第六十一話 入れ替わり ~卒業~
季節は巡り、偉大な番長 ヤトさんが 次の段階に去る、別れの話しです。
俺の名は、東 清二と言います。この漢字で この読み方だと、日本には 俺1人しかいません。この名を、気に入っている訳ではありませんが、一度付いた以上 寿命までは この名です。さて、俺が住んでいるところは、児童養護施設 東京サレジオ学園です。東京の西部 多摩地方にあり、親のいない子 親が育てられない子供が、ほぼほぼ 毎日 喧嘩ばかりをして暮らしています。小学校一年生の俺の通っている学校が、小平市立 第三小学校。男女共学の普通の小学校です。そんな中、季節は巡り 卒業と入学の入れ替わりの時期を迎えた。
東京サレジオ学園にある、ねむの家。そこには 小学校一年生から小学校三年生までが収容されていて、2人のキリスト教の修道女 シスターと呼ばれる女性たちが、子供たちの世話をしている。ねむの家には 大部屋が二つあり、俺や 小3の番長 通称ヤトさんは、佐藤シスターの担当している部屋で暮らしていた。ヤトさんは番長だけあって、すぐに暴れるので、そのせいか 佐藤シスターをやきもきさせている。ただ 大人嫌いな ヤトさんも、佐藤シスターの言うことには耳を傾ける。そして そんなヤトさんも、ねむの家を出て、上級生ばかりの別の家へと行かなくてはならない。
児童養護施設 東京サレジオ学園敷地内には、『ねむの家』の他に 小学校四年生から中学校三年生までが収容されている、別の家がある。そのそれぞれの家には、植物の木の名前がついていて、漢字は忘れたけど『シイの家』『ブナの家』『にれの家』『とちの家』『くすの家』とある。そして 一番厄介なのが、主に高校生が収容されている『ユズリハの家』だ。ずっと喧嘩ばかりして育つ、サレジオの子の高校生バージョン。小学校低学年の子供には、『ユズリハの家』の高校生たちは、もはや恐怖だけしかない。そんな上級生達ばかりいる家に、新しく小学校四年生になる、サイトウ ハヤト君や 山崎 クニオ君や 横山 ヒロユキ君が、進むことになる。
じゃあ、 誰がどこの家に進むのかを決めるのが、誰かというと 東京サレジオ学園の園長で、神父もしている 村公の1人 村上 コウスケだ。この4人いる 村公の1人 村上 コウスケは、俺の宿敵 全宇宙の支配者 クソ大和田の親友らしい。このクソ神父 村上 コウスケは、いつも沈黙し 子供は誰も寄り付かず、神父と園長のくせして 『ねむの家』のシスター 三宅シスターと肉体関係を持ち続け、厄介なことに エイズウイルスの保有者でもある。そんな奴が、三宅シスターと情を通じ、その三宅シスターが子供たちの世話をしている。エイズが移らない保証なんてない。大部屋が二つある『ねむの家』の俺や ヤトさんの居る部屋の担当は、佐藤シスターなので、俺は何ともないけど。
そんで どこの家に進むのかを、村上 コウスケが決める事になり、ヤトさん クニオ君 ヒロユキ君と、クソ神父 村上 コウスケと話し合う機会がもたれた。ヤトさんは、たまに話したかと思ったら 上からものを言う 村上 コウスケが大嫌いなので、いつもより恐い顔をしている。1人ずつ村公の居る小部屋に呼ばれ、『ねむの家』から どこの家に進むのかを伝えられるみたいだ。
「清二、村上はクソだな」と、小部屋から出て来るなり そうヤトさんが、吐き捨てた。
「はい。ヤトさんは、どの家に行くのですか?」と俺。
「『しいの家』だとよ。俺は すぐに暴れるから、神父見習いの寮長の居るとこに行けだとか」とヤトさん。何だか 悲しそうな顔をしている。
「うーん、ヤトさんは喧嘩が強いので あんまり心配してはいないですけど、もっと心配なのが クニオ君です。ただでさえ いじめられっ子なのに、小4から中3までの上級生がわんさかいるところに、1人で行かなければならない。確実にいじめのターゲットにされますし、いじめ止まりで済めばいいのですけど」と俺。
するとクニオ君が、クソ園長 村上 コウスケの居る 小部屋から出て来た。
「あっ、こんなところに 清二がいた。げっ、ヤトも、居る。清二ー!俺の行く家は『とちの家』に決まったぞー!これで学校は ともかく、家では ヤトにいじめられなくて済むぞー」と、のんきに ヤトさんのいるところで、クニオ君が言う。
「クニオ君…。何で ヤトさんのいるところで、そのセリフを…。クニオ君、確かに『とちの家』には ヤトさんは いないですけど、もしかしたら ヤトさんより恐い 上級生が、いっぱい居るかもしれませんよ」と俺。
すると、クニオ君は ヤトさんに、ヘッドロックを喰らう。
「げっ、そうなのか?ヤト!ギブ!ギブアップ」とクニオ君。
クニオ君は、ヤトさんのヘッドロックから逃れ、俺の後ろに隠れる。
「じゃあ クニオ君はともかく、ヤトさんは 俺たちの大部屋を担当していた佐藤シスターに、お別れの挨拶をしてきてください。お世話にも なったし、ヤトさんが唯一 心を開く大人ですからね」と俺。
「ああ、分かった。ただし 人質として、清二も付いて来い」とヤトさん。
「清二、どんまい。骨は、拾ってやるからな」とクニオ君。
「もう しょうもない先輩方、『しいの家』や『とちの家』に進むのじゃなく、とっとと この東京サレジオ学園を、卒園してください」と俺。
ヤトさんに 首根っこ捕まれ、自分たちの大部屋に戻る。ヤトさんには「逃げたら、頭に拳骨だからな」と言われたので、「ヤトさんの拳骨に負けない頭突きで、勝負します」と、伝えておいた。
佐藤シスターの担当する大部屋には、目に一杯涙を貯めた 佐藤シスターが居た。小3の番長で、手のかかる暴れん坊のヤトさんでも、居なくなると佐藤シスターも 寂しくなって涙を流すのだなと、発見した。ヤトさんは、動じてないが。
「ハヤト!元気でね。あんまり 暴れちゃダメよ。先輩だらけの『しいの家』に、行くのだから」と、涙をこらえ 佐藤シスターが言う。
「ああ。世話になりました!」とヤトさんが、頭を下げた。俺は、ヤトさんが頭を下げたのを、初めて見た。
「ヤトさん、お元気で。もう『ねむの家』に、二度と顔を出さないでください。『ねむの家』の子が、怯えるので」と冗談めかして、俺が言う。すると ヤトさんの渾身のローキックが、俺のケツに。本当に痛い。
「今のは、清二が悪いわよ」と佐藤シスター。涙は目に溜まっているが、佐藤シスターが笑顔になった。
「おっ、清二を蹴ったら、佐藤シスターが笑った。なかなか、いいな。よしっ、清二効果と名付けよう」とヤトさん。
「勘弁してください。まだ ケツが痛い」と俺。
ただし、湿っぽい空気じゃなくなったのは、確かだ。その後 それぞれの家へ進む 新四年生は、荷物をまとめ ここ『ねむの家』を卒業した。ちなみにヤトさんは、瀬戸内海の島で 手に入れたお金を、誰にもバレずに『ねむの家』を出て行くことに成功する。さすがの、したたかさを見せつけた。
《東京サレジオ学園。全宇宙の支配者 クソ大和田が、俺を自決させる為に 作ったところ。ここを卒園するまでは、ずっと大和田の掌の上で生きていかなくてはならない。俺には 行きたい場所はあっても、帰る場所がなかった。でも卒園してから 十数年経ち、2016/10/07は 大和田や大和田の側の人間達の 居ない所を見つけた。決して裕福でもなく 幸せでもないし、一人ぼっちだが あとは待つだけだ。俺の宝物 ピノコ・ナディア・哀姫が、会いに来ることを。そして 念能力を手に入れて、全宇宙の支配者 クソ大和田をぶっ消して、復讐を遂げることを。確かなことは、俺は憎しみを忘れはしない》
こうして サイトウ ハヤト君、山崎 クニオ君、横山 ヒロユキ君が、『ねむの家』からそれぞれの家へ進んだ。まぁ それぞれの家と言っても、児童養護施設 東京サレジオ学園の敷地内で、徒歩圏内だけどね。ただ 俺は 通っている小学校が違うので、ほとんど会う機会がなくなる。そして それぞれが、過酷な道を辿る。次回の話は、『ねむの家』を卒業する人がいれば、『ねむの家』に入って来る人もいる。そんなお話の予定です。さて、どうなることやら。以上。
読んでいただき、どうもありがとうございました。宜しければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!