第十八話 雅子姉さんと白血病
三度目のお風呂のシーンと、白血病の話しです。
二度風呂から、あがる。指がふやけてフニャフニャになっている。雅姉はよくこんな長時間、お風呂に入っていられるなー。お風呂好きって、言ってたものなー。一緒に撮影に来ていた、孤児院の子供たちからは、俺だけ、何度もお風呂の撮影があり、ブーブー文句を言われた。俺が望んだわけでないのに。そもそも、二度目の風呂は、撮影してないし。そんなこんなしていると、なつめ 雅子さんが顔をだす。
「ダーリン!もう一回、お風呂よ。今度は撮影するみたい」と、なつめ 雅子さん。一緒にいる孤児院の子供たちが、俺がダーリンと呼ばれていることに、動揺が走る。俺は、知らんぷりをする。
「また、喋らない気?東 清二君、もう今日、最後の撮影にするから!ちゃんと名前も、おぼえたんだから!」と、元気ハツラツのなつめ 雅子さん。
「だー、しょうがねえなー。馬場ちゃんの、女の頼みだもんなー。もう、今日最後ですからね」と俺。1日に、お風呂三度も入るなんて、俺の長い歴史の中でも、初めてかもしれない。
お風呂に入る前に、監督に、「謝るなら今のうちだぞ」と言われ、「次は殺すからな」と俺は、答える。険悪な雰囲気の中、撮影が始まろうとしていた。ただ、雅姉は何だかはしゃいでいて、気付いていないみたいだ。
撮影の前に監督から、「もし間違えたり、嘘をついたりしたら、その映像を公開するからな」と、脅される。きっと、喧嘩で、俺に負けたことを根に持っているんだな。俺は「どうぞ、ご自由に」と答える。こうして、三度目のお風呂のシーンの撮影が始まった。
「もう、お風呂のシーンは、撮り終わっているので、後は一問一答で、お互い意見と情報の、擦り合わせをしよう」と、俺。
「うん。撮影しているけど、大丈夫ダーリン?」と、なつめ 雅子さん。
「大丈夫だー。ただ、話せる範囲で。じゃあ、今 俺が置かれてる状況について。サレジオ学園という、児童養護施設にいる。先生にも、クソ大和田の側の人間達がいて、子供にもクソ野郎がウジャウジャいる。そこで、もうこれで最後の人生だけど、その分 最低最悪の人生を送っている」
「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないけど、やるしかない。死ぬのは、ありなんだけど、俺の場合消えて無くならないので、続けるしかない。終わるまで。雅姉は?」
「私は今、白血病になって治療中。ただ、治りそうにない」
「白血病って、確か世界保健機構に、もう治し方が分かったって、報告したはずなんだけども。【直江ヨシ人】っていって、俺が過去に医者をやっていた時の名前なんだけと」
「その名前、何度も聞いた!その人なら、治せるって!」
「うーん。美人薄命かー。これから俺の場合、過去に出来たことが、どんどん出来なくなっていくからなー。白血病って、白血球とか血が駄目に、なるとか?」
「うん。免疫力がどんどん低下して、病気で死んじゃうの」
「多分、血を全部取り替えても、駄目だろうし。血を作るところを、治すなり、移植するなりしないとなー。ただ、雅姉全然そんな風に、見えないけど」
「うん。これは話していいか、分からないんだけど、《念能力者》にお金払って、この映画撮り終えるまで、症状が出ないようにしてもらったの。すごいお金かかった」
「《念能力》かー。俺が《念能力者》の時だったら、即完全に根治させるんだけどね。無論、無料でね。まあ、ただ雅姉、馬場ちゃんが大好きなんでしょう?」
「うん。あとダーリンも」
「俺は除いて。ただでさえ、俺と恋愛するはずだった女性達が、順番待ちで渋滞しているから。そうか、ジャイアント馬場となつめ 雅子さんか。 まさしく、ビッグカップルだね。ただ、馬場ちゃんがもう死んでるなら、雅姉も、もう寿命かもしれないなー」
「寿命?」
「うん。おばあちゃんになるまで、生きなくても、キレイなままで、死ぬのも悪くはないかもね。馬場ちゃんが生きていたら、俺と雅姉で会いに行って、何とかなるんだけど」
「でも、馬場さん、結婚してるし」
「馬場ちゃんの、お金使い込んで、男遊びはっかしていた、クソ女だよ」
「ぶっ殺す!」と、雅姉。
すると監督が、「お前達、いい加減にしろ!《念能力》の話しなんか、公表できるわけないだろ!」と怒鳴った。俺が「何だ、またぶっ飛ばされたいのか?」と言うと、押し黙った。「ぶっ飛ばされたの」と、雅姉、思わず笑う。以上。
よろしければ、続編も楽しみにしてくれると、嬉しいです。