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伝言

「王都に戻るんだな」

レイスの言葉にジークが苦笑した。

「俺の仕事はソフィア嬢をここまで無事に送り届けることだ。いつまでもここに留まっているわけにはいかないだろう」

久しぶりに会えた元同僚は、王都に戻れば王太子殿下の護衛騎士として仕事を再開することになる。かつてはレイスも同じ仕事をしていたので、懐かしさが込み上げてくると同時に寂しさもあった。

兄の突然の訃報によって急遽辺境伯を継がなければいけなくなった。

そうでなければレイスも護衛騎士として王都に留まり続けていた事だろう。

そして、新しい辺境伯として森の精霊に会いに行くこともなかった。精霊はなぜかレイスの前に姿を見せることがなく、契約を結ぶことができていない。これはレイスを辺境伯として認めていないと捉えることができる。

この半年ずっと悩まされている事案だ。

兄がいてくれたら、こんな悩みを抱えることがなかったと今更思ってしまう。兄がなくなった寂しさと悔しさまで一緒に込み上げてきてしまって、レイスは気持ちを落ち着かせるように呼吸を整えた。

「何かあればすぐに殿下に報告してくれ。俺は何も役に立てないかもしれないが、そうだな、せめて応援の手紙くらいは書いてやるよ」

「・・・いらない」

レイスが暗い顔をしていたのだが、それは無自覚だった。励ますつもりでジークが冗談を言ったのだが、レイスは真面目に答えていた。

それほどレイスには余裕がなかったのだが、そのことも本人は気が付いていなかった。

「ジーク様」

このまま追い払おうかと考えていたレイスの耳にソフィアの声が聞こえてきた。

朝食後すぐに部屋に戻っていった彼女はジークを見送ることをしないのかと思っていたが、振り返るとソフィアは胸に封筒を1通抱えていた。

どうやら王都にいる誰かに手紙を届けてもらうつもりで部屋に戻っていたようだ。

「これを、殿下にお願いできますか?」

「殿下にですか?」

王都に残してきた家族や、友人にでも宛てた手紙だとレイスは思っていたが、王太子殿下への手紙だと聞いて意外に思った。それはジークも同じだったようで、手紙を受け取って不思議そうにソフィアを見た。

「はい。殿下とは学友というにはおこがましいかもしれませんが、何度も学園で顔を合わせていた仲です。卒業式で顔を合わせたきりだったので、せっかくですし、お手紙を届けていただければと思いました」

エリックからも何度かソフィアの話を聞いていたレイスは、2人が顔を合わせれば会話をする程度には知り合いであると思っていた。卒業式の時に王命が下ることを彼女は知らされていたのかもしれない。その後、エリックと会える機会もなくここへ嫁いできてしまったため、せめて手紙を書くことにしたのだろう。

王太子に対して、辺境伯夫人になったばかりの人間が手紙を送っても届けてもらえることはない。だが、エリックと会話をするくらいの学友であったことを考慮して渡すことはしてもらえると考えたのだろう。

受け取ったエリックがどう判断するかはわからないが。

ただの学友だったのだろうか。ふと、そんなことを思ってしまった。

手紙をジークに渡しているソフィアは楽しそうな雰囲気があった。それを見て、レイスはそんな考えが頭に浮かんだのだ。

時々話に上ってくる程度の存在。レイス達の前ではほとんど話題にされることのなかったソフィア=エリッド伯爵令嬢だったが、実際の2人の学園生活を見てきたわけではなかった。

どれほどの親密さがあったのか、それは本人たちしかわからない。

もしも、レイスが思っている以上に親密な関係だったのなら、エリックがソフィアを辺境領へ嫁がせた理由も変わってくることだろう。

「わかりました。殿下に届けます」

「よろしくお願いします。それから」

ソフィアは手紙をジークに託すと、人差し指を立てた右手を顔よりも高く上げた。

「『頑張れよ』とも伝えておいてください」

その瞬間、ジークが固まったが、レイスも息を飲んだ。

王太子に対してなんて言い方だ。そう思ったが言葉が出てこなかった。

「必ず、このジェスチャーも入れてください。そうしないと伝わりませんから」

「え?」

ソフィアは周りの反応など気にすることなく高く上げた指を強調していた。

言葉だけではなく仕草も重要なことのようだった。そうだとしても失礼な態度に変わりはない。

「それは、ちょっと・・・」

「大丈夫ですよ。ちゃんと伝えてくだされば、殿下にはきちんと伝わりますから」

ジークが断ろうとすると、ソフィアはなぜか自信に満ちていた。どこからその自信が来るのか、傍で聞いていたレイスもわからず唖然とするしかなかった。

そして、もしかするととんでもない令嬢が嫁いできたのではないかと思うのだった。

「それじゃ、俺はこれで」

納得していない表情をしながらもジークは手紙を受け取って馬車へと乗り込んでいった。

馬車が動き出し屋敷を出て行くのを見ていると、やはり少しだけ寂しさのようなものが胸の奥に疼いたのがわかった。

「お見送りも終わりましたし、旦那様は本日どうされますか?」

馬車が見えなくなると、ソフィアが軽く手を叩いてレイスに質問してきた。

明るく前向きな少女という印象を受けるが、先ほどの態度を思い出すと、無鉄砲で周りの空気を読まない人ではないかと思ってしまう。

「俺は出かける。君はまだ屋敷の中を案内してもらっていないだろう。エリオットに言っておくから、今日は彼からいろいろ教わるといい」

「わかりました」

素直な返事にほっとしてしまった。レイスがどこに出かけるのか彼女は聞いてこなかったが、そこを気にすることなくレイスは今日も森へ行くためすぐに準備を始めるのだった。


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