2話 刀折れちゃったんだけど。
2話です。
誤字、脱字等があるかもしれません。
「我ハ剣…」
「…っ!?」
不意に変な声が聞こえた。
夢…?いや、そんな感じではなかった。
俺は驚いて、今まで寝ていたのか、かけられていた毛布ごと跳ね起きた。
ゴッ…
辺りに鈍い音が響く。
「…~っ!!…!?」
「…いったぁ~いぃ…」
玄十はソファのような長い椅子に寝かされていたらしい。
そしてそのそばで、1人の女性が床に転げながら頭をおさえて悶絶していた。
「…何やってんすか。エリルさん」
このピンク色の髪をショートカットにした、玄十が勝手におっとりしたイメージを持っている女性。名前をエリルといい、玄十はこの闘技場に通ううちに親しくなった。普段はギルドの受付嬢である。
この街の大闘技場は、大きくABCDの戦闘フロアと、大衆酒場の二つに分かれる。
戦闘フロアで闘う時には、闘いたい日時と場所を指定する必要がある。それを決め、報告するのが大衆酒場にある受付カウンターである。
そしてこの大衆酒場のことをギルドという。
その受付嬢のエリルがいるということはここはギルドの裏の部屋辺りだろうか。
奥の方から男たちの騒ぐ声も聞こえるし間違いないだろう。
「毛布かけなおそうと思ったらクロト君がいきなり…」
なるほど、すんませんエリルさん。
「あ、玄十君…大丈夫?」
そして、何か知らんが青黒い髪の美少年がお茶っぽいものが入ったコップを3つ持って現れた。
「なんでおま…」
なんでお前がここにいるんだ。と言おうとしたその時、寝かされていた椅子の脇に折れた刀が置いてあるのが見えた。
思いだした。なんで自分はこんなとこで寝てたのか。なんで刀が折れてんのか、なんでスカイがここにいんのか。
玄十は小さくはぁ、とため息をついた。
ニッと口元に微笑を浮かべ、玄十はスカイに向かって一直線に走りだした。
スカイは玄十を迎え討とうと自分の得物を手に取る。スカイのそれはごく普通の両刃の剣だ。
玄十は一気に接近し右上から少し斜めに刀を薙ぐ。
スカイはそれに対し斜めに剣を構え、その一撃を受け流した。
ギャリィッ。火花が散った。
スカイは攻撃直後の隙を狙い、上段まで剣を持っていきそこから振り下ろす。
玄十は横に刀を構え、ガードした、が。
「重…!!」
そう、重い。
こいつの華奢にすら見えるこの体のどこに隠れているのかと思うほどの、先ほどの大男にも劣らない、むしろそれ以上の力。
一瞬ではあるが、それはガガガガッと一気に幾つもの武器で攻撃されているような感覚さえ感じる、それほどの力だ。
玄十は下がってはいけないと思いながらも、態勢を立て直さなければと反射的に十数メートル下がってしまった。
そして、こいつはさっきの大男のように一撃が重いだけじゃない。
ものすごく、いや、ものすごくなんて言葉ではくくりきれないほど、
速い。
下がってはいけないと思った理由がこれだ。
下がったが最後、圧倒的スピードで抑え込まれ、防戦一方となるためである。
案の定スカイはすぐに距離を詰めてきた。こちらに到達するまで一瞬である。態勢を立て直す隙なんて微塵もありゃしない。
「くっそ…!!」
玄十はとっさに刀を構えた。
スカイの得物と玄十のそれが交わる。
そして次の瞬間、玄十の握っていた刀がバキィィッと中ほどから折れたのだった。
「…え?」
玄十が覚えているのはそこまでだった。
おそらくその後、玄十はスカイのその攻撃でふっ飛び、後ろの壁にでも当たって気絶でもしたんだろう。
だとすると、気絶していた玄十をここまで運んできたのはスカイだろうか。
もしそうなのなら礼を言う必要があるな。
「どうしたの?」
「いや…ありがとな。……でもよ」
「ん?」
「放っておいても俺は回収されてただろ。なんでお前は俺をここまで運んだ」
審判によって戦闘続行不可とされた闘手はすぐにギルドのスタッフによって回収される。スカイが自分をここまで運んだ意味が分からない。
「確かにそうだね。受付嬢の、えっと…」「エリル」「さんにも言われたよ。…でも、パニックになっちゃったんだ。もし玄…十くんが頭でも打ったらどうしようって。心配になっちゃって」
頭でも打ったらどうしよう?
今さら何言ってんだ、こいつは。
この世界でそんなことは日常茶飯事だろう。
ましてや最強男。相手に怪我させてしまったなんてことは数えきれないほどあったはずだ。
意味分からん。
「は、じゃあお前はいっつもそんなことに気い遣いながら闘ってんのか?」
「あはは…いや、そんなことないよ。僕はいつも全力。…さっきのはまあ、気にしないで。それよりこれ、玄十くんの賞金。代わりに受け取っといたから」
「ああ…ありがとう」
そんなことないって、さっき頭でも打ったらどうしようって言ったじゃねぇか。
気にするななんて言われてもそんなもん気になるに決まってる。
ごまかしやがって…なんかイラつく。
「うん。じゃあ僕はそろそろ行くね。あの事はまたその内教えるからさ」
あの事、とはスカイの特殊な魔術の事だろう。
「そのうちって。俺はお前にそんな頻繁に会う気はねえぞ」
「会うよ。早ければ明日にでも、ね。それじゃあ」
そう言ってスカイは酒場の喧騒に消えていった。
スカイが裏の部屋から出て行って幾分かたった頃、玄十は座っていた椅子から立ち上がった。
「行くの?もう少し休んで行った方がいいんじゃない?私医者じゃないから分からないけど」
「いえ、あまりエリルさんに迷惑かけられませんから。それにもう全然大丈夫なので。どこも痛くないですし」
「そう?ならいいけど。別に迷惑だなんて思わなくていいんだけど」
「じゃあ、ありがとうございました」
「あ、うん。それじゃあね~」
ギルドは広々としていて、人の集まる酒場となっている。
ここで人々がすることは、次の試合の希望時間等を受付嬢に伝えたり、酒を飲んだり食事をしたり、待ち合わせをしたりと様々である。
さっさと帰ろうと正面玄関へ足を運んでいると、見覚えのある後ろ姿が2つ目に入った。
「ようカイ、ミラ」
人物はすぐに分かった。
友人のカイとミラである。
自前の金髪を短くツンツンにしている男がカイ、同じく金色に輝く髪を腰のあたりまで長く伸ばしている女がミラだ。
因みにカイは玄十と同い年で、ミラは2つほど年下である。
「あ、やっと来た。遅いですよ」
見つけるやいなや、ミラが文句を垂れてくる。
「わりい、でも来るなら言ってくれりゃあよかったのに」
「まあいいじゃん、それよりお前倒れたって、大丈夫かよ。それに金の方も、8000Eって」
「ああ、全然、このとおりだ。金も昨日そこそこ稼いだから大丈夫だと思う」
玄十は1人暮らしである。その上学校にも通っているため、1か月でだいたい20万Eくらいは財布からとんでいく。全く、困ったものである。
だからこうして週末の休みを使い、闘技場で金を稼いでいるのだ。
「そっか、ならいいんだけどよ。これ、また母ちゃんが作りすぎたからって」
「あ、実は…私も持ってきたんです。ちょっとだけで申し訳ないですけど」
「毎度毎度ありがとう。おばちゃんにもありがとうって言っといてくれ。ミラも、十分すぎるよ、ありがとな」
玄十はおばちゃんと呼んでいる、カイとミラの母親は、玄十が1人暮らしなのを知って、毎週「作りすぎた」と言ってわざわざ1人分多く飯のおかずを作ってくれる。
それに他にもいろいろと世話になっているのだ。
本当に、この家族は心優しい人ばかりだ。感謝してもしきれない。
「おう、俺らはそれ渡しに来ただけなんだ。それじゃあ明日な」「また明日、クロトさん」
「ああ、ありがとう。また明日」
玄十はそう言って彼らと別れ、大切な包みを抱えながら帰路についた。
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