2.一方その頃。
「――して、ヴィルター・アルカディアよ。もう一度、訊こうか?」
「は……レイウス国王陛下」
アリシアの父ことヴィルターは、国王レイウスに詰問を受けていた。
場所は他大勢が見守る、謁見の間である。玉座に頬杖をついて公爵を見る国王の眼差しは、常日頃の温厚なそれとは打って変わって憤りが滲んでいた。
それもそのはず。
ヴィルター・アルカディア公爵の下した決定は、彼の独断によるものだった。魔法学園の主席卒業者である第一王子ミカエルの婚約者、アリシアの勘当処分。
その理由を訊ねると、彼女の父は繰り返しこのように進言するのだ。
「娘は……その、粗暴でございまして。王族に名を連ねるに、分不相応かと」
「ふざけるでないぞ、ヴィルター!」
頭を垂れる公爵に向かって、国王は語気を荒げた。
そして、おもむろに立ち上がって言う。
「魔法学園の主席卒業者だ! 仮に粗暴であろうとも、我が国の騎士団に置けば輝く人材に他ならない! それを貴様は、独断と偏見を以て無に帰したのか!!」――と。
その怒り様は、周囲の兵士も息を呑むほどだった。
レイウスは平常時は民草にも分け隔てなく接し、尊敬を集める人物。そんな彼が激昂する姿など、見たことがある者は一人としていなかった。それ故に、衝撃なのだ。
そして、その気に圧されるのは公爵も同じだった。
彼は慌てたように面を上げ、
「――し、しかし陛下! これは私も、国を案じてのこと!!」
「うるさい、痴れ者が!? 己の無能を国益にすり替えるな!!」
「く……!?」
そのように訴えるが、聞き入れられるはずがない。
結局、ヴィルターはうつむき黙った。すると、そこに口を挟む者が現れる。
「そんなに怒らなくても良いじゃない、父さん」
「…………ミカエル、か」
それはアリシアの婚約者であった王子、ミカエル。
金髪に青の瞳をした美青年は、玉座に背を預けるように立って言った。
「せっかくだし、ゲームといこうよ」
「ほう……?」
すると国王は、その提案に興味を示す。
ミカエルは父の反応を確かめて、口角を歪めて言うのだった。
「チャンスをあげるよ、アルカディア公爵。期限内にアリシアを連れ戻せたなら、今回の不敬は不問にする。ただし、それができなかったら――」
ゆっくりとヴィルターのもとへ歩み寄り、その肩に手を置きながら。
「公爵家は取り潰し、ってことで。遠いとはいえ血縁だから、心苦しいけどね?」
それは、おおよそ考えられる中で最も重い処分。
ヴィルターはそれを聞いてか、頬に大粒の汗を浮かべていた。
「面白い。ミカエル、その案に儂も乗るぞ」
「あっはっは! たまには、こういった遊びも大切だろ? 父さん!」
国王レイウスも、まさかの同意を示してしまう。
こうやって、いよいよアルカディア公爵は窮地に追い込まれるのだった。
「いいか、ヴィルターよ! 我が息子の提案した通り、貴様には僅かばかりの猶予を与える! だが、その期間にアリシアを見つけ出せなければ――」
そして、公式に。
多くの者が耳にする場で、その決定は成されたのだった。
「アルカディア公爵家は、即座に取り潰しである!」――と。
アリシアの与り知らぬところで、事態は思わぬ方向へ。
ただ確実に、公爵にとっては最悪の方向へと転がっていくのだった。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
これにて、オープニング終了。
明日からはさっそく第1章に入ります!!
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