7.前夜
「さぁ、エルナ様。次は此方に着替えて下さいね」
さっき着たばかりの服をアサナがいそいそとを脱がすと、また新たに服を着せた。
すると、わらわらとエルナの周りに侍女が群がった。
「髪飾りはどんな物がいいかしら」
「あら、これがいいんじゃない?」
「靴はやっぱりこれがいいわね」
「ブレスレッドは特注で頼んだほうがいいかな?」
「ドレスにあわせた方がいいですから、これで良いと思いますよ」
と、こんな感じに此処何週間か随分と忙しい。
もう衣替えは終わった筈なのに、何故か服やら靴やら全部引っ張り出して来て私に着させてみてはこれは違う、これも違うと侍女や家族総出で悩んでいる。
しかも、どれも普段着るような物ではなく煌びやかなお金掛かってそうな服ばかり…
宝石をふんだんにあしらえたドレスや、細やかなレースを巧みに使った靴など庶民には一生手の届かない物ばかり。しばし遠い目で虚空を見つめた。
これだけあるのに更に特注で作って貰おうとか…理解の範疇を超える…
うん、流石は貴族…
一応エルナ自身も貴族の一員なのだが、元居た世界の自分とは天と地程に違いすぎる環境に混乱していた。
なんかすごい所に行くのかな?
いや、でもなんで自分だけなんの……なんで自分だけなのーーーーー!?
そう心の中で山に向かったつもりで叫んだ。その叫んだエコーをBGMに、ほろりと出そうな涙をぐっと堪える。
そんな些か現実逃避に近い事をしながら、一刻も早くこの時間が終わることをエルナは切実に願った。
* * *
漸く、終わった…
既に皆退散した部屋で、エルナは一人ベットに伏していた。小さな体には何時間も続く着替えだけでも十分堪えるものがある。
寝返りを打つと明るい光が瞼を透かして見えた。何かと思い瞳を開くと、窓を覗く月が目に入った。
明日は満月かな…
少し満月には足りない月を眺めていると、いつの間にか眠りについていた。