3じのおやつ
男女関係なく、魅力ある人には共通点があると思うのだよ。とキミは言う。
私はそれに力なく「ふーん」と相槌を打つ。デザートのどら焼きにかぶりつく。
休日で、お昼ご飯を食べた後なのだから、ダラダラとしていても文句を言われる筋合いはないであろうに、キミはムッとした顔で
「ちゃんと聞いてよ」
もう、と私を嗜める。(怒った顔もかわいいよね)と言おうか迷ったけれども、親友にして、同性にして、一番大好きなキミがそうおっしゃるなら。と私が口を開くよりも先にキミはコホンとそれらしく咳をした。私はさっきよりかは少し真剣にキミの話を聞こうと居直す。
「自分の中の定義でいいから、魅力ある人物の条件を述べよ」
とキミが言う。述べよと言われたので、答えることはやぶさかじゃない。
にしたって小難しい言葉使いだなぁ、先生みたい。と思いながら、でも言うと怒られてしまうので
「キミも知ってのとおり私は趣味がいいから、きっと賛同してもらえると思うけど」
と、わざとらしく口調を似せて話し始める。
「ひとつ。・・・・・・」
「ひとつ?」
じっと正面で私の次の言葉を待つキミを見つめる。
「容姿は気の強そうな雰囲気」
「いきなり見た目からですか」
「私の中ではそれが上の上ランクになるからね、素晴らしいよね」
「よねといわれても」
「ちなみに私は手フェチなのであしからず」
「いやいやいや」
「ふたつ、性格はゆるい感じ。でも頑固で、結構面倒な人が好きだな、私は」
「ふーん」
「普段割りと適当なのにね、考え方は大人で、なおかつ頑固だから、周りからしたら面倒かもだけど」
「・・・・・・」
「あ、あとみっつめ。どら焼きよりはドーナッツが好きだよね?」
「はいアウト、私じゃん、それ私の事じゃん」
「そう、魅力的だよ私にとってキミは」
知っていたはずだけど? と笑うと、はぁ、とため息。
何言ってんだか、と冷静を装っているキミ。さらさらの黒髪からのぞく耳はとても赤い。
「照れたり怒ったり、感情の表現が素直で、だから・・・・・・」
私は、キミが思っているよりもずっとキミに興味深々なのだ。
うつむくキミの表情は見えないけれどきっととても可愛いよね、と思う。
「私はどら焼きのほうが好き。だけどドーナッツの好きなキミはもっと好き。」
「よくまぁ恥ずかしげもなく」
ふん、と怒ったようにキミが言う。
「なら、キミにとっての魅力ある人物は?」
「いや、いいよ別にそれは」
「いや、良くないよそれは」
重要だよ! と胸の前で手を合わせる。
「ずるいよ、私だけ。キミの見解も述べるべき!!」
「仕方ないな・・・・・・」
なぜかしぶしぶ、といった感じのキミ
(キミが先に言い出したのに)
「私にとって魅力的なのは、素直な子」
ふーん、割と普通だ。
「あとは?」
「え、っとあとは・・・・・・」
考えあぐねて目線が泳ぐキミ。見切り発車するのは悪い癖だね。とか思ってたら、ばっちりと目が合った。
しばし見つめあう形になり、つい目をそらした瞬間、大きな目が少し意地悪そうに光り、微笑んだようにに思えた。目の前に私の大好きなキミがいるのだと、思い出した。
「とぼけた顔とか、休日でもスカート標準装備なとことか」
つまりまぬけだと罵られて、女の子らしいと褒めているのねなう。
「すぐ顔が赤くなるところとか」
それはお互い様だよ。
「どら焼き口にくっつけて力説するところとか」
言いながら口の端を指で拭われる。
くそう
「大好きだな」
大好きだよ、と続けざまに言われて耳が熱くなるのがわかる。
私の有利から、一転してキミが勝ち誇る。
悔しくて、「大人気ないなぁ、」とつぶやくと
キミはいたずらっぽく笑って「嫌い?」と聞く。
ずるい と思う、
大好きだよ! と喚く。なんていうか降参です、もう。
「この展開をね、期待してたんだ実は」
満足げにドーナッツに手を伸ばすキミ。
なんて言ったら勝てるだろうかと、少し考えてから
「そういうとこがすき」
と一人ごちってみた。
小さく小さく。だけどばっちり聞こえるように言ったから、
ミルクのおかわりが必要かもしれない、ついでに煎茶もおかわりしよう。
むせて涙目のキミを笑うのです。