5.“月の姫 と 太陽の王子 と 星の娘”
【遥か昔、この世界に、アルカドスという国がありました。
世界は、小国同士での戦いを、もう何年と続けていました。しかし、その争いは終わることがなく、どの国の民も疲れ果てていました。
アルカドスは、その数ある小国の一つに過ぎませんでしたが、どの国よりも一番平和でした。
ある日、お后さまは、双子の子供を産みました。双子の兄の名をアレスティア、双子の妹の名をアンクレイアと名付けました。
この二人は、生まれつき魔力を持っていませんでした。しかし、その代わり魔術とは一切異なる技を生まれながらに使うことが出来ました。
アレスティアは太陽のような輝きを放った金を使い、アンクレイアは月のような煌きを秘めた銀を使いました。それから、アレスティアは太陽の王子、アンクレイアは月の姫、と呼ばれるようになり、その噂は他国にまで広がりました。
各国の王は、その未知なる力に危機感を覚えました。そこで、密かに同盟を組むことにしました。アルカドスを滅ぼし、あわよくば、その二人を利用しようと考えていたからです。
アルカドスの王がそのことを知ったのは随分後のことで、後数日すれば各国が攻めてくるという絶望的な状況でした。
アレスティアとアンクレイアは必死に戦いましたが、二人だけでは如何することも出来ず、誰しもこの国は滅びると諦めていました。その時、王宮に一人の娘が『姫と王子と会わせて欲しい』と言ってきました。
その娘は見たこともない異国の服を纏い、手には星の杖を携えていました。王は、娘から魔術とは異なる不思議な力を感じ取り、一抹の希望をその娘に託して王子と姫と会わせることにしました。
とはいえ、戦場にいる彼らをこちらに連れて来させる訳にはいきません。王は『息子たちの下に直接行って貰えないか』と尋ねました。娘はそれを了解すると、星の杖を振り翳し何かを唱えると忽ちその姿は消えてしまいました。それを見ていた者は皆、唖然として言葉を失いました。
その頃、アレスティアとアンクレイアは圧倒的な戦力の違いに苦戦していました。もう既に力は残り少なく、二人はこの国の敗北を覚悟した時、戦場の真ん中に突如娘が現れたのです。敵軍はその娘に切りかかろうとしました。それに気付いた二人は助けようとしましたが、この距離では間に合わないと諦めかけました。しかし、娘が杖を振り上げると次の瞬間、襲い掛かった者は全て薙ぎ倒されていたのです。一瞬は怯んだ敵軍でしたが、再度娘に向かって行きました。が、結果は同じでした。新たな強力な敵に恐れをなした敵軍は基地へと撤退して行きました。それを見届けた娘は、アレスティアとアンクレイアの下に降り立ちました。
二人は娘に感謝し、協力を頼みました。それを娘は快く受け入れました。
その日の夜、三人で話し合っている時に、ふとアレスティアは『何故、そんなに強いのか』と娘に尋ねました。娘は『私はこの力の使い方やその知識を持っているから』と答えました。二人は娘に『その使い方や知識を教えて欲しい』と乞いました。娘はそれを受け入れ、二人に一晩でその全てを教えました。
それからの二人は、娘と劣らない程の力を発揮することが出来るようになりました。その後、三人は各国を見事打ち破り世界を統一し平和を治めることが出来ました。
世界中の人々が訪れた平和に感激し、三人に対して感謝しました。
後に、娘は月の姫や太陽の王子と並べて星の娘と呼ばれ、英雄と称え賞されました。
-完-】
絵本を読み終えたエルナは顔を上げ、時計を見ると読み始めてから随分時間が経っていた。
お昼まであと少しか…今の内に隠しとこ
枕のシーツを開け、その中に絵本を仕舞う。
これで安心と、ごろりと横になって考えた。
時々、兄姉から教えてもらう昔話やこの国の話を聞く限り、この国の名前は確かアルカドスだった筈。それならこの話は、この国が大国になった時の話なのだろう。
この世界は、魔法というものがあって、体内にある魔力というものを使って発動させるらしい。魔力の量やその属性、回復する時間は人によって違う様だが、それは誰しもが持っているものらしい。けれど、極稀に魔力を持たない人間が存在するらしく、その人は魔術とは一切異なる力を持つらしい。
それで話を戻すと、娘が戦場でどうとかの件は多少の脚色はされているかもしれないが、月の姫や太陽の王子や星の娘は何らかの形で存在していた可能性が高い。
となると、この絵本の信憑性はそれなりに上がるかな?
でも、挿絵の三人が美男美女だったのは、絶対違うと思うな…
そんな事を思っている内に、アサナがやって来て『ご飯ですよ』と言ってエルナの体を抱き上げた。