第一話:地獄へ
きよじ
リュシフェル
俺の名は、「きよじ」です。正式に書くと「東 清二」(ひがし きよじ)だが、多分、自分は、「きよじ」なんかじゃない。そんな事を考えながら、バスに揺られていた。山梨にあった、山中星美ホームという孤児院から、東京にあるサレジオ学園という孤児院へ、幼稚園児ら、小学生になりに。だんだんと希望は、失望に、失望は、絶望に変わっていった。未来に、何も期待できなかった。なんてね。暗い話は、嫌いなので、楽しい物語に、しようと思う。それでは、はじまりはじまり。
「おーい。頭でっかち、なに、暗い顔してるんだ」
と、中山 勝雄の声。こいつに、言わせると、俺は、「頭でっかち」らしい。ちなみに、こいつが、どういうやつかというと、星美ホーム(幼稚園)で、俺とどっちが、女にもてるかとか、どっちの方が、喧嘩が強いとか、その他、いろいろで、俺と張り合ってたやつ。いわいる、俺のライバル的存在。口が達者で、かなりのお調子者。
(面倒くせぇ)
「うるせーバ勝雄。今、これからの事について考え中だ」
「さては、びびったな」
「バス酔いしてるだけだ。てめーこれから俺たちが、行くところは、小学生どころか、中学生、高校生までいるんだぞ」
すると、バ勝雄は、少し考え、
「どうせ、きよじが、何とかしてくれるんだろう。きよじは、いいこちゃんだからなあ」
と、悪態をつく。さすがに、少しは、事情が呑み込めたらしい。
「どうするもなにも、さすがに、どうしようもねぇだろう」
そうこうしているうちに、バスが、新しい孤児院、東京サレジオ学園に、到着する。荷物を降ろし、バスが行ってしまうと、もう戻れないのだという感傷に苛まれえる。期待よりも、不安のほうが大きい。いったい、何に期待すればいいのだろう。心が痛い。君に逢いたい。一緒に居たい。えーとちなみに、山中星美ホームからは、俺とバ勝雄のほかに、長尾 謙と長尾 信という双子。永井 勇あだ名、チャム。村内 公一あだ名、トンピリピン。由来、意味不明。の、総勢六名だった。
東京サレジオ学園。当時、小学生から、中学生、高校生まで、のべ100人位が、生活していた大規模な孤児院。広さは、東京ドームえっと:そもそも、東京ドームの、広さ自体がわからねぇ。とにかく、かなり広い。近くに、小学校と中学校も、併設している。
親のいない子はもとより、片親しかいない子、経済的な理由の子、ここまでは、納得できる。救えないのが、悪ガキ、クソガキ、すぎて、親や施設が育てるのを放棄した子供までもが、サレジオ学園で一緒に暮らすことになる。ただでさえ親に見捨てられ、いい方向よりも、悪い方向に、傾きつつある子供たちが、悪ガキ、クソガキとミックスされ、さらに悪い方向へ、流される。俺が、放り込まれた施設、サレジオ学園はそういういわくつきな所だった。
だが、しかし、昔から、勤めている先生いわく、
「昔にくらべて、今の方が、ずいぶんましになった」
だそうだ。[どのへんが?]だそうだ。
「ようこそ、サレジオ学園へ。」
二人のシスター(修道女)が出迎えてくれた。一人が、シスター三宅、もう一人が、シスター佐藤。残念ながら、どちらもたいして、美人でも、キレイでも、無い。自己紹介。
「はじめまして。山中星美ホームから来ました、東 きよじです。」
「あなたが、きよじ君?」
二人のシスターに、同時に聞かれる。
「はい」
かわいく答える。
「ふーん。いろいろ聞いてるわよ。会えてうれしいわ。よろしくね。」
と、シスター佐藤。
「はい」
さらに、かわいく答える。恐るべき、幼稚園児以上、小学生未満。
「お前は、いいよなー。いいこちゃんだから」
と、バ勝雄。本物の馬鹿、カツオ。
「ふーん。星美ホームの子達は、みんな仲良しって聞いてたけどねえ」
と、嫌みたらしくシスター三宅。(ふむ、この狐目修道所とは、距離をおこう)
ひととおり、自己紹介を終え、荷物を置く。すると、新入りが到着。って俺たちも、新入りじゃん。バスから、降りてきている最中にもかかわらず、掴みあい、殴り合いながら、