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新たな契約精霊

目が覚めた時、ソフィアはベッドで横になっていた。

見慣れた天井に、寝室にいることも理解できた。

「奥様」

声がしたのでそちらに目を向けると驚いた顔をしたリノアがソフィアをのぞき込んできた。

「・・・おはよう」

外が明るい。随分と寝ていたような気がして、ソフィアは起き上がろうとしたが、体がけだるく動くのが億劫に感じられた。

「まだ動かないほうがいいと思います」

リノアの気遣う声に、ソフィアは違和感を覚えて、ベッドに横になったまま質問をすることにした。

「私、どれくらい寝ていたの?」

「丸2日です」

「森にいたような気がしたけど」

「レイス様がここまで運んでくださいました」

「バークウッド伯爵が攻めてきていたわよね」

「それも、解決しています。戦争ではあったのでしょうが、昨日の時点で伯爵家が負けを認めました」

「ずいぶん早いのね」

「レイス様が攻めてきた伯爵の騎士たちを一掃しましたし、チクニの森が伯爵領の街に攻め込んだことで、すぐに伯爵が降参したようです」

ソフィアの質問にリノアが淡々を答えていた。

奇襲をかけたはずのバークウッド伯爵だが、すべてがレイスとチクニによって返り討ちにあったようなものだった。

レイスはイグストに攻め込もうとしていた敵をすべて捕まえたそうだ。

捕虜として現在イグストで管理されている。

チクニは森を拡大させると同時に、バークウッド伯爵領の街にまで伸びていき、街に対する警告をしていた。

それはチクニだけで成し遂げられるものではない。

ソフィアが力を貸すことで、一晩で森を拡張させたのだ。

小さな木ではあったが、森の道を作るように街まで伸ばしたのだ。

これがソフィアが考えた仕返しだったのだ。

チクニの森から伸びた木々は、すべてがチクニの森となる。当然木々を攻撃すればチクニへの攻撃とみなされて反撃にあう。

バークウッド伯爵はそれを恐れて離れた場所から火矢を放って攻撃をしていたのだ。

だからこそ、バークウッド領に入り込み、主要の街に食い込むことで、チクニの怒りの度合いを知り、決して攻撃してはいけなかったという後悔を抱かせることにしたのだ。

一度生えてしまった木はチクニの意思で枯らさない限り残り続け、森がいつも隣接している緊張感をこれからずっと味わうことになるだろう。

ソフィアは話を聞き終えると、重たい体を起こした。

「まだ寝ていた方が・・・」

心配したリノアが手伝ってくれながらも、ソフィアにまだ休むように言ってくる。だが、ソフィアは首を横に振った。

「ここで寝ていても仕方がないわ。それよりも旦那様はどうしているの?」

ソフィアが寝ている場所は森の屋敷の寝室だった。レイスが運んでくれたのなら彼も屋敷にいるのだろう。

「すぐに呼んで来ます。奥様が目を覚ましたと伝えていませんので」

ソフィアが目を覚ましてからリノアはまだ部屋から出ていない。ほかの使用人が顔を出すこともなかったため、レイスに伝える機会を逃してしまった。

「奥様はこのままで」

自ら部屋を出てレイスのところに行ってもよかったのだが、まだ体が万全ではない。

リノアが呼びに行くというので素直に従うことにした。

廊下をパタパタと走っていく音が聞こえ、リノアも慌てているのかもしれないと思えた。

『ソフィア』

レイスが来るまで暇になったなと思っていると、急に天井から声が2つ分聞こえた。

見上げればずっとそこにいたのかレラとワッカが降ってくるようにソフィアの胸に飛び込んできた。

『力の使い過ぎよ』

『そうだぞ。ぼくたちだって加減をしていたのに、チクニに力を渡し過ぎて倒れたじゃないか』

「ごめんなさい。あの時はバークウッドの街まで森をつなげたかったから」

精霊たちに説教されるが、ソフィアは力を使ったことに後悔はしていなかった。

森の中でチクニと契約を結び、攻撃してきたバークウッドへの仕返しをした。

チクニの力だけでは決してできない方法をソフィアが協力することで成し遂げたのだが、そのせいで力を使いすぎて倒れたのだ。

今も体が重だるく感じるのは精霊力が回復しきっていないからだった。

街と森がつながったことで、今後チクニがバークウッドにとって脅威になる。森から外に出られないチクニだが、恐怖心を煽ることは十分にできる。それに、いざとなればグリーストから一気にバークウッドまで移動して攻めることもできるようになったのだ。

バークウッドがこの事実を知ったとき、街を捨てて、新しい拠点を作るか、ずっといつ攻めてくるかわからないグリーストに恐怖を感じながら街を維持していくのかわからない。

そこは敵側が考えることであり、その反応によってレイスも対応していくことだろう。

「レラもワッカもご苦労様。森の外での戦いを解決してくれたでしょう」

チクニと協力する前に、レラとワッカは本来の姿で敵が火矢を放っていた拠点を攻めてくれた。

嵐を起こして風でテントを吹き飛ばし、雨で火を消し去った。そのあと嵐が敵たちを襲って、すべてを吹き飛ばして流してしまった。

今まで天気が良かったはずの場所に突然起こった異常現象。敵側は混乱しながら自然の力に翻弄されて陣営を組むこともできずに撤退することになった。

レラとワッカは敵を傷つけることをせず、押しのけただけだった。

それだけで十分だった。

役目を終えた精霊たちはソフィアのところに戻ってきたのだが、その時には契約を済ませたソフィアがチクニに力を貸して森を拡張しているところだった。

途中で止めることもできず、見守ることしかできなかったはずだ。

倒れた場面も見ていたかもしれないが、力を使い果たして倒れたことは理解していたはずだ。

ソフィアが倒れたことが力の使い過ぎだと判明しているため、怪我をしていないか具合が悪くないかと聞いてこないのがその証拠だった。

『今はゆっくり休みなさい』

『そうだ。まだ力が完全に戻ったわけじゃない』

レラとワッカも契約精霊だ。ソフィアの力が今どれくらい回復しているのかわかっていた。

「休んでいたいけど、そうもいかないでしょう」

精霊力は回復していないが、体力面は問題なかった。体のだるさは少しあるが、起き上がって屋敷を歩くことは可能だった。

ソフィアが意識を失っている間に何が起こったのかリノアが説明してくれたが、できればレイスからも話を聞きたかった。

ベッドで横になって病人扱いされては、まともに話をしてもらえない可能性もあった。

そう思って着替えをしようとベッドから降りたところで部屋をノックする音が聞こえた。

返事をするとリノアが顔を覗かせた。

「奥様。まだ寝ていてください」

ソフィアがベッドから出ているのを目にしたリノアが慌てて部屋に入ってきた。すぐにソフィアをベッドに押し戻そうとするが、体に問題がないソフィアは大丈夫だと笑顔で止めた。

「2日も寝ていた人間が、急に起きて動き回っていいはずがないだろう」

リノアを制していると、別の声が部屋に響く。

振り向くと部屋に入ってきたレイスが不満そうな表情を浮かべてソフィアをじっと見つめていた。

上から下までじっくりと確認するように視線を動かされて、居心地が悪い。

「旦那様」

「見た目には問題なさそうだな。でも、念のためベッドに戻ってくれるとありがたい」

ソフィアが動き回っていたことに不満があったようだ。

病人でも怪我人でもないのだが、いつまでたっても目を覚まさないソフィアを心配していたレイスたちにとっては、急に目を覚まして動き回るソフィアにハラハラしてしまうのだ。

リノアもじっとソフィアを見つめて、視線でベッドに戻るように訴えてきていた。

このままでは話ができないと思い、仕方なくベッドに戻ることになった。

「リノアから少し話を聞きました。戦争は終結したようですね」

「戦争と言えるだけのことが起こったようには思えない呆気ない戦争だったな」

一夜の反乱。それもバークウッドが騒いでグリーストがあっという間に沈めてしまった。

これを戦争と呼ぶべきなのか、それは今後の歴史書が判断することだろう。

「バークウッドが仕掛けたこととはいえ、イグレイト王国の宣戦布告と受け取っている。グリーストだけではなく、当然プリディード王国としても対応するつもりでいる」

戦争が起こったということで王都へ書簡を送っていた。一夜で終わってしまった戦争なので、手紙が届いた時には終結してしまった。

「つい先ほど返事が到着したんだが、応援の部隊を送るという内容も書かれていた」

その言葉は気まずそうだった。

もう戦争は終わってしまっている。戦う相手がいないのに部隊を送られても意味がない。

「急いで戦争の終結を報告する手紙を送り返したんだが」

『それなら問題ないわ』

気まずそうにしているレイスの横にレラがふわりと浮かんだ。

彼には見えていないのでソフィアは少しだけ視線を動かすだけにする。

『イメルと連絡が取れたから、状況は説明しておいたの』

王太子殿下の契約精霊である光の精霊イメル。人間の手紙よりも早く力を使って状況を確認しに来たようだった。風の力を使ってレラが対応してくれたようで、戦争が一夜で終わったことはエリックに伝わっているようだった。

手紙が届く前に上手く対応してくれるようだ。

「そこは陛下と殿下にお任せしましょう」

ソフィアはそれだけ言うと、他のことに話題を変えることにした。

「敵の捕虜は街にいるということですが」

「この屋敷に捕虜を置いておける場所がない。人間の領域にはなっているが、ここはチクニの領域に近い場所だ。敵を捕らえておくことをチクニが嫌うようで、街にそういった場所を作ってあるんだ」

国境であるチクニの森で敵を捕縛することは昔からあったようだ。

そういったときは森の屋敷ではなく、街の別邸に地下牢を設けていた。

しばらくは使われることがなかった地下牢だが、今は捕虜でいっぱいになっているらしい。

「リノア、彼女に飲み物と軽く食べられそうなものを用意してくれ」

話が区切られると、レイスがすぐそばに立っていたリノアに食事の準備を頼む。

何かを察知したのかハッとしたような顔をしてリノアが一礼して部屋を出て行った。

「ここから先は2人で話したほうがいいだろう」

どうやら2人きりになる口実を作ったようだった。それをリノアも察知したのだ。

「どんなお話ですか?」

「精霊について」

それだけで理解したソフィアは一度深く息を吸い込んで吐き出してから、レイスをじっと見た。

もう隠しておく必要はない。レイスもいろいろと聞きたいことがあるだろう。

覚悟を決めたソフィアは静かにレイスが口を開くのを待った。


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