表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/49

真相の森

1人のメイドが必死に森の中を走っていた。

草丈が長くスカートということであまり先に進めていないが、それでも必死に前に進もうとしていた。

荒い息で森の中を走っていたが、やがて力尽きたのか急に止まると全身で呼吸するように大きく息を吸っては吐き出してを繰り返した。

「・・・ここ、まで・・来たら」

言葉が途切れながらも呼吸を整えて何とか落ち着こうとしていることがわかる。

「・・・・・一体、何がどうなっているのよ」

混乱していることがわかる言葉に、メイドは手で顔を覆った。

「どうして、クリス様があんなことに」

その光景を思い出したのか、メイドは顔から手を離すと、じっと自分の手を見つめていた。

「私が淹れたお茶を飲んだだけなのに」

メイドは自らの手で淹れたお茶をクリスに渡していた。いつも通り変わりない手順で余計なことをすることなくやった作業。クリスも何も心配することなくカップを受け取ってお茶を飲んでいた。

だが、そのとたんカップを落として苦しみだしたのだ。

その光景を思い出して体が震える。

メイドは何が起きたのかわからず混乱していた。

「あぁ、クリス様」

どうするべきだったのかわからないままでいたメイドに、突然部屋に入ってきた別のメイドにクリスが苦しんでいる姿を見られてしまった。

説明しようにも、自分でも何が起きているのかわからない状況を上手く話すことができなかった。

そんな状況でそのメイドはすぐに屋敷を離れろと言ってきたのだ。

どうしてなのか問う前に、背中を押されながら部屋を出され、すぐに森に行けと言われた。

混乱していたメイドは指示されるままに屋敷を飛び出して森の中を走った。

「クリス様は無事かしら?」

残ったメイドがクリスを助けてくれているだろうか。そんなことを考えていた時、背後で草を踏みしめる音が聞こえた。

驚いて振り返ると、逃げるように指示を出したメイドがいたのだ。

「ファルナさん」

名を呼ばれたファルナがメイドを見る。だが、その視線はとても冷たくメイドが恐怖を覚えるほどだった。

「ルミナ。こんな遠くまで逃げてきたのね。探すのに時間がかかったわ」

ルミナは視線で射抜かれたように固まってしまった。いつも仕事を一緒にこなすファルナはとても仲が良かったというわけではないが、顔を見れば挨拶をかわし、休憩時間に楽しくおしゃべりができるくらいには親交があった。

そんな彼女の様子が明らかに違っていた。

「ファルナ、さん」

「でも、あなたが逃げてくれたおかげでいろいろと上手くいったわ。そのことはありがとう」

何を言っているのかわからなかった。

ファルナが一歩前に進むと、ルミナは一歩後ろに下がった。

本能が彼女に近づいてはいけないと悟っていたのだ。

逃げなければと思いルミナは背を向けて走り出そうとした。だが、それよりも早くファルナが接近していた。あまりにも早い行動はメイドの動きではなかった。

そして、ルミナの背中に短剣を突き刺すことに迷いがなかった。

「屋敷に引き返してしまうと困るからここで死んでちょうだい」

深々と刺さった短剣は一撃でルミナの命を奪えるほどだったようだ。

その場に崩れるように倒れたルミナはまだ息があった。だが放っておけば確実に死が待っていることは明らかだったためか、ファルナはそのまま引き返すように歩き出した。

残されたルミナはその場を動くこともできずに静かに息を引き取った。

「・・・ルミナ」

動かなくなったルミナが倒れている場所はしばらく静かだったのだが、遠くから彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。

「ルミナ、どこにいる」

男の声は次第に大きくなっていき、やがてルミナが倒れている場所までやってくると、地面に倒れている血に染まったメイドを発見した。

うつぶせに倒れていたため顔を見ることができなかったが、メイドが倒れていることに気が付いた男はグリーストの騎士の格好をしていた。

驚いた表情で息を飲んだ後、急いで駆け寄ってルミナを抱き起した。

「ルミナ・・・どうして」

顔を確認した騎士が絶望した表情でルミナを見つめていた。

すでに息をしていないルミナが助かることがないことは騎士にもわかったようだった。

「誰がこんなことを」

背中を一突きされたルミナは殺されたのだとすぐに判断できた。だが、誰がどうしてルミナを殺したのかはわからないままだ。

「イグレイト王国の人間か?」

真っ先に思いついたのが敵国の存在だった。

「ここはチクニの森なのに、チクニが侵入を許したのか」

すでにクリスが殺されたことで契約が失われていることを騎士は理解していなかった。

「もう一人のメイドも無事だろうか」

その時はまだファルナがルミナを殺したとは思っていなかった騎士は、もう一人森に消えたファルナの心配をしている。

「もう一人を探さないと」

抱えていたルミナをそっと地面に降ろすと、騎士は名残惜しそうに彼女の頬を撫でてからその場を離れた。

たったそれだけで2人の関係性がわかるような気がした。

残されたのは動くことのないルミナと静かな森が風に揺れてかさかさと音を立てているだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ