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怪奇現象の正体

 まさか、こんなに早くポルターガイストが起こるなんて。


「怖い。三橋君、助けて!」


 彩花が三橋にしがみつく。ちょっとイラっとしたけど、シチュエーション的にはしょうがないのかなとも思う。下心がどうとかじゃなくて、彩花は本当に震えていた。


「来たね」


 クラスの女子にしがみつかれた三橋は意外にも冷静だった。インテリのせいか、それともわたしから幽霊が見えるとか言われているせいなのか。いずれにしても図太い性格なのは間違いないけど。


 物が動いたのはコーヒーカップだけじゃない。


 棚のぬいぐるみが次々と落とされていく。まるで子供の幽霊が遊んでもいるみたいに。


「見えるかい?」


 三橋に言われて、幽霊を見られることを思い出した。そうだ、わたしは幽霊を発見するために付いて来たんだった。


 この部屋に怨霊がいるのだろうか。っていうか、もし呪怨みたいな奴がいたらどうしよう。絶対にわたしじゃどうにもならないし。


 とはいえ、さっきからガサゴソとやっている存在を知覚している。そこに注意を向けてみる。


 ……は?


 わたしはその姿に拍子抜けする。


「見えたのかい?」


 三橋に訊かれて、わたしは回答に困る。


「うん、見えた。見えたんだけど……」


 部屋で物を落としたり倒したりして遊んでいるのは、一匹の黒猫だった。


 ……なんで?


 そうは思ったけど、この猫は部屋へ来た時はいなかった。そうなると、この黒猫は死んでいるのだろう。


「なんか、黒猫が見えるんだけど……」

「黒猫?」


 三橋がそう言うと、言葉が分かったのか、物を落として遊んでいた黒猫が「にゃあ」と鳴いた。


「黒猫って、クーちゃん?」


 三橋の言葉に反応した彩花が、驚きの声を上げる。


「クーちゃん?」


 わたしの代わりに三橋が訊くと、彩花がその疑問に答える。


「クーちゃんはウチにいた猫で、よくこの部屋にいたの」

「君の、飼い猫?」

「そう。だけど、この前に二十歳の誕生日を前に亡くなっていたの」


 そう言いながら、彩花の目からは涙がこぼれ落ちる。


 え? 猫って二十年も生きるの? ここの誰よりも年上じゃん。怪奇現象よりも、そっちの方がよっぽど驚愕だった。


「で、君はクーちゃんなの?」


 そう訊くと、黒猫は「にゃあ」と鳴いた。「そうだ」って言ったみたい。


 言葉が通じるみたいなので、ちょっと話しかけてみる。


「ねえクーちゃん、君がそうやって物を落とすから、彩花が怖がっているみたい」


 そう言うと、クーちゃんはまた「にゃあ」と鳴いた。悪かったよという意味なのか。なんとなくだけど、クーちゃんの気持ちが伝わってきた気がした。クーちゃんがにゃあにゃあと鳴く。


「ああ、そうなの。それでそんなことをしていたのね」


 そう答えると、三橋が「何て言ってる?」って訊いてきたので答える。


「なんか、クーちゃんはもう少し彩花と遊んでいたかったみたい」


 フタを開けてみれば、そのオチはシンプルだった。


 クーちゃんは自分が亡くなっていることを本当には分かっておらず、姿が見えないながらも彩花に「遊ぼうよ」って声をかけていただけだったらしい。


 それで自分の存在を知らせるために、生前によくやっていた物を落とすというシンプルな方法で気を引こうと思ったのだけど、幽霊で姿が見えないから彩花には悪霊のしわざにしか見えなかったと、そういうことらしい。


 その内容を三橋が簡単にまとめて話すと、彩花の目に涙が浮かんできた。


「そうだったの。クーちゃんは、ずっとわたしと一緒にいてくれたんだね」


 そう言って泣いていた。クーちゃんはちょっとだけ寂しそうに彩花へと寄っていき、体をスリスリとこすりつけようとしていた。だけど、幽霊のせいか上手く体が触れないようだった。


 体と体がすり抜けるのを見て、クーちゃんは猫なりに寂しそうな顔をしていた。


 おそらく何も見えていないあろう彩花は、泣きながらクーちゃんの方を見て口を開く。


「クーちゃんがいなくなって、わたしは本当に寂しかった。君を失った時、本当に寂しかったよ」


 ……う、なんか見ているわたしまで泣きそうになる。いつもは冷たいぐらい冷静な三橋も、今回なかりは真剣な顔で彩花のことを見守っていた。


「クーちゃん、わたしはずっと君のことを忘れないよ。今だって、世界で一番かわいい猫はクーちゃんなんだからね」

「にゃあ」

「だから、ずっとわたしのことを見守っていてね。いつかそっちへ行った時、ずっとずっと一緒にいようね」


 彩花が涙ながらにそう言うと。クーちゃんは「分かったよ」とばかりに「にゃあ」と鳴いた。それとともに、クーちゃんの体が奇麗な青い光に包まれていく。


「じゃあね」


 そう言うように、クーちゃんの体は光になって空気中に消えていった。その姿はわたしですら見えなくなった。


「クーちゃんは、行ったみたいだ」


 三橋がそう言うと、彩花はわーっと泣き出した。それを見ていたわたしも涙が出てきた。


 亡くなった猫ともう一度こんな形でサヨナラするなんて、まさか思わなかったよね。もしかしたら、ものすごくつらいイベントを二回も経験したことになるのかもしれない。


 だけどさ、わたしは思うの。


 それだけ泣いてくれる飼い主がいて、クーちゃんは本当に幸せだったと思うよ。

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