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クラスメイトの依頼

「レイレイ、ちょっといいかな?」


 いつものように昼休みの時間で三橋とだべっていると、クラスメイトの田代彩花から声をかけられる。


「何があったの?」


 わたしはいくらか怪訝に思いながら訊く。というのも、彩花がどこか深刻そうな顔だったからだ。イケメンの三橋に照れながら話しかける女子は多いけど、こんな顔でやって来る人は珍しい。


 わたしも三橋も彩花とはそこまで仲良しって感じじゃないから、なんで彩声をかけられたのかは分からない。


「三橋君って、頭がいいよね」

「まあ、本は読んでいるからそこそこは……」


 そう言って謙遜するけど、三橋は成績であれば学年のトップだ。本好きで毎日知識を放り込んでいるんだから、それも納得な気はするけど。


「それで、本好きの三橋に何か?」


 わたしがそう訊くと、彩花は周囲をチラチラと窺いながら小声で語りはじめる。「まさか告白?」って思ったけど、わたしがいたらそんな意味もないしね。


「あたしの家、何か変なの」

「変なのって、何が?」


 三橋が訊き返すのを見て、「そう言えば『変な家』っていう映画があったな」と思っていた。


「何て言うか、その……出るの」

「出るって?」

「その……ゆ、幽霊が」


 はばかりながらそう言うけれど、彩花の目はいたって真剣そのものだった。以前のわたしであれば「そんなのいるわけないじゃん」と一蹴しているところだろうけど、今はそのリアリティが分かるせいで前のめりになって聴いていた。


 彩花は自分で言葉を探しながら続ける。


「その、ポルターガイストって言うのかな? なんて言うか、家の中のものが触ってもいないのに動くの。たとえば筆箱とかが、少しずつズズズって動くみたいに」


 そう言って彩花は机の上にあるペンケースをゆっくりと動かす。


「そうなんだ」


 三橋はバカにしたりせず、彩花の話をしっかり聞いている。


「それで、親にはそのことを相談したのかい?」

「したんだけど、『気のせいだ』とか『まだ子供だな』って笑われるなばっかりで全然相手をしてもらえないの」


 そう言う彩花の顔には困惑と悔しさがいっぱいになっていた。気持ちは分かる。わたしだって幽霊が見えるなんて言った相当親にバカにされるだろうから。


「ポルターガイストねえ」


 三橋は彩花の言葉をじっくりと噛み締めている。目の前にいる本の虫は虚空を見つめながら何を思っているのか。


「どれぐらい困ってるの?」

「え? そりゃあ、怖くて眠れないよ。だって、私の家に悪霊がいるかもしれないんだよ?」

「悪い霊とは限らないじゃないか」

「そうだけどさ、人間じゃない何かが部屋にいる時点で怖すぎでしょ」


 そう言って彩花はちょっと泣きそうになる。


 うん、三橋。そういうとこだぞ。だからそんなにイケメンでも「なんか違う」って言われるんだぞ。


 そんなことを思いながら見ていると、当の三橋がまた少し考えてから口を開く。


「話を聞いただけじゃ分からないな。実際は霊じゃない何かが原因の可能性の方が高いだろうし」

「そんな……。じゃあ、私はどうすればいいっていうの?」


 彩花のリアクションもアレな気はするけど、のっけから心霊路線を外して話す三橋もどうなんだろうと思う。と、そんなことを考えていると……。


「ここじゃあデータが少な過ぎる。実際に田代さんの家に行って、何が起きているのか見てみるしかないな」


 ちょ……三橋、さすがに対して仲の良くない女の子の家まで現場検証にいくのはどうかと思うよ? イケメンだから許されているけどさ、普通だったら害虫でも見るような目で見られるんだからね?


 そんなことを思っていると、急に彩花が目を輝かせる。


「本当に? 三橋君が来てくれるなら百人力だよ!」

「いや、でも大して力になってあげられないかもしれないよ?」

「いいの。三橋君が家に来てくれるってだけで、私は本当に嬉しいんだから!」


 ――あれ? 何か話が変な方向に動き出したぞ?


 彩花は気持ち悪がるどころか、とんでもない幸運が転がり込んできたような喜びようだった。まあ、普通に考えてイケメンがおうちに来てくれたらそりゃ嬉しいだろうけどさ。


 だけど、当の三橋はそんな空気の流れにもまったく気付かず話を進める。


「じゃあさ、今日にも田代さんの家に行くよ。もちろん、田代さんが良ければだけどね」

「ありがとう。ただ、散らかっていると恥ずかしいから、予定は明日がいいな。最低限の片づけはしておきたいから」

「分かった。僕の方もポルターガイストの原因について調べてからお邪魔するよ」


 そんな感じで、トントン拍子で三橋の田代家訪問が決まってしまった。


 ――なんか、嫌だ。


 説明が難しいけど、わたしの心に浮かんだ言葉はただそれだった。


 このまま三橋が彩花の部屋に入って、なんだか恋人みたいな空気になって……みたいなのを考えるとすごく嫌だ。もしかしたら彩花はエッチなことを考えているかもしれない。そんな気さえ起ってくる。


 だけど、当の三橋は自分がクモの巣に足を踏み入れているであろうことはまったく気付いていないみたいで……って、まあ、そういう奴だもんね。三橋って。


 そう思ったら、わたしの結論なんて一つしかない。


「じゃあ、わたしも行く」


 三橋を一人だけで彩花の家へと向かわせるのは危険だ。そもそもポルターガイスト現象が嘘の可能性だってある。


「わたしは幽霊が見えるから、当然連れて行くべきだよね?」


 圧を強めに詰め寄る。三橋は苦笑いしていた。


「分かったよ。じゃあ、篠崎さんも一緒に行こう」

「当然よ。ちょっと、こういう女に気を付けなさいよね」


 至近距離で、耳元にヒソヒソとささやく。


「何か言った?」

「いいや、何も言ってないよ」


 そう言ってわたしは笑顔を作る。三橋も「ひとり言さ。気にしないで」と言っていた。それはちょっと強引過ぎる気がするけど。


 三橋しか見えていないせいか、彩花は特に怪しむ様子も見せずに「それじゃあ、明日はよろしく」と言ってわたし達のもとを去っていった。その足取りが最初に来た時よりもだいぶ軽やかだったのは気のせいだろうか。


 まあ、いいや。細かいことを気にするのはやめておこう。とりあえず二人っきりのおうちデートは防いだんだし。


 それにしても、三橋ってわたしが付いてないと本当にダメだな。別々の高校に行ったら誰が彼を守ってあげられるんだろう。


 でも、三橋の偏差値で行くような学校に、わたしは受かるのかな?


 ……もっと、勉強しよう。


 なんだか、色々と心配になる昼休みだった。

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