シャンディラ編6
ここで時間は少し遡る。
アムアリーナ=ザール=ハヴァロスゲール。
彼女は堕とされた。
「くっ...」
咄嗟に発動した認識遮断魔法でどこに堕ちたかは気付かれていなかったのが幸いだった。
「誰だ...私を堕とすなんて...」
魔術師の姿は見えなかった。
だが
「古代魔術...しかもかなりレベルの高い...魔力が安定しない...」
龍が落とされるなど通常あり得ない。
かつて勇者が龍王を破った時以来のことだ。
「...腕力も普通の人間並...いやそれ以下だ。」
身体中が痛い。
今動くのは得策ではない。
幸い認識遮断魔法の効果はしばらく切れそうにない。
彼女は眠りにつくことにした。
魔法の効果が終わるまで。
二日後、眠りから目覚めた彼女は行動を開始した。
とにかく栄養価が足りない。
体の構造を変えることで今必要なのは人間分の栄養のみだが、二日間何も飲まず食わずだ。
そろそろ限界である。
人間自体への理解は乏しいが、社会構造はある程度の理解はある。
食料は金がないと買えない。
しかし私には金がない。
「盗るか。」
圧倒的な力を持った彼女からしたら至極当然の発想である。
しかし、彼女は忘れていた。
今の彼女はここの人間の誰より弱者であることに。
「待てやゴラァ!!!」
「はっはっはっ!」
案の定失敗する。
逃げ切ろうと考えたが、逃げ切れない。
だんだんと距離を縮められる。
(まずい!このままだと...!)
そう思ったのも束の間、彼女はまんまと男に捕まる。
殴られる。
蹴られる。
痛い。
痛い。
痛い。
初めての感じる差。
初めての恐怖。
初めての弱者の視点。
「おい、待てよ。」
誰かが来た。
男と話している。
早く。
早く助けろ。
早く。
お願い。
助けて。
「助けて。」
その後私は教会病院に連れて行かれた。
記憶喪失になったことにした。
そうすればこの街から移動する口実が作れる。
見るからにこいつはお人よしだ。
「アムアリーナ。アムアリーナ=ザール=ハヴァロスゲール。」
私は一か八か本名を名乗った。
今はさっきよりかは魔力が扱える。
気付かれたならここで殺せば良いと考えたから。
「長!!」
その反応だけで知らないことがわかった。
しかし
(...まずいのが来るな。)
二人が話している隙に私は部屋から出た。
(あの女。生きてたか。)
とりあえずあの女が出てくまで時間を潰すことにした。
教会の中心部には壮大なステンドグラスで飾られている。
「ここはマシス教の教会か。総本山の都市なだけあって煌びやかだな。」
アリアトリス王国はマシス教を重んじる国家。
そしてここシャンディラはその総本山だ。
「ん。」
あの女が出て行ったらしい。
「とりあえず戻るか。」
当面の私の目標はこの街から出ること。
このままだといつ殺されてもおかしくない。
そう考えながら私はゆっくり元の部屋に戻る。
「あああああああああ。」
そこには
私を助けた男が悶絶していた。




