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過去の真実

「チクニが旦那様にお話があるそうです」

書類に目を通していたレイスは、突然執務室に入ってきたソフィアにそう告げられた。

「話とは?」

一夜の戦争が終わって1か月と少し。エリック王太子殿下への報告も済ませて、グリースト辺境伯は落ち着きを取り戻し始めていた。

隣国との協議はあっさり済んでしまい、捕虜は帰された。

チクニの森が広がった分はグリースト辺境伯領となり、森に関してはチクニがすべて管理していたので問題がない限り穏やかな森の生活が続いていたはずだ。

「それは、チクニが直接会ったときに話をするそうです。私も詳しいことは聞いていませんし、森に来てほしいそうですよ」

穏やかな日常を取り戻していたレイスに、チクニが会いたいと突然言ってきたのだ。

チクニはソフィアと契約を結んでいるため、用事がある場合はソフィアを通してレイスに伝えられることになっていた。

ソフィアは何度かチクニに会っているようだが、今回はレイスも一緒に来てほしいということのようだった。

仕事は途中だが、森の精霊の呼び出しなら応じないわけにはいかなかった。

「一緒に行こう」

すぐに森へ行く準備をしてソフィアと一緒に屋敷を出た。

庭に回り込んでそこから森に行くことにする。

屋敷を出る前にソフィアの護衛騎士をしているニックに森に行くことを伝えてから庭に来たので、使用人や騎士たちが探し回る心配はないはずだ。

戦争も終わり、チクニとの契約もできたことで、屋敷には使用人が増えた。

ニックや騎士団長であるエクス、執事長などごく僅かの騎士や使用人はチクニと契約しているのがソフィアだということを知っている。ほかの者たちは辺境伯であるレイスが森の精霊と契約していて、隣国からの攻撃を防いでくれたと思っている。

ソフィアと話して周囲の混乱を防ぐためそのままにしておくことになった。

レイスはソフィアについていかなければいけないのだが、周囲からはソフィアがレイスに連れられて森に入るように見えていることだろう。

その矛盾に少しだけ罪悪感があるのだが、ソフィアは全く気にしていない様子だった。

そんなことを考えながら森に入ると、数歩進んだところで急に景色が変わった。

チクニがいる場所へと移動させられたことがわかる開けた場所に立っていたのだ。

中央にチクニが本来の姿で立っている。

『ようこそ』

静かな声がソフィアとレイスを迎え入れてくれた。

「話があるというから旦那様も連れてきたわよ」

内容を知らないが連れてくるように頼まれてソフィアはレイスと一緒に来た。

ゆっくりとチクニがレイスを見る。その目がどこか悲しげに見えたのは気のせいだったのだろうか。

「俺に話があると聞いたんだが」

『クリス=グリーストのことです』

「兄さんのこと?」

レイスの兄であるクリスがどうして毒殺されたのか、その最期を見ていたわけではないが感じ取っていたチクニの話なら聞いた。それ以外に何か言っていないことがあったのだろうか。

『契約者であったクリスの最期は話しました。そして、その後のことをまだ伝えていなかったのです』

「その後のことというと、逃げたメイドと騎士のことか?」

毒はお茶に混ぜられていた。それを飲んだクリスが倒れ、動けないところに剣を突き刺されたのだが、そのあとメイドが1人森に逃げ込んだ。それを追いかけるようにもう1人のメイドも森に入っていき、最後に騎士が一人追いかけた。

メイド2人は今も行方が分からない。騎士は森から抜け出したのだが、瀕死の状態で見つけられてそのまま息を引き取ってしまった。森の中で何が起こったのか誰も知ることができなかった。

森はチクニの領域だ。何が起こっていたのかチクニなら知っている。

「行方不明のメイドがどうなったのか教えてくれるのか」

生きているのか、死んでいるのか、それさえもわからない状態だ。

そして、死んでしまった騎士に何が起こっていたのかもわかるかもしれない。

そんな期待をしてチクニを見ると、彼女は浮かない顔をしてから両手を広げた。

『直接目にするのがいいでしょう』

それだけ言うと突然視界が大きく歪んだような気がした。立っているのか倒れているのかわからない状態になり、レイスは酔っているような感覚に襲われて手で顔を覆って視界を塞ぐことしかできなかった。

そして、目を開けた時不思議な光景を見ることになるのだった。


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