第四十七話 反則と念能力【檻での暮らし】
児童養護施設 東京サレジオ学園での、子供達にまつわるお話です。
久し振りに、ここ東京サレジオ学園に帰って来て、幾日か経つ。散々 殴られた顔の腫れや痛みも、だいぶ良くなった。同じように、散々殴られた 小3のサイトウ ハヤト君も、ほぼ良くなった。小学校一年生から小学校三年生まで収容されている、『ねむの家』では もっぱら話題は、瀬戸内海の島での 映画の撮影の話しになる。『ねむの家』には、15人くらい一緒に食事の出来るテーブルが二つあり、そこで いろいろ話しをしたりする。もちろん、大事な話は 大部屋でするけどね。
「清二、夏目雅子さん どんな人だった?」と、俺の住んでいる 大部屋の担当の佐藤シスターが、興味津々に聞いてきた。
「美人で優しくて中身も詰まっていて、素敵な女性 素敵な女優でしたよ。ただ 白血病で、美人薄命を字でいくことになるかもしれません」と俺。
「白血病っ!大丈夫なのっ?」と驚く、佐藤シスター。
「まず、白血病は移りません。なので、サレジオの子供達は大丈夫です。ただ 夏目雅子さんの呪いで、遠い将来 俺は白血病になるかもしれません。別に長生きしたい訳じゃないので、俺の方も大丈夫です」
「清二、俺は白血病 大丈夫か?」と、小3の番長 サイトウ ハヤト君。
「ヤトさんは、白血病は大丈夫です。エイズには、ならないように よくよく注意して下さい。ここ東京サレジオ学園は、エイズが身近な病気なので」と俺。
「白血病は、大丈夫か。分かった、エイズなんかにならないように、気をつけとく」とヤトさん。
「ハヤトも、清二も、こんな環境での生活で ごめんなさい」と、佐藤シスター。
「別に、佐藤シスターがダメな訳でも悪い訳でもないし、問題ねえ。ただ ここは、喧嘩が強くないと何も出来ないので、今よりも もっと強くならないと、俺は」
「ああ、だな」とヤトさん。
《じゃあ 何でここ東京サレジオ学園は、エイズが身近な病気なのか 説明しよう。ことの発端は、ここ東京サレジオ学園の園長の村上 コウスケが、エイズだった。そして 村上 コウスケと不純な関係をもつ 三宅シスターに、エイズが移った。せめて、コンドームを付けろという話しなんだけど。そして、そんな三宅シスターが子供達の世話をしているので、もしかしたら エイズが移るかもしれない。残念ながら、そういうこった》
「佐藤シスター、時間が巻き戻されたの 知ってますか?」と、俺が聞いてみる。
「時間が、巻き戻された。知らないわ。本当なの!?」と、驚く 佐藤シスター。
「ああ。俺も、知ってるし 見た」と、ヤトさん。
「ハヤトも、知ってるの!清二っ、時間を変えることなんて、あってもいいの?」と、佐藤シスター。
「俺の、この最後の人生だけじゃなく前世も入れたら、時間を変えられるのが、たまにあります。反則ですけどね。全宇宙の支配者がクソ野郎の大和田なので、こちらとしては せめて環境に適応するしかないですね」
「そうなの!?じゃあ、ハヤトと清二の顔の傷や怪我も、その大和田とか言う人のせいなの?」と、怒った顔の佐藤シスター。
「ああ。だな」と、ヤトさん。
「うん、大体そうです。映画のクソ監督とチンピラ達からなる、大和田の側の人間達。そいつらと戦った時の傷です。その上 大和田は、全宇宙の支配者なので、時間を変えるなんていう反則は、よく使います。汚い手口もね。ちなみに、三宅シスターも村上 コウスケも、大和田の側の人間ですよ。ここ東京サレジオ学園の子供達にも、大和田の側の人間達が、わんさかいます。俺は、大和田の敵側の人間のトップです。俺の側の人間達は、裏稼業の人たちが多いけど、いつか俺の手で 大和田を完全にぶっ消してやります。それにしても ここ東京サレジオ学園は、地獄か?」と俺。
「ああ。だな」とヤトさん。
「ごめんなさいっ!」と頭を深く下げる、佐藤シスター。「その話が本当かどうか、確認してくる」と言って、三宅シスターの方へ向かった。
俺もヤトさんも、佐藤シスターが担当している大きな部屋へ戻り、約束どうりキャッチボールでも する事にした。大きいとはいえ、部屋の中だけどね。まずは準備運動がてら柔軟をして、ごく近い距離から投げる受けると始めた。グローブのはめ方、ボールの握り方を伝えながら。ヤトさんは、喧嘩も強いし運動神経もいいので、すぐに慣れ 凄い速さのボールを俺にぶち当てようとし始めた。こういうところがヤトさんの怖さで、その結果 番長になったのだろう。なので俺は、やられたらやり返せで、変化球を投げ始める。
そんな中、佐藤シスターが「部屋の中で、ボール遊びしないっ!」と足のスリッパをパタパタいわせながら、やって来た。キャッチボールから あわや喧嘩になりそうだったので、佐藤シスターが来たことはちょうど良かった。そして佐藤シスターが、目を潤ませながら「三宅シスターを、問い詰めたの。そしたら清二の言ってた事が、本当だったの。ここ東京サレジオ学園 『ねむの家』は、清二にとっては地獄みたいなところなの。24時間監視して、あわよくば自殺させ自決させ、消してしまおうと作られたところなの」と言い、目から涙をボロボロ流す。
「まあ、いいさ。少なくても、佐藤シスターのせいではない。それに俺は自殺を含めて、死ぬ事には慣れてる。ある日突然、日常が終わる事にも。ここ東京サレジオ学園は、外観は綺麗だけど、中身はボロボロだ。24時間監視されても、ほっとくしかない。ヤトさんも、『ねむの家』にいる時は見張られていますよ」
「そうなのか?」
「はい。俺の念能力は、大和田に勝手に禁止されてるのですが、それでも念能力者にならないとどうしょうもない。戦いようがない」
「禁止されてるの?」と、涙を拭いながら佐藤シスターが聞く。
「何せ、念能力者になったら、超一流の使い手ですからね。クソ大和田と大和田の側の人間達なんて、簡単にぶっ消してやります。ナハハハッ笑」と、俺は笑っておく。
「ハハハッ笑、だな。念能力か、俺も手に入れないとな」と、ヤトさん。
「清二、ごめんなさい!こんな事しか言えないけど、頑張って!」と佐藤シスター。
「はい、ほい」と俺。
こうして再び、檻の中での暮らしが始まった。もちろん檻の中での暮らしと言っても、塀で囲まれてるだけで、出入り口はある。ただ お金を持っていないので、自由とは言えない。ここは昔は S鑑と言って、孤児院だけじゃなく鑑別所代わりでもあったらしい。それとこれは 後に知った事だが、東京サレジオ学園での様子は、お金を払えばパソコンで観れたみたいだ。今更、どうでもいいが。ちなみに 今の俺は、監視から逃れて見張られてもいません。あとは、ただ それを待つだけの暮らしです。次回の話しからは、檻の中での少年達の話です。それでは!
読んでくれて、どうもありがとうございました。今の自分は、大和田のいないところに、ちゃんと行けました。そして 俺は、全宇宙の支配者になります!もう なったかも?よろしければ、続編も 楽しみにしてくれると、嬉しいです。それでは!