第二十八話 キャッチボール
夏目 雅子さんとの、野球と映画の話です。
紳助さんが東京へ戻り、俺は一人になった。映画の撮影など、どうでもよく、むしろ早く終わらないかなと、思っている。この映画の監督からは、夏目 雅子さんに会うことを禁じられたので、特にやることもない。一緒にこの島に来ている、孤児院の子供達からは「しまだ 紳助さんと、どこで何をしていたのか」とか「撮影がなくて、お前はずるいな」とか言われてる。答えるのも、面倒くさいので「知らん!」と、言っておいた。どうやら撮影も、知らない間に終盤まできているようなので、とっとと終わってくれと祈る。
それにしても、雅姉に会わないなと、思っていたら、どうやら野球用品を買いに行ったらしい。そう言えば、雅姉に、この映画に出演しているギャラのでない孤児院の子供達に、せめて野球用品をプレゼントしてくれと、俺が頼んだったんだ。俺は野球が、大好きだからね。早く野球が、日本の国技になればいいのに。
そんな中、夏目 雅子さんが、久しぶりにここへ戻ってきた。
「ダーリン、私は何を買ってきたでしょうか?ヒントは、ダーリンが好きなもの」と、雅姉。
「はっ!極上の女!」と、俺。
「違ーう、女性は買うものじゃないでしょ」と、雅姉。
「プロ野球選手になれる薬。はっ、犯罪か!」と、俺。
「もうっ。正解は、ダーリンだけの為じゃなく、この映画の撮影に来ている、子供みんなの為の、新品の野球用品よ」と、雅姉。
「ありがとうございます。あざーす」と、俺。俺だけかもしれないけど、新品の野球用品ってワクワクしないか?
「少しは、お役に立てたかしら」と、得意顔の夏目 雅子さん。
「だから、ありがとうございますと、言っているじゃねえか。あざーす」と、俺。
「その辺に、しておけ。雅子は、撮影がある」と、監督。
「了解」と、俺。監督のケツに、思いっきりローキックを入れておく。監督はケツをおさえて、悶絶している。誰と口をきいてると、思っているんだ、まったく。俺は、紳助さんの、上をいく男だぞ。孤児院の子供達からは、歓声が上がる。クソ監督だけあって、嫌われているんだな。
そして俺だけ、監督と揉めて撮影が無いので、一人暇人になった。なので、この映画のスタッフと、手に入ったばかりのグローブで、キャッチボールをする。そして、しみじみ俺は野球が好きなんだと、実感する。
そんな中、急遽 撮影に呼ばれる。野球のシーンの撮影で、「手本を見せて」と、雅姉に頼まれる。俺は監督が嫌いなので、断りたいが、新品の野球用品をプレゼントしてもらった手前、渋々引き受ける。どんなシーンかというと、新人女性教師役の雅姉が、教え子の子供達に野球を教えるところだ。
「じゃあ まずは、キャッチボールから。会話をしながらやってみよう」と、俺。リハーサルが始まる。
「野球好き?」と、雅姉。ボールを俺の方に 投げる。
そのボールをキャッチして、「はい!大好きです!」と、俺。ボールを 雅姉へ、投げ返す。
「それ、いい野球のグローブね。どうしたの?」と、雅姉。また ボールを、こっちへ投げる。
「フフッ、馬場ちゃんの女に、プレゼントされました。有り難いこってす」と、俺。ボールを投げ返す。
「ふふっ、君の将来の夢は何?」と、雅姉。ボールを投げる。
「プロ野球選手!出来たら、読売巨人軍!」と、俺。ボールにその思いを込めて、投げ返す。
「なかなかいい夢ね。私の夢は 、女優になることだったから、もう 夢は叶ったわ。あとは 、君の夢 ダーリンの夢だけよ」と、雅姉。
「叶う気がしない。ここまでに来る過程で、念能力は禁止され 才能はことごとく奪われた。まあ 夢は本来、叶わないもだしね」と、俺。心なしか 投げ返すボールも、弱くなる。
「私、夢叶ったから!」と、雅姉。力強いボールを投げる。
「馬場ちゃんが、いないじゃねえか。リハーサル終了。じゃあ こんな感じで撮影して」と、俺。
「ダーリン、手本を見せてくれて、ありがとう!」と、夏目 雅子さん。
「こちらこそ、どういたしまして」と、俺。
こうして俺は、自分の役割を果たし、早く東京に帰りたいなと、思いながら、まだしばらくはここに とどまることとなる。さて、どうなることやら。以上。
よろしければ、続編も楽しみにしてくれると、嬉しいです。