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真実と苦悩

庭に出たが、外の風を冷たいと思うことはなかった。

庭を数歩歩いたところで、レイスは長く息を吐きだしてその場にしゃがみこんだ。

膝を抱えて丸くなった姿は、小さな子供が拗ねているように見えたかもしれない。しかし、今庭にいるのはレイスだけ、誰も見ていないのでそんなことをレイスに伝える者はいなかった。

「こんな結末とは・・・」

ずっと探していた森の精霊がなぜレイスと会わないのか、森の中を探しながらずっと考えていた。

レイスはグリースト家の人間だ。精霊がグリースト辺境伯家と契約していることは知っていたので、レイスもその資格があるとずっと考えていた。まさか、一世代に一人だけという条件があったなど思いもしなかった。

兄がチクニと契約した時点でレイスにはその資格がなかったのだ。

「兄さん・・・」

兄のクリスはそのことを知っていたはずだ。だから、クリスが死ねば契約が消えてしまうことも承知していた。生きなければいけなかったのに、彼は暗殺されてしまったのだ。

彼に子供がいたらその子供が契約者の資格を得ていただろう。だが、クリスは子供だけでなく結婚さえしていなかった。

爵位を引き継いで3年。もうそろそろ相手を探さなければと手紙に書いていたことを思い出す。

隣国が攻めてくるかもしれないという緊迫した領地だ。どこの令嬢であっても覚悟が必要になる嫁ぎ先になるため、結婚相手を探すのも苦労すると聞いたことがあった。

父も母と結婚したのが遅かった。

レイスも爵位を継いだが結婚は遅れるだろうと思っていたし、チクニとの契約が優先だと考えていたので、王命でソフィアと結婚することになったのは混乱もあったが驚きも大きかった。

風がレイスの頬をなでるように吹いていく。

「俺はこれからどうすればいい」

自分に問いかけたわけではない。だからと言って誰かに問いかけたつもりもなかった。

爵位を継いだことでグリースト辺境伯という立場は変わらない。

だが、森の精霊との契約者にはなれない。森の精霊と契約することで隣国が攻めてきたときの強い守りを得られていた。領地を守る重要な場所でもある。

その森の精霊の力を協力することなく守らなければいけなくなったのだ。

怪しい動きをしている隣国。契約できない森の精霊。

レイスはどうしたらいいのかわからなくなっていた。

もう一度契約できないか。そんな考えもよぎったが、チクニがソフィアを通じて契約が切れていることを伝え、レイスの前に姿を現すことをしないことを考えると、チクニはレイスと契約するつもりが一切ないのだとわかってしまう。

「もう、辺境伯は精霊との契約ができないのか」

辺境伯となる者は無条件でチクニと契約して領地と森を守っていくものだとばかり思っていた。こんな落とし穴があったなんて考えたことがなかった。

「兄さん、なんで殺されたんだよ」

そんなことを言っても仕方がないことはわかっている。クリスも好きで殺されたわけではない。結婚して子供がいれば状況は変わっていたが、殺されるなんて思いもしてなかったクリスは結婚を急ぐことがなかった。レイスも急かすようなことをしなかった。そのうち結婚して領地を守ってくれるのだと思い続けていたからだ。自分は王太子の護衛として王都で生きていくとも思っていた。

「殿下に顔向けができないな」

王太子殿下あるエリックはレイスのことを快く送り出してくれた。彼が光の精霊の契約者であることはレイスも知っている。同じように精霊の契約者になるのだと思っていたが、同じ立場になることは一生ない。

『精霊によって特徴や特性はそれぞれ違うから、アドバイスできることがないんだよね』

辺境伯としてグリーストに戻るとき、エリックはそう言っていた。とにかく怪我なく健康でいてほしいと言われて別れた。

エリックもレイスが契約者になることを望んでいたはずだ。そうなるという確信を持っていたのかもしれない。それを裏切る形にもなってしまった。

「役立たずの辺境伯だな」

殿下にどう説明したらいいのか、報告をしなければいけない。

契約できないことを伝え、その理由も明らかにしておく必要があるだろう。そして、今後の隣国との対応も考えなければいけない。

精霊がいなくても領地は守らなければいけない。

森の侵入者を協力して排除することができないため、騎士たちに動いてもらう必要があるだろう。

チクニが受け入れてくれれば、森の中で迷子になることも追い出されることもないはずだが、どう判断されるか実際に騎士だけで入ってみなければわからない。

それに、森の調査に人員を増やすことになれば、疑問を持つ騎士たちも出始めるだろう。いつかはレイスが契約者ではないことを打ち明けなければいけないはずだ。その時の騎士たちの動揺も想像すると胸にモヤモヤとしたものが浮かんできた。

「まずはエクスとニックに伝えないと」

契約できていないことを知っている彼らには先に言っておくべきだろう。

そして、街に住んでいる母にも真実を伝えなければいけない。夫を亡くし、息子を一人失ったイリアナは、もう一人の息子が精霊と契約できない役立たずだと知ったとき、どれだけのショックを受けるだろう。

「どうしてこんなに上手くいかないんだろうな」

誰かに問いかけたわけではない。当然誰もいない庭で答えてくれる者もいない。

「・・・・・戻るか」

いつまでもここにいても仕方がない。寝室に戻ろうと思って屋敷に入ったレイスだったが、寝室にはソフィアがいることを思い出す。

今戻って彼女と顔を合わせても、いつもどおりでいられる気がしなかった。

レイスは今どれだけ自分がみじめな顔をしているのか自覚があった。

寝室に戻ろうと思っていた足は、別の部屋へと向かうことになる。

誰も使っていない静かな部屋。いつでも誰か急に泊まりに来てもいいようにベッドには毛布なども用意されている客室だった。

勝手に使うことに一瞬抵抗があったが、それでも寝室に戻る気にはなれず、少しだけ申し訳ない気持ちになりながらレイスはその夜をそのベッドで過ごすことにした。

眠れる気もしなかったが、毛布にくるまってベッドに横になる。

目を閉じると体が急激に重くなったような気がした。

心も体も重いなと思いつつ、しばらく眠気が訪れるまでレイスは静かな部屋で過ごすことになるのだった。


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