第七十話 さらば、ジャンボ・テレジア
ズルと反則をしていたシスター・ジャンボ・テレジアが追放され、何故か俺が キリスト教シスター方式の呪いの言葉をかけられる話です。
俺の隣で、クソ女が落ち込んでいる。名前は、ジャンボ・テレジアと呼ばれていた。しかし使える医師の手によって、名字は横山だと ジャンボ・テレジアが、頑なに秘密にしていた名が判明した。ちなみに此処は、児童養護施設 東京サレジオ学園。医師たちの用意してくれた車で、先程 到着した。そして、俺の名は、東 清二。小平市立第三小学校の二年生になった。重症だったお尻の怪我が治り、気分爽快とまでは言わないが、悪くない気分だ。俺も住んでいる、『ねむの家』という所で、俺に怪我を負わせ いたぶった、小3の熊谷 ツヨシと同じく小3の横山 ケンジの、断罪が行われようとしているところだった。ただ もう夜中だったので、罪と罰は翌日に持ち越しとなった。
「清二、ごめんなさい」と、佐藤シスターに頭を深々と下げられる。佐藤シスターは美人とはいえないが、心根の優しい素敵な女性で 2つの大部屋に分かれて暮らしている『ねむの家』では、俺の暮らしている大部屋の担当だ。俺とも仲が良く、尚且つ普段からお世話になっているので、責める気にはならない。なので「ドンマイ!俺たちは まだガキンチョで、俺に至っては救急車の呼び方さえ知らなかった。なので出来たら、『ねむの家』には1人は大人が居るようにして下さい。園長の村公こと、村上 コウスケ以外で、お願いします。村上 コウスケは、全宇宙で 一番汚れた一番穢れた生き物なので、要りません。俺の人生にも、要りません。どうか、よろしくお願いします」と俺。
「ごめんなさい!『ねむの家』の子に、救急車の呼び方は教えます。でも私じゃ、村上園長を追放することは、出来ないの。清二、こんな役立たずの私で、本当にごめんなさい」と、再び頭を深々と下げる 佐藤シスター。
「はーっ、要る人材ほど 他に行く当てがあって、居なくなるんだよなぁ。最低でも、義務教育課程の終わる15歳まで、村上 コウスケが、俺の人生に存在するのかー。とりあえず佐藤シスターのミスは、『ねむの家』に居なかったことだけなので、そんなに頭を下げて詫びるほどの事でもないですよ。さあ、笑顔になって」と俺。コマネチとちんちんの合体技、「コマネチんちん」と、当時の俺が 新撰組副長 土方歳三の時に編み出した、芸をすると やっと佐藤シスターも、笑顔になった。
夕食のあと『ねむの家』の子供たちが、全員集められ まずは、救急車の呼び方をシスターに教わる。俺としても、お金が無くても救急車を呼ぶことができるのは、発見だった。さすが、日本。そして俺のお尻に悲劇をもたらした、俺より先輩の小3の熊谷 ツヨシと小3の番長 横山 ケンジの罪と罰について話し合うことになった。ちなみに、『ねむの家』で暮らす 小1と小2のほとんどが、熊谷もケンジも、『ねむの家』からも東京サレジオ学園からも出て行けというのが、総意みたいだ。
「私は、清二に酷いことをした、子供とはいえ とても人がするような事とは思わない怪我を負わせた、ツヨシとケンジを許そうとは思えません。2人には、『ねむの家』からもサレジオからも、出て行ってもらいます。清二、それでいいですね?」と佐藤シスター。
「うん、もう既に『ねむの家』の空気感が、熊谷とケンジに出て行けという感じだけど、次に同じような事をされたら、俺は戦う。俺なら、戦える。なので、熊谷とケンジが居なくなるか、それとも名字の判明した ジャンボ・テレジアが居なくなるかを、決めてほしい。幸い 重症だった俺のお尻も、使える医師の手で治ったし、俺のお尻が臭いのは事実だしね。だから 園長の村公とでも話し合って決めてくれ。出来れば、俺としては、園長の村公こと村上 コウスケが、東京サレジオ学園から居なくなるのが一番いいけどね」と俺。
「フフッ笑。清二は、やっぱり清二ね。それと清二、シスター・テレジアの名字が分かったって本当?私にも、秘密にしているの」と佐藤シスター。
「うん、ここ『ねむの家』に居る 一番太っちょと、同じ名字だ。だろうと思ってたんだよな。性格も身体つきも浅黒さも、同じなんだよな」と俺。
「フフッ笑。そのヒントで、名字が分かったわ」と佐藤シスター。
「ひがしきー、もうそれ以上 話すなよ…」と、震えた声で ジャンボ・テレジアの息子であろう、横山 ケンジが言う。
「オレは、こんなところ出て行くのは構わないけど、きよじの怪我の主犯は、ケンジだぞ。オレは、途中からは止めたぞ。それとケンジ!ジャンボ・テレジア、お前の母親なのか!?そんなもん、ズルイだろ!」と熊谷がキレる。
「じゃあ ツヨシとケンジが居なくなるか、シスター・テレジアが居なくなるかは、私たちと園長や神父様たちと、話し合って決めます」と佐藤シスター。結論は、後日へ持ち越しとなった。
後日、俺が 佐藤シスターと、三宅シスターと一緒に食堂で、いつもの様に大量の皿洗いをしていると、小さく小さくなったジャンボ・テレジアが震えながらやって来た。そして俺に向かって「お願いがあります」と、弱々しい声で言う。
「今、皿洗い中だ」と俺が言うと、「何で今日に限って、皿洗いをしているの」とジャンボ・テレジアが言う。
「ジャンボ・横山・テレジアは、日曜日しか『ねむの家』のガキンチョどもを担当してないから知らねえだろうけど、俺は毎日 数十人分の皿洗いをしてるんだよ。佐藤シスターの手伝いでな。皿洗いが終わるまで、三宅シスターとでも、話し合っとけ」と俺。
すると、皿洗いをしようとしない 三宅シスターとジャンボ・テレジアは、無言で食堂の椅子に座っている。性格の悪い者同士、どうやら仲が悪いみたいだ。ただ 俺の知ったこっちゃないので、俺は洗い終わった皿を拭き、棚へと戻していく。そして、いつもの数十人分の皿洗いが終わる。
「で?ジャンボ・テレジア、聞く気はないけど、お願いって何だ?」と俺。
「大人たちで話し合った結果、東京サレジオ学園から ツヨシとケンジが居なくなるか、私が居なくなるか という話になってしまいました。私としては、ツヨシが居なくなるだけで、済ませたいです。どちらにしろ、当事者で被害に遭われた、きよじに決めさせることになりました」と、ジャンボ・テレジアが言う。いつもは俺を目の敵にして、ケツバットばかりする癖に、こんな時にはお願いだとよ。
「まず、熊谷 ツヨシに関しては、どうでもいい。主犯じゃなくて、共犯だしな。木の枝で俺のケツをえぐり始めたのも、熊谷が止めても 続けたのは、ジャンボ・テレジアの息子で主犯の横山 ケンジだしな。ただ俺としては、次にこんな事になったら、両方まとめて ぶっ飛ばしてやるけどな」と俺。
「待ってください!待ってください!きよじに、そんな思いでいられたら、全部ダメになります。わかりました、正直に白状します。私の名字は横山で、横山 ケンジは私の息子です。お腹を痛めて産んだかわいい息子です。ケンジには、私が付いて居ないとダメです。どうかお願いします」とジャンボ・テレジア。
「そんな事、とっくに知ってたんだよ。身体つきも浅黒さも顔つきも一緒で、系統も似てる。ケンジに聞いたら、もしそうだとしても、誰にも言うなと言われたから、黙ってたんだよ。たかだか、それが事実だと判明しただけだろ。そもそも、俺が何度も 救急車を呼んでくれとお願いしても断った奴のお願いを、何で俺が聞かないといけないんだよ。それじゃ、筋も道理も通らないだろ。大人たちで話し合ったとうり、熊谷とケンジが居なくなるか、ジャンボ・テレジアが居なくなるか、どちらか好きな方を選べ」と俺。
「待って!その2つからだと、選べない…。きよじは、いい子でやさしい子と評判よ。それを見せて」と、急にジャンボ・テレジアが薄気味悪い 猫なで声で言う。
「その評判の子に、ケツバットを大量にした奴はお前だろ。じゃあ、熊谷もケンジも、オマケにジャンボ・テレジアも、ここ東京サレジオ学園から居なくなるで決定!」と俺。
「待ってください!わかりました、私が去ります。シスター佐藤もシスター三宅も、どうかケンジのことをよろしくお願いします」とジャンボ・テレジア。
「断ります。私は、ケンジなんて嫌いです」と三宅シスター。
「私も、暴力だけで生きている ケンジの事など、知りません。それでは、シスターテレジア そう言えば、名字は横山でしたね。横山さん、『ねむの家』からお引取りを。もう東京サレジオ学園の敷地内には、立ち入らないで下さい。いいですね?」と佐藤シスター。
「待ってください!シスター2人がそれじゃ、ケンジの将来が…。じゃあ、きよじに頼みます。ケンジを、ずっと支えてください」とジャンボ・テレジア。
「俺は、憎しみは 永遠に絶対に、忘れないんだよ。じゃあ、最後に遺言を ジャンボ・テレジア」と俺。
ジャンボ・テレジアは、下を見つめ 少し時間を置いて「地獄の業火に焼かれてしまえ」と、腹の底から声を絞り出した。この余りにも憎しみを込めたセリフに、俺は身震いがしたし、三宅シスターも佐藤シスターも、「何でここで、その台詞を!?」と驚いている。キリスト教のシスターに伝わる、呪詛の台詞なんなろう。そして、この日を境に 俺が、ジャンボ・テレジアに会うことはなくなった。
〈確信はないけど多分だけど、ある日 テレビを観ていたら 幻のオリンピックと呼ばれた、バレーボール女子日本代表が、日本のボイコットによってオリンピックに出場しなかった大会があったことを、この数十年後 テレビで俺は知った。そして、その幻のオリンピックのバレーボール女子日本代表のメンバーに、大砲というニックネームの付いていたジャンボ・テレジアの姿があった。相変わらず太っちょで、使いものになっていなかったけどね。東京サレジオ学園には 併設されている、サレジオ中学がある。そこに八木という体育教師が居て、バレーボール部の監督もしている。裏では この八木という監督を、ずから と呼んで、ヤトさんや俺も 嫌いで仲が悪く、バカにしてたけど。そのサレジオ中学バレーボール部に、ジャンボ・テレジアは、溺愛する息子 横山 ケンジを入部させ、ずから の手によって育てて欲しかったのだろう。ただサレジオ中学バレーボール部に、確かに横山 ケンジは入部したし、そもそもそんな計画、俺の知ったこっちゃねえ!そして 俺の人生からも、さらば ジャンボ・テレジア!〉
《もう2017/01/27今現在の俺は、明日が来ることに何の期待もしていない。既に小学生の時に合格していた、巨人とホークスのプロテストも、意味がなかった。今も変わらず、俺の憧れの職業はプロ野球選手だけど、たとえなれたとしてもチームに迷惑がかかる。諸悪の根源で全宇宙の支配者 クソ大和田を完全にぶっ消さないと、俺にも俺に関わる人たちも、クソ大和田と大和田の側の人間たちによって、最悪な災厄がもたらされる。村公の立てた作戦が全て成功し、俺は自分の側の人間たちにも 会えなくされ、大和田の望み通り 落ちぶれ不幸になった。ただしその結果、日本のみならず世界中が、不幸になってめちゃくちゃになって 糞まみれになった。まあ、いいさ。長くてあと15年、耐え凌ぐのみさ》
こうして 児童養護施設 東京サレジオ学園 ねむの家から、ジャンボ・テレジアが居なくなった。そしてその巧妙か、サレジオの子供がシスターから、プラスチック製のバットで、ケツバットをされる事もなくなった。とは言っても、大和田の側の糞野郎の熊谷 ツヨシに横山 ケンジも、東京サレジオ学園に残るのだけど。それと俺と同学年の、小2の大木 茂と、小2のこの頃は名字が鈴木の翼、さらに八木 義光こと ずから も、全宇宙の支配者 クソ大和田の側の糞野郎たちだ。まったく、小2頃のきよじ の先が思いやられる。次回の話は、せっかくケツバットがなくなったのに、枕を使いつつ喧嘩の繰り広げられる、『ねむの家』の話です。さて、どうなることやら。以上。
読んで頂き、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!