹で殺す気!?』

『お、落ちつけ、暴れるな! 沸騰はしていないから平気――って、おい、うわっ!?』



 続いて盛大に響く、水の音。

 まるでそれは、ふたりのヒトがもんどりうって浴槽に落ちたかのような――。


「……」


 木の柵の向こうで何が起きたのか、なぜか分かってしまったイリーネが、黙っているチェリンに顔を向ける。


「チェリン……あの」

「しっ、駄目よイリーネ。こういう時は他人の振りをするのがいいの」

「は、はい……」


 とりあえず、熱いと絶叫していたカイが浴槽に頭から落ちてどうなったかは、考えないことにした。





★☆





 風呂から上がってフロントに戻ると、すでにカイとアスールは一足先に待っていた。――というより、ギブアップしたカイにアスールが付き添っている形だ。ベンチに仰向けに寝ているカイを、団扇でぱたぱたとアスールがあおいでいる。アスールはイリーネとチェリンを見つけて微笑んだ。


「やあ、姫君たち。どうだった、初めての温泉は?」

「ちょっと熱かったけど、気持ち良かったです!」

「それは良かった。まったく、情けないと思わないのかね?」


 呆れたように声をかけられ、寝ていたカイはむっくりと身体を起こした。憔悴状態だ。


「大丈夫ですか、カイ?」

「うん、ちょっとのぼせただけ……」

「あれだけ盛大に湯船に落ちればな」


 ぼそりと呟いたアスールの言葉に、ついイリーネも笑ってしまう。それを見てカイが首を傾げた。


「もしかして、聞こえてた?」

「ええっと……私たちもその時、外にいたので」

「……うわ」


 ただでさえ上気していたカイの頬が、さらに赤くなったような気がしたのは――おそらく、気のせいだ。だって、カイが恥ずかしがる? そんなことがあり得るのだろうか。

 しかしまあ、あれだけ熱いだの茹で殺されるだのと騒いでいるのは、傍目から見ると恥ずかしいのだが。


 団扇をカイに渡したアスールが立ち上がる。


「さて、飲み物でも買って来よう。何が良い?」

「あたしは水でいいわよ」


 チェリンが気を利かせたのか本当に水が良いのか、そう要求する。だがアスールはにっこりと笑う。


「却下」

「なんで?」

「風呂上りは瓶牛乳と相場が決まっているのだよ!」

「んなの知るかっ」

「そういうわけでこの場合の選択肢は、牛乳かコーヒー牛乳かフルーツ牛乳の三択だ。どれがいい?」


 選択肢をしぼられたチェリンは渋い顔をして、コーヒー牛乳を選んだ。さすが大人っぽい、と感動しながらイリーネも同じものを頼む。これは単純に、飲んだことがなかったからである。

 カイはといえばフルーツ牛乳を選んで、「女子か!」と盛大に突っ込まれていた。アスールは笑いながら売店へと歩いていく。


 団扇でカイを涼ませながらアスールの戻りを待っていると、男湯ののれんをくぐって出てくる人々の中にひとり、見覚えのある顔を見つけた。「あ」とイリーネが声をあげるのと同時に向こうも気づいたらしく、ぎょっとして飛び上がっている。


「な、な、なんでここに……」


 声が裏返ってしまっている、その少年。声を聞いてカイとチェリンも気づいたようだ。


「あらら、お久しぶり」

「なんかどっかで見たことあるわね、そのちびっこいの」


 ハンターの少年、アーヴィンだった。

 いつもなら威勢よく「見つけたぞ、【氷撃】!」と大声をあげるアーヴィンだったが、今日はばつが悪そうに近寄ってくる。話すには少々距離があるが、それでもデュエルを挑むつもりはないようだ。


 彼も風呂に入っていたようで、癖のある金髪はこのときだけ真っ直ぐに整っていた。そうして見ると目鼻立ちの整った可愛らしい顔だ。『可愛らしい』という形容詞は、おそらく十六歳の少年なら反発するであろうが仕方がない。


「俺を追いかけてきた――ってわけじゃなさそうだね」

「ぐ、偶然、たまたまだ! 今日は別に、デュエルする気もない」


 イリーネは首を傾げた。いつも一緒にいたはずの鷹のエルケ――おそらくいまは人間の姿をとっているのだろうが、彼がいないのだ。


「エルケはいないんですか?」

「まだ風呂だよ。あいつはいつも長風呂なんだ」

「ここにはよく来るんですね」

「うん、温泉って割と気に入ってるんだ。最近は戦いと移動ばっかりだったから、エルケも休ませてあげようと思って……」


 それを聞いていたカイがぽつりと呟く。


「それって湯治?」

「湯治じゃない! ただの気分転換だっ」


 イリーネ相手だと嬉しそうにぺらぺら喋るアーヴィンだったが、カイ――というよりイリーネ以外――には噛みつかんばかりの勢いだ。

 エルケがどんなヒトなのか興味があっただけに、姿を見ることができないのは少し残念だ。チェリンはといえば、この三人の妙な関係についてよく分からないという表情で沈黙している。確かに、本来は敵というかライバル同士ではあるが、このときはやけに両者とも和んでいたのである。


 アーヴィンという少年は、デュエルをする気がないときはとことん穏やかなのだ。悪い子ではないし、優しいし常識的。どこにでもいそうな、ごく普通の少年でしかない。


 そのとき、突如後ろからアーヴィンのうなじに牛乳瓶が押し付けられた。冷たさに「うわあっ!?」と悲鳴を上げてアーヴィンは飛び上がる。

 少年に古典的ないたずらを仕掛けたのは、勿論アスールだった。


「あ、あんたは、確か前にどっかで……」

「おや、どこかで見た覚えのある少年だと思ったら誰だったかな」


 ふたりが顔を合わせたのは、数日前のニムで会った際にほんの数十秒だけのことだ。それでも両者とも『なんかこんな奴がいた気がする』程度には印象に残っていたらしい。うろ覚えもすぎる台詞をふたりで口にして、二人そろって沈黙する。

 アスールは顎をつまんでしばし考え込み、それから「ああ」と思い出したように顔を上げた。


「姫君の友達のエルケくんだったかな?」

「違うっ、それは僕の相棒だ!」

「おっと、そいつは失礼。アーヴィンくんだったな、はっはっは」

「わざとだろ、絶対わざとだろ!」


 早速アスールに遊ばれているアーヴィンを見ながら、カイが小声で「そうだった」と呟いた。それが聞こえたのはイリーネだけだったようだ。


「どうしたんですか?」

「いや、あの子の名前なんだっけって思ってたんだけどね。そういえばアーヴィンだったね」

「あ、はは……」


 本人に聞こえていなくて良かった、とイリーネは心底思う。


 アスールは笑いながら、アーヴィンの手の中に今しがた彼を冷却した牛乳瓶を落とした。思わず受け取ってしまって目を白黒させる少年をよそに、アスールは腕に抱えていた残りの各種牛乳を仲間たちに分配していく。


「……あ、あの、これ?」

「私はどうも算数が苦手でな、ひとつ多く買ってしまったのさ。良ければもらってやってくれ」


 もはや算数が苦手どころではない気がするのだが、ともかくアスールは牛乳を五本購入してきたのだ。アーヴィンは照れたように俯き、ぼそぼそと礼を言ったのだった。

 こういう時は一気飲みが定石だとアスールに言われたので努力はしてみたのだが、イリーネでは息が続かない。「やるだけ無駄よ、ほら」とチェリンが指差した先で、カイが舐めるようにフルーツ牛乳を飲んでいる。ちびちびと晩酌しているようにすら見えてしまうからおかしなものだ。


「じゃ、じゃあ僕行くから。これ、ありがと」


 牛乳を飲み干したアーヴィンはそう言ってそそくさとその場を離れ、丁寧に瓶を返却してから風呂屋を出て行った。エルケを待たなくていいのかと思いはしたが、アーヴィンにはアーヴィンの理由があるのだろう。特に声をかけることもなく、イリーネたちは少年を見送った。


 四人分の瓶を返却してチェリンが戻ってきたところで、アスールが女性陣を見やる。


「姫君たちはこのあと街を見て回るんだったかな?」

「はい。……って、ふたりは行かないんですか?」


 てっきり一緒に見て回ると思っていたのだが、アスールの口ぶりだとそうではなさそうだ。アスールは苦笑した。


「せっかくの女性同士の時間なのだ、我々は宿に戻っているよ。何より、この犬っころが今にも寝てしまいそうだしな」


 犬っころ呼ばわりされたカイは――いつも眠そうな目をしているので何とも言えない。だが、長い付き合いだというアスールが言うなら、多分そうなのだろう。


「じゃあ、お土産買って帰りますね。お夕飯までには戻ります」

「ああ、楽しんでくると良い」

「行ってらっしゃーい」


 アスールとカイに見送られて、イリーネとチェリンは風呂屋を出た。外は良い感じに薄暗くなっている。温泉街は灯りに満ちていて、こんな時間に外で遊ぶなど初めてのことだ。それだけで隣に頼もしいチェリンがいてくれるし、無性にわくわくした。


「チェリン、最初どこ行きます?」

「ふふふ、手当たり次第よ!」

「さすがです!」


 とりあえずふたりとも、温泉街の活気に多少なり酔っていたのである。

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