シャンディラ編 終
セキュリス・アリアトリス。
アリアトリス王国第二王子である。
彼を一言で言い表せば『天才』だ。
人としてあるべき全ての才能を保有している。
しかし彼自身それをよく思わなかった。
天才であることは必ずしも幸福ではない。
彼の周りにはいつも人がいた。
だがその人々は彼にとってただの才能の付属品である。
彼の前にいるのはルージェラルド家当主カバズゼル。
セキュリスを王に推薦した第一人者である。
その影響力はもう言うまでもないだろう。
「セキュリス王子。率直に申し上げましょう。この王位争奪戦は勝ち目がありません。」
「知っている。」
「しかし、私たちには手があります。求めているものを引き起こす手が。」
「そうだな。」
「連合王国にはすでに伝達してあります。」
「そうか。」
「貴方が求めているもの。それで私は私の求めているものが手に入る。」
「そうだ。」
セキュリスがそう言うと扉から一人の男がゆっくり入ってくる。
小麦色の肌に緑色の目。
ザグゼン人である。
粗方、連合王国の差金だろう。
「さようならセキュリス王子。ありがとうございます。」
セキュリスは少し間を起き一言返す。
「うむ。」
ほんの少しセキュリスの口が緩んだ。
セキュリス第二王子が暗殺された。
その出来事は王国内部を大きく動揺させた。
最初に通報したのはルージェラルド・カバズゼル。
王子の間には血塗れのセキュリスとザグゼン人の青年が倒れていた。
青年の手にはナイフ。
この部屋の唯一の生き残こりカバズゼルは細剣を持っていた。
カバズゼル率いる今は亡きセキュリス王子の派閥はすぐさまザグゼン連合王国の犯行だと断定、即時開戦を要求した。
サンジェル派の人間にもそれに同調する動きがあった。
しかしサンジェルはそれでも開戦に消極的であった。
真の王は死んでいる。
国民はそれを知らない。
議論に行き詰まりが生まれる。
王位継承戦の勝者は確定した。
だが、まだ終わらない。
更に王国が揺れる。
「...ッよし!」
俺は荷物をまとめていた。
「こんなもんかな。」
一週間の旅だ。
ある程度の着替え、一応食料、その他諸々。
準備すべきであろうものは全て準備した。
「アムリアー...ナ?だよな。」
俺は馬車の後ろでフードを被り俯いた少女に声をかけた。
「...うん。」
「そうだな。いや、特段覚えにくい名前じゃないとは思うんだが、俺は名前を覚えるのが苦手てでさ」
手に顎を乗せ、少し考える素振りを見せる。
「アムリアー...ナ...そうだな...アム、これから『アム』って呼ばせてくれ。いいかな?」
「...うん。」
「え!気に入らん?え?どうしようアザハとか?全節の頭文字とって...いや、センスないな...ん〜...」
「......」
....困っている!
クソ!
ここで前世で普通のコミュニケーションをあまり取れなかったのが響くか!
そんなこと考えていると後ろから声をかけられる。
「ホッホッホッお困りかな?」
いかにも魔法使いといった三角?帽子を被った老人が杖をつきながら歩いてくる。
「なんだこのおっさん!!」
「その子はアムでいいと思っておるよ。」
「え?」
そう言われ、振り向くと少女は俯いたまま少し頷いた。
「...いいの?」
「うん。」
「そっか、よろしくね『アム』。」
その相槌がなんだかとても嬉しかった。
友達の作り方ってこんな感じなんだろうか。
「あ、あの、さっきはおっさんって言って申し訳ない。あなたは?」
「私はアリアトリス宮廷魔術師が一人。イラデラヴァードだ。君たちの旅に同行するようサンジェル卿から仰せつかった。」
「おお!」
宮廷魔術師。
これがどんなにすごいのかよく分からないが、なんだかすごそうだ。
これ以上に心強いことはない。
サンジェルさんには感謝してもしきれない。
「だが、あまり期待しすぎないようにな。」
「え?宮廷魔術師なんてすごい肩書き(本当はよく分からないが)の人が着いてくれれば百人力っすよ!」
「最近、忘れっぽくて...」
「そんくらいなら全然プラマイプラスですよ。」
「そうかの?いやはや、というか婆さん今日の朝飯...いや、ここは家ではないの、そうであった、失敬、ここはどこであろうか?」
「.......おお」
一気に不安になった。
忘れっぽいどころの話じゃない。
結構な認知症だ。
マジかよ。
「...ま、まあ、よろしくお願いします。」
「お?ああ、よろしく。名前思い出したぞ。アギナだな。」
「アギ...?」
不安が膨らむ。
「お〜すまない、今のは昔の友人の名だ。そうだ、君の名前はサンジェル卿から聞いている。」
そう言ってポケットから紙を取り出す。
どうやら俺の名前が書いてあるようだ。
徐に紙を広げ、そこにある言葉を復唱する。
「え〜...鶏肉...」
不安は最高潮まで膨れ上がる。




