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まさかの出来事に声は出ず、ただ空気だけが口から出る。
伸ばした手の先には崖とそこに立っているさっきまでパーティーメンバーだった人達。
自分達が何をやったのか分かっていないのか薄ら笑いで僕を見ている。
この後のあの人達の事を考えるとご愁傷様と思うが、まず先に僕の方がご愁傷様だ。
背中から剣で刺されて体を貫通して内臓はズタズタ、極め付けに刺さった剣を引き抜く為に足で蹴られてそのまま崖から落とされる。
スキルも無く、かろうじて使える初級魔法では着地も難しい。
僕の人生とはなんだったんだろうか。
走馬灯が浮かび上がって来るが、何一つ良いことなど無く、最後に会いたい人すらいなかった。
……なんて虚しい。
強烈な痛みを感じた瞬間、意識は途絶えた。
近くで甲高い声が聞こえる。
声が纏っているのは怒りの感情の様だ。
「最悪、サイアク、さいあく、さ、い、あ、くーっ!」
頭痛がしている頭に少女のヒステリックな声が響いて、殊更煩わしく感じる。
なんなんだ、そう言おうとして。
「ガァンガァ……」
不快な音がして言葉を止めると、不快な音も止まった。
疑問に思う前に、冷たいものが背中に落ちる。
理解したくない、が、否定する為に確かめなければとも思う。
「ガァ……」
僕の声?
咽喉に何かあったのかと急いで触れてみて、衝撃が走る。
咽喉を触った感触と触っている手の感触が、普通のそれでは無い。
恐るおそる手を見ると、肌は緑色で長く水に浸からせていた様な皺々なのに岩肌の様に硬く爪は長く鋭く伸びているが刃毀れした様にギザギザだ、そして何よりも子供の手の様に小さい。
僕の手なんかじゃ無い、いや人間の手ですら無い。だけどこの手は見たことがある、それは——。
「幾ら泣き言言ってもしょうがないよねぇ、変更きかないもんねー。……あっれー、起きるー」
いつの間にか忘れていた少女の声がしてそちらを見ると、妖精がいた。
「ゴォグゥガァギィ?」
「んー? キーミ、アタシが何だかわかるのー?」
妖精は訝しげに見てくる。
「生成直後はー生まれたてだから、知識はないんじゃなかったっけ?」
妖精はあれれー? と考え込む。
「能力表見ておいた方がいーいーかーなー? まっいーかー、ゴブリンなんてどれも変わんないし。結局やる事も変わんないもんねー」
妖精の言った事に衝撃を受ける。否定したかった事を肯定されてしまった。
愕然とする中、妖精は僕を指差した。
『知識強制植え付け』
聞こえたと同時に頭の中を押し潰すかの様な激痛に見舞われた。
「ギィャーーーーーー!」
「汚い鳴き声ー」
妖精はどうでもいいことかの様に感想をもらす。
何時間も何日も続いていた拷問の様な激痛が唐突に終わった。
幻痛でまだ頭に激痛を味あわされている様な感覚があるが、大体の事を理解する。
僕は殺されて、偶然生み出される途中のダンジョンに魂が飲み込まれて、ゴブリンへと生まれ変わったのだと。
「さてと、念話をー接続するからキミはー声出さないでねー、聞くに堪えないからー。知識の植え付けに耐えたんならーそれだけの知能も発達してるはずだけど、理解出来てるー?」
(はい)
「よーし、良ぉーし。アタシはキミのー主人ドミニだよ、キミはーアタシの事をご主人様と呼んでねー。キミはー特別な下僕にしてあげる、光栄でしょ」
そう言うと僕とご主人様に一本の光の糸が結ばれた。
「でね、更に特別にアタシが名前を付けてあげる」
僕とご主人様の目の前に光の線で出来た契約書が現れる。
多分、同じ内容が書かれている筈だ。
「どーんーな、名前にしようかなー……。あれれ? 名前欄にすでに名前が書かれてる。キミ書いた?」
不機嫌になった事を隠す事なく僕に聞いてきたが、僕は頭を左右に振って否定した。
まあそもそもこちらには名前を書く権利もすべも無い。だからご主人様も疑う事は無かった。
一応すでに名前が書かれている理由は何となくわかったが、何かある訳でも無いだろうから、言わなくてもいいだろう。
言ったところで人間から生まれ変わったからなんて信じないだろうし。
「うーん……。まぁ、ちゃんと変えられるしいーかな? とりあえずアタシの名前は書いてっと、後はゴブリンの名前を変えてここを押せば契約完了に——」
『契約は成されました』
そう契約書に表れると消えていった。
「あーーーーーーーーっ!」
ご主人様が叫びを上げる。
どうやら、手順の指差し確認をしていたら誤って押してしまったみたいだ。
あー……、という感情に充されたが、まあ何か支障がある訳でも無いだろうしと思っていると、一枚の光の書類が現れる。
『名前の変更が無かった為、魂の権利の上書きは成されませんでした。その為、絶対服従の上下関係は形成されませんでした』
支障はあったらしい。
ご主人様は目覚めた時に上げていた様な叫び声を上げて縦横無尽の飛び回る。
何故こんなにも発狂しているかというと、下剋上を避ける為の手段が無くなったからだ。
ダンジョン内でダンジョン妖精は文字通り支配者で、ダンジョン内設備とモンスターを自由に生み出し設置出来る。ただ制約の様なものが幾つかあり、その一つにダンジョン妖精は強力な攻撃能力を持たないというのがある。
そもそもダンジョン妖精はダンジョンを生み出す場所を探す為の仮初の姿で、本来の姿はダンジョンコアと呼ばれる結晶核である。ダンジョンを生み出すまでは本来ダンジョン運営に使う力を身を守る為に使うが生み出した後はその場を離れる事は出来なくなり身を守る為に回す力も無くなっている、今目の前にある姿も仮初の身体を魔法で作り出して遠隔操作している人形にすぎないので単独で戦う力が無いのだ。
なので仮にダンジョン内のモンスターが想定外の強さに成った場合、逆にダンジョン妖精が支配される事になる。
それを防ぐ為に、ダンジョンコアがある部屋は最奥に設置され開かずの扉となっている。しかしそれだと、モンスターの指揮に支障が生じる事になる。その対策として直属のモンスターを生み出して絶対服従の従属契約を結ぶのである。
このモンスターを人間はダンジョンボスと呼んでいる。そしてダンジョンボスは絶対服従である事とモンスターに負けない様にする為に多くの力を使って生み出され、ダンジョン内で生まれるモンスターはダンジョンボスの力を絶対に超えられない様に設定される。
因みにこの事は知識の植え付け時に得た物で、人間側は一切知らない。
まあ兎に角、特大のやらかしを起こしてしまったのだ。
はっきり言って悲惨度なら僕の方が上だと思うんだけど、こうも発狂している姿を見せられると冷静になって気の毒にと思ってしまう。
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでー!」
パニクって僕に聞いてきた。
本人も本当に答えが返ってくるとは思っていないだろうが、言いたくなるのも分かる。
と言うことで、自分の経緯を話してみた。
最初は信じていなかったが、魂を見る事が出来る様でどうも僕の魂はほとんど人間の物だったらしい、そのお陰で信じてもらえる事が出来た。
「どれだけ偶然が重なればそうなのー」
黄昏にくれてる。
(えっとまぁ、ちゃんと命令は聞きますよ?)
「うん、ありがとー。でもどうせすぐ攻略されちゃうんだー、きっと。人間って旨味の無いダンジョンってさっさと潰しちゃうもんね。ゴブリンダンジョンて害しか無いからー」
まあ否定は出来ない。
(ですけど、このダンジョンがある場所は滅多に人が来ない場所ですから、成長する猶予はあるんじゃないですか?)
「ダンジョンが成長するには人間の魂が必要なの分かってるでしょー」
それはそうなんだけど。
(しかし、未発見だったダンジョンがいきなりS級だったとかよくある話じゃないですか。時間さえあればどうにか出来るのでは?)
「出来ない事はないんだけどー、うちじゃ厳しいんだー」
埋め込まれた知識に人間の魂無しでダンジョンが成長する方法は無いので、何故厳しいのか分からない。
「知ってると思うけど、ダンジョン内のモンスターは魔法生物だからー。簡単に言うと生物に見える魔法なわけ。だからさー魂がないの。言っちゃうとさー、ダンジョンの成長する為の魂は何でもいい訳、もちろんモンスターでも、ちゃんと生物だったらの話だけど。でねー、魔法生物は繁殖機能はあるから、代を重ねれば徐々に魔法から生物へと置き換わっているんだよねー」
(つまり、長い時間をかければ魂ある物になると)
「そゆーこと。片方がダンジョンが生み出したモンスターじゃなくて両方とも生物のモンスター同士から生まれた子に限るけどねー」
でもそういう事ならこのダンジョンでも出来る方法では? ゴブリンなんてネズミの様に繁殖するモンスターだし。
「何となく考えている事は分かるけど、キミー—— いやブリードは牝のゴブリン見た事あるかなー?」
言われてみれば無い。見た目で分からなかっただけかもしれないが、ゴブリンは人間で繁殖するモンスターだ。
もしかして牝がいない?
「一応いるんだけど、滅多に生まれないの、次の世代に牝がいない事が多いんだよねー」
あーそういうことかぁ。
ゴブリンだけでダンジョンを成長させようと思ったら人間の女を連れてこなきゃいけないけど、人間の女を連れてこれるよなら、そもそもゴブリンだけでダンジョンの成長をさせようとする理由が無い。
「今アタシに出来る事は、ダンジョンの階層の増築拡張だけだね」
(魔力を多く使った強いゴブリンを生み出せばいいのでは?)
「ダンジョンの成長具合で生み出せる強さの上限決まっちゃってるから。ダンジョンが成長しないとムリ! ゴブリン同士でも経験値は入るからちまちまと経験値稼ぎする? でも頭打ちは早いかなー」
(……なんでゴブリンなんて選んだんですか)
「運」




