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護衛騎士

それから3日。

森からの誘いがないまま、ソフィアは自室でお茶を飲んでいた。

庭に出ることもせず、様子を見ている状況だった。

自ら進んで森に入るのではなく、再び森が何かを伝えようとしてくるのではないかとソフィアはしばらく待ってみることにしたのだ。

その間に少しだけ屋敷内で状況が変わった。

「トールス卿。何か話題はないかしら」

静かにお茶を飲んでいるだけだと暇になる。いつもなら、精霊たちとおしゃべりをするのだが、今は部屋に騎士とリノアがいるため、ただお茶を飲むことしかできなかった。

扉の前に立っている騎士は、ソフィアの専属護衛騎士になったニック=トールスという22歳の若い騎士だった。

ソフィアが庭に出たことで、護衛をつけることをリノアが依頼していた。そこで指名されたのがニックだったのだ。

彼はレイスの護衛騎士をしていたのだが、彼自身王太子殿下の護衛騎士をしていたため、剣の腕は相当なものだ。レイスに護衛はいらないからと、代わりにソフィアの護衛に任命された。

レイスとは幼馴染だというニックは、ソフィアの護衛として挨拶をしてから、ほとんど会話をしていなかった。

「奥様とお話しするような話題は特に持ち合わせておりません」

静かに言ってはいるが、完全なる拒否だった。

どうやらソフィアの護衛に就いたことに不満があるようだ。レイスの側ならいつでも森に入れるし、騎士としての活動が十分にできる。しかし、ソフィアはほとんどを屋敷で過ごし、部屋の中に立っていることが多かった。これも立派な仕事ではあるのだが、体を動かせないことがニックには不満なのかもしれない。そうでなければソフィア自身を嫌っている可能性もあった。

『あたし、あの騎士嫌い』

『文句があるならいつでも相手になってやるぞ』

ニックの雰囲気を察知した精霊たちは、感情を隠すことなく警戒していた。精霊の姿がニックには見えていないので何を言っても彼の耳には届かない。ソフィアは文句を聞きながらも応えることなくお茶を飲むだけだった。

「そうね。それじゃ、庭に出てみようかしら」

このまま部屋にいても息が詰まりそうだった。精霊たちもストレスを感じているようだったし、外で羽を伸ばすのが一番だと思った。

「奥様」

庭に出ると言った瞬間、リノアが不安そうな視線を向けてきて、ニックは表情を動かさなかったが、かすかに体が揺れたのを見た。

「少しだけなら問題ないでしょう。庭を歩くだけだし」

特に隣国が攻めてきているという情報もなかった。落ち着いている今だからこそ散策を提案したのだ。

反対する理由もないはずだ。ソフィアは2人の返事を待つことなく部屋を出ようとした。すると、ニックが扉の前に立って動こうとしなかった。

「トールス卿?」

「お庭に出るのは危険かと」

「あら、今はそんな危険な状況だったかしら?」

部屋にいても会話が弾むことはないし、精霊たちもニックを嫌がっている。思い切り外を飛んだほうがいいと思うし、ニックもここにいるよりいいと思ったのだが彼の考えは違うようだった。

「お屋敷にいたほうが安全です」

任務は全うするようだが、おとなしくしていろという忠告にも聞こえた。

「あなたの指示を受けないと庭には出られないわけ」

「それは・・・」

「それとも旦那様が外に出すなと命令でもしたのかしら」

レイスが屋敷から出すなと言っているのなら状況は少し変わってくる。だが、庭に出てから護衛をつけてもらう間にレイスとは顔を合わせているが、そんなことは一言も言われなかった。

「そのような命令はありません」

「それなら、私が庭に出るのにあなたの許可が必要なルールでもあったかしら」

女主人の意見を妨げるのなら、それなりの理由を言ってもらう必要がある。あまり下手に出るとメイドたちのようになるかもしれないという思いもあった。

ソフィアが街から戻ってきて貴族らしくドレスに身を包み、レイスと同じ寝室で寝るようになると、見下していたメイドたちも立場を理解したのか、自分の仕事を全うするようになった。リノアの説教も効いたのかもしれない。

ソフィアはこの屋敷で女主人であることをしっかりと周囲に示さなければいけない。そのことを勉強したのだ。

「・・・ありません」

渋々のような雰囲気ではあったがニックは体を横にずらした。塞がれていた扉が見えて、ソフィアは何も言わずに部屋を出た。その間リノアは何も言わなかった。

だが、ソフィアの後を追うように部屋から出ようとした時、あまり納得していない表情のニックに一言だけ漏らした。

「奥様を甘く見ないほうが身のためよ」

声が聞こえたソフィアは、リノアはいったいソフィアのどこを見てそう判断したのか不思議に思うのだった。

今回は玄関から外に出て屋敷を回りながら森の様子を窺うように散策することにした。

森は屋敷を囲うように存在している。庭に行くまでも森と面していて森の様子をうかがうことができた。

庭に出るというのは口実で、森の様子を伺うことが目的でもあった。

玄関から外に出ると、精霊たちが勢いよく飛んでいく。

「何か感じる?」

小さな声ではあったが、精霊にはちゃんと届いていた。

『今は何もないよ』

レラの返事が耳元で聞こえてきた。風を送って声を届けてくれたのだ。

「庭のほうに行ってみましょう」

歩きながら森を眺めて進む。

後ろからニックだけが渋々後を追ってきた。リノアはついてこないことにしたようだ。ニック1人が護衛で問題ないと判断したのだろう。

庭に出ると変わらずきれいに整備されている。

さらさらと気持ちのいい風が吹いてきて髪を押さえたソフィアは森に目を向けた。

今のところ変わった様子は見られない。風が吹いて木々の枝が動いているが、特に変わった動きをしている枝はなく、ソフィアに気付いてほしいという合図のようなものも感じられなかった。

後ろに護衛がいるから、今回は何もしてこないつもりなのかもしれない。

そんな風に思っていると、かすかな違和感を覚えた。

木々の奥に何か動くものが見えたのだ。

森の中は人が立ち入ることはないが、動物たちも生息している。何かが屋敷の近くまで来ているのかもしれないと思ったのだが、その影を見た瞬間違うと思ってしまった。

ソフィアは無意識に足を森へと進めていた。

「奥様」

ニックの声に足が止まる。気が付けばすぐ目の前に森が広がっていた。

いつの間にか両肩にレラとワッカが載っている。

前回は忠告するようにソフィアの目の前に浮いていたが、今回は静かに見守ってくれているようだった。それでも離れてはいけないと思ったのか肩に載っていた。

ソフィアは次に庭に出るときは、森の精霊から何かの合図が来てもレラとワッカに間に入らないように言っていたのだ。

何かを訴えてくる精霊の意図を確かめるためだ。

「呼ばれたわね」

『このまま入れば森の精霊の領域だ。ぼくたちも力を抑えられる』

『それでもあたしたちならソフィアを守れるわ。心配しないで大丈夫よ』

頼もしい精霊たちの声に口元に笑みが零れた。

「奥様、それ以上は森になります。あまり近づくと危険ですので引き返してください」

後ろからニックの声が聞こえた。鋭い声はソフィアに対して怒っているのだろう。庭に出るという我が儘に従って、今度は森に入ろうとしている。余計なことをしていることにイラついているようだった。

だが、ソフィアはそんなことを気にしていなかった。

森の精霊が何かを訴えてきているのなら、それに応えるのが今のソフィアの役目になる。

「行きましょう」

精霊たちに向けて放った言葉と、ソフィアが一歩を踏み出したのは同時だった。

刹那。木枯らしのような突風がソフィアを包み込んだ。

一瞬のことで目を閉じたソフィアは、次に目を開けた時、森の中に立っている自分に驚いた。

『導かれたみたい』

レラの声にあたりを見渡す。

すでに屋敷がどこにあるのかわからない場所に立っていた。

『屋敷なら、それほど離れていないぞ』

ソフィアの心を読んだようにワッカが言う。精霊たちはどこにいるのか把握しているようだった。

「トールス卿は?」

『置いてきたみたいよ。あれは必要ないから』

あれと言うのはどうなのだろうと思いつつ、とりあえず無事ではあるようなので安心した。

前を見ると、森の木々が不規則に揺れている。

「このまま進めということかしら」

ソフィアが向いている方向だけ枝が揺れていた。まるでこちらが正解の道だと示しているかのように。

『ソフィアに危害を加えるようならぼくたちが黙っていないことは理解しているはずだ』

『進んでも大丈夫だよ』

草が生い茂っているはずなのに、ソフィアを前に進めるために、草が道を作って横に分かれている。ドレスなので長い草があると歩きづらい。ちゃんと道を作ってくれることはありがたかった。

「それじゃ行きましょうか」

精霊たちに話しかけてからソフィアは森の精霊に導かれるように前へと進んだ。

「そうだわ、レラ。念のため私の声をトールス卿に届けてくれる。急にいなくなって騒ぎになっているかもしれないから」

『えぇ』

ニックのことが気に入らないレラは伝言を頼むと拗ねたような声を上げた。

それでも、ソフィアがいなくなったことを知って屋敷中が大騒ぎになっている可能性もあった。レラの風でソフィアの声を届けてもらおうと考えたのだ。

とはいえ、ニックたちはソフィアが精霊と契約していることを知らない。突然声だけ聞こえてきたら、それはそれで騒ぎになるかもしれない。それでも、何もわからないよりはいいと思ったのだ。

「お願い」

『・・・わかった』

渋々ではあるがレラが承諾してくれた。

『伝える言葉を言って』

「私は大丈夫。森の精霊に呼ばれたようだから森に入ってくるわ。暗くなる前には戻れるようにするから心配しないで」

伝えたい言葉を言うと、レラが両手を空に向かって突き上げた。

『これで、あれに届いたわ』

ニックの名前を決して言わないレラだが、ソフィアのお願いはちゃんと聞いてくれたようだ。

「ありがとう」

礼を言って再び前へと進み始める。

「旦那様には会おうとしないのに、私には会おうとするなんて、どんな考えを持っているのかしっかり確かめさせてもらいましょう」

森の奥へとどんどん進みながら、森の精霊に導かれるようにソフィアはただ前へ進んでいくのだった。


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