‐.外出事情
この話は4~6の父母sideです
〈side:ーーー〉
厳格な空間の中、王座に座るのは貫禄漂う男。その男は不機嫌なオーラを隠しもせず頬杖を突いた。その姿を隣に座る女が窘める。
「ディーリス、いけませんわ。アルバスタ殿がいらっしゃるのに」
そんな女の言葉にディーリスは眉を顰めた。
「それくらい分かっている。だがなレイア、いくらなんでも遅すぎるだろう…ここに座ってから何分経つと思うんだ!?」
「凡そ10分程です」
その問いに横に控えていた優秀な部下が瞬時に答えた。レイアは呆れて言う。
「まだその程度じゃないいですか」
「例え10分でも王を待たせるとは何事だ!?」
理不尽極まりない事を言うディーリスに、レイアは冷たい視線を送った。
「あら?では、彼らが着く時間より30分も早く来た方は、何処の何方ですか?」
「うっ…」
ディーリスが言葉に詰まっていると、タイミング良く兵士が告げに来た。
「アルバスタ様とフレイティー様がお付きになられました」
ディーリスはこれ幸いとその話を終わらせそっぽを向く。
「…ふん、やっと来よって」
レイアからの刺さる視線に気付かない振りをして、ディーリスは座り直した。レイアは溜め息を一つ零すと正面に向き直った。
* * *
「アルバスタ=クレイヴ・アルデ・ルーン様、並びにフレイティー=クライヴ・アルデ・ルーン様ですね。どうぞお入りください。」
そう言って門番の男は、深く腰を折った。扉の向こうには見た目麗しい男がこちらを見ると、笑みを浮かべてやって来た。
「これはこれは、アルバスタ殿とフレイティー殿じゃないですか」
物腰柔らかな男に、フレイはにっこり笑い会釈を返す。
「ええ、お久しぶりですね。ノルドレス殿」
ノルドはフレイの笑みを見た瞬間、相好を崩した。
「嗚呼、フレイティー殿は何時見てもお美しい…どうです今夜私と…」
フレイの手を取って口付けるノルドを、アルバは容赦なく叩く。
「ノルド! 人の妻に手を出すなっ!!」
「いいじゃないか少しくらい」
「他の女の所でも行け!!」
睨むアルバを飄々と躱すノルドとの喧騒は止むこと知らず、寧ろ苛烈になっていった。
しかしフレイは自分の事で争う二人など見向きもせず、当たりをキョロキョロと見渡し、目に付いた兵士に声を掛けた。
「そこの貴方、ちょっといいかしら?」
「は、はいっ!!」
こっそりと様子を見守っていた兵士は、急に声を掛けられ挙動不審な返事をした。
「陛下の下に案内してくれるかしら?」
「わかりました!!」
そう意気込んだ兵士だったが、未だ喧嘩を続けるアルバとノルドをどうするべきか悩んだ。
「…あ、あの…アルバスタ殿は…」
「放っておいて構わないわ、さぁ行きましょう」
そうばっさりと切り捨てるフレイに、兵士はそれに従うのが一番だと思い拝謁室に案内することにした。
* * *
フレイは拝謁室の絨毯を踏みしめ、失礼の当たらない位置まで行くと、ドレスの裾を摘み、腰を折った。
「フレイティー=クライヴ・アルデ・ルーンです」
凛とした声が部屋に響いた。
「表を上げよ」
「はい」
許しを得たフレイは顔を上げ王座を見上げた。ディーリスは少し戸惑いながら尋ねた。
「…アルバスタはどうした。一緒ではないのか」
フレイは首を傾げて、口元に手を当てた。
「途中まで居たのですが…気付けば居なくなっていました」
困りましたねと満面の笑みで言われ、何も言えなくなるディーリスだった。
「フレイ、久し振りね」
黙ったディーリスに代わり、レイアがフレイに声を掛けた。
「王妃様もお元気そうで何よりです」
「あら、随分他人行儀だこと」
「場所が場所ですので」
ふふふと笑う二人に薄ら寒いものを覚えたディーリスは、アルバが早くここに来ることを切実に願った。
「あら、早かったわね」
そうフレイが呟くと扉が開きアルバが入って来た。
「先に行くなら行くと、そう言ってくれ…」
相変わらずなフレイに、アルバは少し疲れた表情を見せた。そんな二人に、ディーリスは咳払い一つした。
「今日呼んだのはな…」
話始めたディーリスの言葉を遮って、レイアは聞いた。
「お話が長くなりそうでしたら、フレイと二人で私の部屋でいても宜しいでしょうか?」
「…構わん」
「では、フレイ行きましょう」
「えぇ」
そう言って退出していく二人を待って話始めた。
「それで、呼びつけた理由は何ですか」
アルバの不敬に当たる物言いに、ディーリスは気にした様子もなく続ける。
「嗚呼、お前のところに娘が生まれたと言っておったな」
「言いましたよ?」
それがなんだと目で訴えるアルバに、ディーリスは意地の悪い笑みを見せる。
「ということで会わせろ」
「は?」
唖然とするアルバをそのままに、話を続ける。
「噂によると、フレイティー殿によく似ているそうじゃないか」
「…まさか、そんなことの為だけに人の休日を潰させてたんですか!?」
「そんなことじゃないだろう」
怒るアルバをディーリスは王の権限で一蹴し、止めの一言。
「来月のアレスティアの誕生祭には連れて来いよ」
がっくりと肩を落とすアルバに、拝謁室はディーリスの豪快な笑い声が満たした。