6.丘の上にピクニック
アサナに連れられリビングに向かうと思いきや、何故か玄関に着いた。
「スイ様、リア様、フォー様、ルセ様、レセ様。エルナ様を御連れ致しました」
アサナがそう言うと、皆一斉に振り向いた。そんな彼らにエルナは目を瞬かせていると、スイはふっと笑い言った。
「では、出発しましょうか」
スイを先頭に皆、二つの馬車に分かれて乗り込むと、御者の掛け声の後、馬の嘶きが聞こえると同時に動きだした。
アサナに膝の上で揺られる間、およそ10分。馬車は止まった。降りるとそこは丘の上で、あたり一面緑でそよぐ風が心地良い。
従者が木の下にシートを敷くと、お弁当を出した。皆が座るとおしゃべりを挿みながら、食事を始めてしまった。未だ状況を掴みかねていたエルナが、その様子をぽかんと見詰めていた。
それに気付いたクライヴ家次男かつレセの双子の兄でもある、金の髪に緑の瞳の少年ことルディーセキアは微笑んで話掛けた。
「ここはクライヴ家の領地の一つで、よく皆で来るんだ。僕らの思い出の場所なんだよ」
そんなルセの話を聞いて、にっと笑ったリアが言う。
「実はな、お父様がお母様にプロポーズしたのもこの場所なんだよ」
ニヤニヤ笑うリアをスイは下品だと叱った。剥れたリアを微笑ましく見守っていたアサナは、ふとエルナの方を見て言った。
「昔から旦那様と奥様は、此処に遊びにいらしゃっていたんですよ」
そう言ってアサナは懐かしそうに遠くを見つめた。幼い時からフレイに仕えてきたアサナにとっても思い出の場所だった。それは今も昔もかわらない。
エルナは、丘をじっくりと見た。
大きな木が一本だけ生えていて、足元に広がる緑に、丘の下に見える美しい町並み。風景は違えど何処か懐かしい気がした。
そうだ…此処はあの丘に似ているんだ。
もとの世界の最後の夜、星空を眺めに行ったあの丘。流れ星が綺麗だったな…
そんな風に感傷に浸っているエルナに、ルセは付け足すように言った。
「もともとお互いの家が昔から仲良くてで、生まれた時から一緒にいたんだって」
「そうそう、仲が良い二人を見た親が婚約させたらしいんだけれど…」
ルセに後に続くように話すリアは、わざと焦らすように間を空けて言った。
「お父様は“他人に決められて結婚するのではなく、この結婚は自分の意思だ”ということで、改めて結婚を申し込んだんだって」
随分ロマンチックだねと言うリアに、一同心の中で頷いた。
「今でもお父様とお母様は仲睦まじいくて羨ましい限りです」
そういうスイに、リアはニヤリと笑って茶々を入れる。
「ん? スイ兄はサシーラさんと出来てるじゃないの」
それに対してスイは澄ました顔で返した。
「俺はいいんですよ。それにリア、貴女は人の事言えるんですか?」
「なっ!?」
まさか自分に返ってくるなど、考えもしなかったリアは唖然とした。
「カーティス様と出来ているのでしょう?」
間髪入れずに暴露するスイに、皆口々に言う。
「あれそうだったんだ。おめでとうリア姉」
「すごいね!…ん? て言う事はカーティス様のことは義兄様って呼ぶべきなのかな?」
「…リア姉…おめでとう…」
「まぁ、それは…リア様、今日は御赤飯を炊きますね」
してやったりと笑うルセに、本気で悩み始めたレセ、くすりと笑うフォーに、真面目な顔で言うアサナ。
好き勝手に言う皆に口をぱくぱくさせていたリアは、顔を真っ赤にして否定する。
「違う! 私はアイツと出来てなんかいない!!」
それでもはいはいと言いたげに揃ってリアを生温かく見つめた。
赤くなったままリアは悔しげにスイを睨むと、スイは勝ち誇った笑みを見せたことにより、リアは憤慨する。
兄妹喧嘩が始まり一層騒がしくなった中で一人、サシーラって誰だ、カーティスって誰だとエルナは疑問符を並べていた。
兄妹喧嘩に収拾がついた頃、日は既に傾き掛けていた。急いで家に帰ると既にフレイとアルバは帰っていて“おかえり”と暖かく迎え入れられ、アサナからフレイに受け渡されたエルナは、母の腕の中で眠りに付いた。