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きよじ  作者: 東 清二
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第十一話 高倉健、登場

フジテレビのドラマ「白い巨塔」の撮影中です。

第十一話 高倉健、登場

                   リュシフェル

 フジテレビのドラマ「白い巨塔」の撮影はまだ続いていた。これだけ続くとさすがにしんどい。とっくのとうにやる気は失せていた。

「おい、大物がくるからおとなしくしてろよ」監督に言われる。俺、おとなしくしてるじゃん。大物って誰だろう?俺が目当てだったらいいのになー。もう、疲れたよ。何かきっかけがほしい。


「高倉健です」おじさんが挨拶まわりをしている。スッタフみんなが恐縮して喜んでいる。


「高倉健です」スタイリストさんは飛び上がって喜んでいる。


「高倉健です」田宮二郎も、ただただ恐縮している。


「高倉健です」監督も喜んでいる。だんだん声が近づいてくる。


「はじめまして、高倉健です。東きよじ君、君に会いに来ました」

 あ、俺目当てだった。うしっ。

「はじめまして、東清二です。役者さんですか?」

「はい。撮影中じゃないのに目に包帯を巻いているのですか?」

「はい。役作りだそうです。必要ないとは思うのですが」

「ちょっと包帯をはずしてみてください」

「はい」俺は俺の目についていた包帯をはずす。

「いい目をしてるじゃないですか」

「ありがとうございます。本当にありがとうございます」

「私のことを知らないみたいですが」

「すいません。大物だとは聞いているのですが」

「分かりました。それでいいです。少し撮影を見させてもらいます」

 がっかりさせちゃったかなー。まあ、知らないものはしょうがねえ。

 撮影が始まる。俺はいつものように目には包帯を巻き、いつもどうり目が見えないと訴えていた。が、途中で健さんからまったがかかった。

「これでは前に進んでないじゃないですか。きよじ君はいつまでたっても、解放されないじゃないですか」さすが大物。

「しかし、健さん。これで今までは上手くいっているんですよ」と食い下がる監督。

「台本を見せてください」恐る恐るスッタフが台本を渡す。

「こんな台本で?分かりました。私も演技します。きよじ君ちょっと」健さんと内緒話。内容は,すぐに退院できる演技をお互いすると、しかもアドリブで。撮影が再開される。


「東きよじ君、私は地方で眼科医をしている高倉と申します」

「はじめまして高倉先生。僕いつ目が見えるようになりますか?」

「きよじ君、これは目がどうとかではなくて精神的なものですね」

「じゃあ、見えるようになりますか?」

「目をぎゅっとつぶってください。いいですか、ぎゅっとですよ」

「はい」指示をされた看護婦の手で包帯がはずされる。

「わあ、明るいっ」

「きよじ君、だんだん目が慣れてきますからね」

「はい。わあ、高倉先生かっこいいや」

「大丈夫ですか?」

「冗談です」

「冗談でしたか。見えますか?」

「はいっ、高倉先生、渋いですね」成り行きを見ていた看護婦役の女性が、涙目で高倉先生ありがとうございましたと言っている。

「きよじ君が目が見えなかったのはおそらく環境のせいでしょう。もう、私が来たからには大丈夫です」すると号泣する看護婦。今までずっと一緒にやってきたんだもんなー。

「高倉先生、僕すぐ退院できますか?」

「きよじ君、二三日様子を見てよければ退院です」

「ありがとうございます高倉先生。永かったここまでくるのに」

「私が来たからには大丈夫です」ここでカット。


 自然と拍手が起こる撮影現場。苦虫を噛み潰した顔の監督と田宮二郎。高倉健、さすが大物と呼ばれるわけだ。やるじゃねえか。

「きよじ君、ちょっと」健さんに呼ばれ、また内緒話。

「きよじ君、私はテレビが嫌いです。案の定、きよじ君はしんどい思いをしていたじゃないですか」

「じゃあ、好きなのは映画とかですか?」

「はい。きちんとした台本があって与えられた役に打ち込むことができます。きよじ君は映画に興味とかはないですか?」

「その前に役者、高倉健はテレビが嫌いなんですね?」

「はい」

「分かりました」


 監督にさっきの撮影を健さん抜きで、もう一度撮りなおそうと言いしぶしぶ了解を得る。田宮二郎と演技。ぐずぐずだが一応、撮れた。これで、健さんはテレビに出たことにはならない。


「すごいじゃないですかきよじ君」

「ありがとうございます」てへ。また、健さんと内緒話。

「きよじ君は好きな女の子とかはいないのですか?」

「いたけどお家に帰りました」

「そうですか。私も好きな女性がいるのですが上手くいきません」

「それ、俺に話すことじゃないですか。何でだめなのですか?」

「内緒です」

「はい」

「聞かないのですか?」

「はい」

「本当に?」

「はい」と廊下が騒がしくなってきた。カメラマンや記者がどんどん集まってくる。俺達ふたりはあっというまにかこまれた。


「健さん、女性問題について一言」

「次の映画について一言」容赦なくフラッシュがたかれる。


「すいません、きよじ君。もうすぐ「八甲田山」という映画の撮影があります。それについて何か知っていることを」

「寒くて遭難して仲間割れして殺しあった。自衛隊員が。こんなとこですね」

「ありがとうございます。それが聞けただけでも、良かった」

「健さんがテレビが嫌いなわけが分かった気がします」

「はい。それでは」

「はい」


「白い巨塔の子がいる」と記者のひとり。

「東宮御所にいたきよじ様だ」気づかれた。


「いいですかみなさん。この子に何かあったら私は、みなさんを忘れませんよ」そう言い残し、健さんはたくさんの記者やカメラマンと共にフジテレビを後にした。以上。





 

もし、よろしければ続編も楽しみにしてください。

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