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母の気持ち

「まったく、あそこまで朴念仁だったとは思いもしなかったわ」

「王都では恋愛経験がなかったのだと思います」

「本当に剣のことしか考えないで王太子殿下の護衛騎士をしているだけの生活だったのでしょうね。もう少し、女性に対して興味を示してほしかったわ」

「奥様のことをどこまで女性として認識しているのか疑問に思います」

イリアナの愚痴のような言葉に、後ろに従っているリノアも賛同するような言葉を返してくれていた。

前辺境伯はイリアナのもう一人の息子クリス=グリーストだったが、彼の突然の死によって、王太子殿下の護衛騎士をしていた弟のレイスが辺境伯を継ぐことになった。

この半年、息子の死を嘆いている暇などなかった。

爵位を継ぐつもりのなかったレイスが突然戻ってくることに辺境伯として仕事をしなければならなくなったが、引継ぎをしているわけでもない騎士をしていたレイスではすぐに辺境伯として仕事を全うできるはずがなかった。

イリアナができるだけ領主としての仕事を代わり、レイスの負担を減らすことで辺境伯領は今までと変わりない状態を保てていたのだ。

それに、彼には森の精霊と契約するという大事な任務があった。

その任務を全うできれば、少しずつレイスに仕事を任せるつもりでもいたのだ。

だが、レイスは辺境伯になって半年、いまだに精霊と契約できていない。

その理由はイリアナにもわからなかった。

このことを知っているのはごく一部の人間だけだ。レイス自身精霊と契約できないことに焦りもあるだろう。それを表に出すことをしない子だった。

そんな時にいきなり王命で結婚することになり、王都から顔を合わせたこともない伯爵令嬢がやってきた。

妻を娶ったことで何か心境の変化があるかもしれない。そんな期待を持っていたのだが、予想以上にレイスが女慣れしていなかったという事実だけが発覚した。

「リノアを屋敷に送っておいて本当によかったわ」

リノアは表向きメイドをしながら、辺境伯家の影の仕事をしている。

今回の結婚でまずはソフィアという人間を見極めるため専属メイドとして送り込んだのだが、ソフィアよりもレイスに問題があることを突き止めてしまった。

しかし、ソフィア自身にも問題があることも発覚した。

彼女は身一つで嫁いできたようなものだったのだ。

「私が何もしなければ、ソフィアさんはずっとあのままだったでしょうね」

「・・・おっしゃる通りだったかと」

レイスはソフィアに対して何もしていなかった。

精霊のことで頭がいっぱいなのかもしれないが、結婚した妻に対してあまりにも無神経すぎた。

森の屋敷のことを教えることはエリオットがやっていて、レイス自身はソフィアと一緒にいる時間もほとんどない。

たった数日の報告だけでイリアナは絶望感を味わった。

どんな人間かまだ定かではないにしても、義娘となったソフィアを放っておくことなどできるはずがない。

できるだけ2人でいる時間を作り、お互いのことを知ることができるようにしなければいけない。

そんなお膳立てをわざわざしなければいけないということに、イリアナはため息をつくしかなかった。

窓の外を見ると、ちょうど庭に面している部屋だったので、2人が歩いているのが見えた。

「もう少し距離を考えてほしいわね」

夫婦とではなく他人同士だと言われてもおかしくないくらい、レイスが先を歩き少し間をあけてソフィアが歩いていた。

ふつうは隣に立ってエスコートするものだ。

再びため息が出る。

「レイスに女性のエスコートの仕方を勉強させないと駄目かしら」

エスコートを受けていないソフィアは、初めて来た別邸の庭に興味があるのか、あたりをきょろきょろと見ながら歩いている。そのため先を歩くレイスと少しずつ距離ができ始めていた。

「歩幅があっていませんね」

リノアの指摘にも頷くしかなかった。

本当に勉強させるべきかと考えていると、先を歩いていたレイスが何かに気が付いたように立ち止まってソフィアを振り返った。

ソフィアはあたりを見ていてレイスが振り返ったことに気が付くことなくゆっくりとした足取りで前に進んでいた。このまま進めばぶつかってしまうとイリアナが思っていると、ソフィアも急に立ち止まった。上に視線を向けたかと思うと、レイスのほうへまっすぐに視線を向けて、距離が近いことに驚いているようだった。そんなソフィアにレイスが何か話しかけ手を差し出したのだ。

「あら?」

イリアナたちの意図が通じたのか、レイスはソフィアをエスコートすることに思い至ったようだった。

ソフィアがきょとんとした顔をしてから、レイスの手を取った。

彼がエスコートすることはソフィアの中になかったのかもしれない。

たった数日でも、レイスの対応はソフィアを放っておくという認識になっていたのだろう。

差し出された手をすぐに取れなかった反応から、2人の温度差も見えてしまった気がして、イリアナは心配するしかなかった。

「クリスなら、もっと上手くやれていたでしょうね」

そんな言葉が漏れた瞬間、ハッとする。

死んでしまった息子のことを口にしたのはいつぶりだっただろう。あまり考えないようにしていた。考えてしまうと心が悲しみに沈んでしまい、前を向くことを忘れてしまいそうだったからだ。だからレイスの前では特に普段通りの姿を見せるようにもしていた。

「クリスと比べても仕方がないわね」

「・・・・・」

リノアは何も言わなかったがきっと思うところはあったことだろう。

頭を振って思考を切り替えてから、もう一度窓の外に目を向けると、いつの間にかレイスの隣をソフィアが歩いていた。2人で何か会話をしているようにも見える。ただ、その表情はどこか固いように見えた。

夫婦というより初対面の男女のように見えてしまう。ここはお見合いの場ではないのだが。

「ソフィアさんもどこか遠慮があるのよね。もっとレイスを頼るようになればいいのだけれど」

そのためにはレイスが頼れる人間だと思ってもらえなければいけないだろう。その肝心のレイスもどこか距離を感じる様子だ。

仕方がないことではあるが、もう少し雰囲気が出てほしいと思ってしまう。

これから多くの困難が辺境伯領に迫ろうとしている。それを乗り越えるためにも2人には信頼関係を築いてほしい。政略結婚ではあったし、ソフィアの情報がほとんどない状態ではあるが、イリアナは2人がこれから支えあっていく良き夫婦になってくれることを心から願っているのだった。


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