第五十一話 再認識 再確認
記憶を奪われた俺は、東京サレジオ学園 ねむの家の人達を再確認していく話です。
ここは 、東京都の西に位置する多摩地区だ。そこに、 東京サレジオ学園という児童養護施設がある。東京サレジオ学園は、俺が入る前にリニューアルしたから、外観は綺麗だ。外観だけはね。そして、『ねむの家』と呼ばれる所に 小学校一年生から三年生までが暮らしていて、幸か不幸か 小学校一年生の俺も、そこで生きている。何の因果か記憶を一部奪われ、再認識をするところだ。
『ねむの家』で、俺が居て 俺の背後に ヤトさんが居る。ヤトさんとは、小学校三年生の番長で、運動神経も良く喧嘩も強い。俺が、一部記憶を奪われた事を知ったヤトさんは、俺をリトマス試験紙代わりに、『ねむの家』の子供や大人を再確認する事に決めたみたいだ。それに巻き込まれ、今 俺の後ろに ヤトさんがいる。そして、きっと ヤトさんは、いつものように恐い顔をしているのであろう。
俺とヤトさんで、『ねむの家』の大人や子供達の存在を、確かめる。まずは佐藤シスターに、遭遇した。
「佐藤シスター、俺の後ろに 背後霊が…。キリスト教の教えで、退治出来ますか?」と俺。すると、俺の後頭部に ヤトさんの平手打ちが飛ぶ。
「ハヤトっ!そうやって、すぐ 人を打たない!まったく、もう。で、清二とハヤトの2人で どうしたの?」と優しい、佐藤シスター。
「清二、佐藤シスターはどういう人だ?」と、ヤトさん。怒られても、意に介さない。
「佐藤シスターは、絶世の美女。見た目じゃなく、中身はね。優しくて 明るくて、手のかかる子供達の世話も、文句を言わないでテキパキこなす。『ねむの家』のみんなから慕われている、もう恋愛をする気のない 大人の女性です」と俺。
佐藤シスターが「そのとうり」と、まんざらでもない顔をする。
すると ヤトさんが「清二、お前 記憶だけじゃなく 目ん玉も頭も、大丈夫か?」と言う。
結果「今日こそは ハヤトを、怒ります!」と ヤトさんは、佐藤シスターに追い掛け回されている。小3の番長なのに、どうしょうもないなー。多分 ヤトさんは、先生を含む 大人達に 敵対心を持っている。その点 佐藤シスターは、俺にとってもヤトさんにとっても、数少ない 信頼出来る大人なのだろう。
佐藤シスターが追い掛け回しても、ヤトさんは足が速い。佐藤シスターは、仕事があるということなので とうとう捕まらずに、俺のとこまで戻って来て ヤトさんは「他の奴も、確認する」と言いだす。それじゃあ、 年齢が上の子供から 確認するということで、小3のヨコヤマ ヒロユキ君のところに行く。ヨコヤマ ヒロユキ君は、運がいいのか悪いのか ヤトさんと同学年だ。ヤトさんと 番長の座を争って敗れ、その結果 ヤトさんとヒロユキ君は 一緒に居ても 口を聞かない。なので、俺を介して 会話することになる。
「この人は、小3のヨコヤマ ヒロユキ君です。では!」と俺。その場を離れようとすると、まだ 俺の後ろにいる ヤトさんに、後頭部をチョップされる。まったく、背後を取られると ろくな事がない。
「じゃあ、ピロユキ君から 自分はこういう人間ですと、説明してみてください」と俺。ヒロユキ君をピロユキ君と言って、さりげなく小さく ヤトさんが笑ってる。
「まず 俺の名前は、ピロユキじゃなくて ヒロユキだ。清二と もう一人で、何してるんだ?」とヒロユキ君。
「それは、俺の後ろにいる人に こっちが聞きたいです。俺が一部記憶を奪われたみたいなので、年功序列に 上から 聞き取り調査中です」と俺。
「ああ」とヤトさん。
「もちろん 黙秘権もありますし 断る事も、出来ますよ」と俺。
「話せる範囲なら、別にいいぞ」とヒロユキ君。
「じゃあ、話せる範囲で」と俺。
「俺には、兄と弟がいる。兄と弟 2人とも、この東京サレジオ学園に居て、兄は番長だけど 嫌われ者だ。だから 弟の俺は、先輩達から ぶっ飛ばされることもある。今は『ねむの家』にいるけど、あと1年も経たないうちに、先輩達のいる別の家に行かなければならない。そこが不安だ」とヒロユキ君。
「俺には 兄弟がいないからあれですけど、兄弟がいたらいたで、大変なんですね。兄が番長で、弟も番長!谷間のヒロユキ君は、ヤトさんと闘わなければ 十分喧嘩は強いし、そもそも この東京サレジオ学園は、喧嘩のレベルが高過ぎる。無駄にですけどね。後輩ならともかく、先輩は守れないので ヒロユキ君も 高校卒業を目標に、何とか生き残ってください」と俺。
「ああ。頑張ってみるよ」とヒロユキ君。
「他の奴のところにも、行くぞ」とヤトさん。最近 ヤトさんの中で、どうやら 俺の後頭部をチョップするのが、流行っている。痛いことは、痛いのだけど、まったく。
「おっ、ケンジがいたぞ!」と、ヤトさん。そこには、先程のヒロユキ君の弟、小2の番長 ヨコヤマ ケンジ君がいた。ケンジ君は身体も大きく、その上 運動神経もいい。よって、喧嘩も強い。喧嘩のレベルだけは高い、この東京サレジオ学園で、堂々 小2の番長になった。だが、勉強はまったく出来ない…。しかも、勉強する気もないみたいだ。
「ひがしきー、ヤトと 何やってんだー」と、ケンジ君。ちなみに俺は、ケンジ君には ひがしきと呼ばれている。理由は、名前が四文字しか覚えられないとの事。
「俺だって 何で自分が、『ねむの家』の人たちを再確認しなきゃいけないのか分からないですよ。俺の後ろにいる人に、聞いてください」と俺。
「ケンジ、清二はアイツに記憶を奪われた。だから今は、記憶の確認中だ」とヤトさん。
「ひがしき、俺のことは覚えているかー?ヨコヤマ ケンジだぞ」と、ケンジ君。
「小2の番長で、運動は出来るけど 勉強はまったく駄目の、暴れん坊のヨコヤマ ケンジ君ですよね」と俺。
「はははっ笑。暴れん坊!」とヤトさん。
「笑ってるヤトさんだって、暴れん坊ですよ」と俺。
「ひがしきー、俺のことは、覚えているみたいだな」とケンジ君。
「はい。だいたい」と俺。
「ケンジ、どうやらアイツのこと以外は、覚えているみたいだ」とヤトさん。
「んだんだ。ヤトさん、アイツとは?」と俺。
「今 ここでは、話せない。そもそも あんな奴、俺の眼中にはない」とヤトさん。
「ひがしきー、俺のことを覚えているなら、あとは どうでもいいぞー」とケンジ君。
「まったく、番長って 自分のこと以外は、どうでもいいのですか?」と俺。
すると ヤトさんが、「誰だって、大体 自分のこと以外は どうでもいい」と言い、笑いながら 俺の後頭部をビシバシ叩く。まだ『ねむの家』には 他の子供もいるので、俺は ヤトさんと一緒に、この場を離れた。
《ここ数百年、俺の側の人間に会う。すると、軽く這い上がる。だが 何度断っても、全宇宙の支配者 大和田が会いに来て、あの手この手で邪魔をする。全宇宙の支配者の権限は、絶大だったりするからね。そして 俺が人生を終えるたびに、次の人生でのハードルが上がり、念能力が禁止にされ、最終的には とことん才能までもが、奪われた。だから、やっと最後の最後の人生にたどり着いた 今の俺には、何も残ってない。俺の宝物 哀姫に会えても、救うことすら出来なかった。この人生が始まる前は、嫌で嫌でしょうがなかったけど、それも もうすぐ終わる。あとは いい形で、この人生を終えること。僕は願うんだ!哀姫と、一緒に生きていける世界を!念能力をこの手にと。本当の自分【ドン・リュシフェル】になるんだ!そうしたら、幸福の王子になって、世界中を幸せにしてみせると!永くても、あと16年の辛抱だ。待ってて、みんな》
こうして、全宇宙の支配者 クソ大和田の記憶がない中、東京サレジオ学園『ねむの家』の人たちの、確認作業が始まった。サレジオ学園で 24時間365日監視される仕組みが出来て以来、『ねむの家』の子供達は、ペットか何かみたいだ。まっ それももう、今は過去の話か。よくこんな中、生活してきたものだ。次回の話は、残りの人達の確認作業と記憶を取り戻せるかです。以上。
読んでくれて、どうもありがとうございました。よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!