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選ばれた花嫁

ベッドに横になったレイスは大きく息を吐きだした。

天井を見上げながら、さっきまで一緒にいたソフィア=エリッドのことを考えていた。

書類上はすでにレイスの妻になっているので、彼女はもうソフィア=グリーストである。

紙一枚で簡単に夫婦になってしまった。恋愛感情などどこにもなく、王命というだけで顔を合わせて人となりを知る時間もすっ飛ばして結婚することになった。

政略結婚というのは貴族間ではあることだ。それでも、婚約者という時期を経て結婚することがほとんどで、その間にお互いのことを知りながら支え合えるように絆を結んでいくものだとレイスは聞いていた。

レイス自身は政略結婚をさせられることなく、エリック王太子殿下の護衛騎士として日々を過ごしていた。このまま一生独身だとしても、兄が爵位を継いで結婚し、その子供が辺境伯家を護っていってくれるだろうと疑うことがなかった。

「俺が辺境伯になって半年。急な結婚になって、卒業したばかりだと聞いていたから、成人したのも最近だろうな」

レイスは25歳。ソフィアは18歳なので7歳差になる。

玄関で顔を合わせた時、幼さをまだ感じつつもまっすぐな視線に意志の強さは感じた。

綺麗というより可愛いという印象の顔立ちではあったが、背筋をしっかりと伸ばし、視線は覚悟さえ持っているかのようだった。

夏の終わりではあるが、まだ薄い服装だったため、体つきもある程度わかった。貴族令嬢ということで、力仕事などしたことのない、少しでも力加減を間違えると折れてしまいそうな細さがあった。

「でも、胸はあったな」

そう口にして、自分は何を考えているんだと心の中で突っ込んでしまった。

「ここで生活していけるのか」

強い意志を感じる視線は確かにあった。だが、その意思がどこまで持つのかわからない。

ここはいつ攻め込んでくるかわからない隣国との国境になる領地だ。危険と緊迫感が常にある場所に突然来ることになって戸惑うことも多いだろう。もしかすると精神的に追い詰められて早ければ数日で逃げ出す可能性もある。

「王命とはいえ厳しいかもしれないな」

どうしてソフィアだったのか、そのことは手紙でも触れられていなかった。直接本人から聞けと言うことなのかもしれない。

そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。

ベッドから起き上がったレイスは素早く扉の前まで移動すると、音を立てないようにそっと扉を開けた。

「休まれているところ申し訳ありません。奥様のことについて少しお話が」

そこに立っていたのは執事長のエリオットだった。

「・・・入れ」

ちょうど考えていた人物の話ということで、レイスはエリオット招き入れることにした。

ここで立ち話をすると廊下に響いてしまって他の人に聞かれてしまう。エリオットの表情からあまり他の人に聞かれたくない内容のような気もしたのだ。

「それで、妻の事とは?」

妻という単語に違和感を覚えながら、レイスはエリオットに話をするように促した。

「本日昼過ぎにジーク=ダリーズ様と一緒に来られたのですが、その時の荷物がカバン3つだけでした」

「カバン3つ?」

花嫁が嫁入りする時、花婿側が支度金を相手側に送って、その資金で花嫁に必要な物を揃えて一緒に持ってくることが一般常識だった。

経済面の大きな負担になることもあるが、状況によっては花嫁側が持参金を用意することもある。

その資金で準備をするはずなのに、ソフィアの荷物があまりにも少なかった。

レイスは昨日結婚することを手紙で知らされたばかりだった。そのためソフィア側が持参金で荷物を準備するのだろうと思っていた。

エリッド伯爵は経済的にひっ迫しているという話は王都にいた頃も聞いたことがなかったし、学友だったエリックからもそんな話は聞かなかった。

「当てつけか?」

こちら側が支度金を用意しなかったことで、何も用意出来なかったと見せるためとも思ったが、伯爵令嬢をみじめな姿で送り出す親がいるのだろうかと考えてしまう。

レイスはこの時、ソフィアの両親が半年前に事故で亡くなり、ソフィアの居場所が伯爵家にないことを知らなかった。

「それに、使用人も連れてきておりません」

「1人も?」

「はい。そのことを不思議に思ったのですが、ソフィア様は気にされている様子がなく堂々としておりました」

余りにも異常な状態のはずなのに、ソフィアはほぼ身一つで嫁いできたことに何も言わなかった。

護衛をジークが勤めていたが、王命の結婚ということとレイスが元護衛騎士の同僚ということで来ていたようだが、彼もレイスに何も言わなかった。

「自分で調べろということか?」

王命で選ばれた令嬢だが、何か事情がありそうだった。

「エリオット。少しエリッド伯爵家について調べてくれ」

「承知しました」

精霊との契約もまだだというのに、厄介ごとを押し付けられたのかもしれない。

「しばらく様子を見たほうが良さそうだな」

隣の部屋にいる妻が今何を考えているのかわからない。とにかく彼女のことを知る必要がありそうだった。

やらなければいけないことが増えてしまい、頭痛がするような気がして、レイスはそのままベッドに戻るとすぐに眠りにつくことになった。


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