第29話 再会
日曜の朝、旅行鞄を片手に夫がダイニングへ現れた。
「先に行ってるから…」
そう一言いうと玄関へと向かった…いつもと変わらない表情だったのに、なぜか何かがひっかかる気がした。けれど、朝の慌ただしさに紛れて、理由は分からないまま30分後、私も家を出た…
駅まで片道5分くらい。途中、近所の奥さんに出会って少し話した後、駅に着いた。
改札を抜けてホームを見回したが、夫の姿はなかった…。
すると、鞄の中で携帯が鳴った。
「もしもし…」
「すまん…博子。さっき会社から電話があって、どうしても行かなきゃならん用件が…悪いが先に行っててくれるか?なるべく早く済ませて追いかけるから…」
そう言うと夫は、こちらの返事も聞かず電話を切った…。
「…ホントに勝手なんだから。自分から旅行に誘ったのに…」
半ば呆れたものの、仕方ないか…と思い、列車を待った…。15分後、到着した。指定席だったので、座席を探していると、
「こちらですよ…」
懐かしい声が後ろから聞こえた…。振り向く前に、頭の中では、何度も
「ありえない!」という言葉が繰り返していた…。
そう思いながらも、ゆっくりと声の主の方へと振り向くと、10年前と変わらぬ笑顔がそこにあった…。
「や、山田くん…?」
子供っぽさが消えたものの昔と変わらない素敵な笑顔のままの彼だった…。
「えっ?!でも、どうして…?どういうこと…?」
彼が生きていたことは嬉しいのに、現実が把握できない私は、素直に喜べなかった…。とりあえず、彼の隣に座ると、白い封筒を渡された。