4.絵本
「じゃあ、行って来るわね」
「はい。お母様、いってらっしゃい」
「お父様も行ってらっしゃい」
「嗚呼。それじゃ、いい子にしてるんだぞ?エルナ」
アサナに抱かれ、うとうとしていたエレナの頬をエルナ達兄弟の父親であるアルバスタは撫でた。
『うー?(何?)』
なにやら今日は、お母様とお父様揃って外出するらしい。早朝から忙しいね…
寝るのが仕事の子供としては、今の時間は眠たくて仕方がない。
「アサナ、この子達のことお願いね」
「畏まりました。」
アサナは恭しくお辞儀をすると、二人は装飾煌びやかな馬車に乗り込んだ。
走り出した馬車を見えなくまるまで見送ると、アサナは家の方に向き直った。
「では、中に入りましょう」
アサナのその言葉を聞いて私は再び眠りについた。
* * *
目覚めるとそこは自室のベッドだった。
周りを見渡しても珍しく誰もいない。
これ幸いと、エルナは昨夜習得したばかりのはいはいで本棚に向かった。
そろそろこの世界の事把握したいしなぁ…
一応、文字について読めることは既に実証済みなので、文字に関しては問題はない。が、人目の方が今の自分としては問題だ。
1歳にも満たない赤ん坊が文字読めるってのは普通有り得ないからね。だから、誰も居ない今の内にせめて目星だけは付けておきたい。
エルナは高々と聳える本棚の前に座ると、一律に並ぶ本を眺めた。
本棚に辿り着いのまでは良かったけれど、さてどれから見ようか…
手が届くのは頑張っても2段目まで、椅子でも持って来ればもう少し上も見れるかもしれながまだ一段目も見ていないのにわざわざする必要はないだろう。
…それにしても、なんか絵本らしき物しかないような気がするのは気のせいですか?
でも、よくよく考えてみれば子供部屋に参考書なんか置かないだろうし、せいぜい辞書が限界だろうな……絵本でも史実に基づいて書かれた物もあるだろうし気を取り直して見てよう
でもどれにしよ…“クレハとカレハ”って普通のお話っぽいし、“紫蘭”って完全なるシンデレラストーリな童話だしなぁ…
ん?
“月の姫 と 太陽の王子 と 星の娘”
背表紙に書かれた題名は掠れて、叩けば埃が出そうな程に古めかしい絵本。
きっと親の代よりも、もっと前の人が読んできたものだろう。
…よし、これに決めた。ベットまで持っていって読もうっと。
もし、人が来ても枕の下にでも隠せばバレないだろうし
そう思ったのはいいものの、薄い絵本とはいえ0歳児の自分が持つには色々大変で、移動手段がはいはいのみなので背中に乗せてバランスを保ちつつベッドまで急ぐ。
しかし、急ぐとするりと背中から絵本が落ちてしまうし、落ちた絵本を背中に乗せるのもまた一苦労。また、はいはいしてもすぐに落としてしまう。
そんなこんなで、今にも人が来ないかとびくびくしながら、誰にもばれずにベッドに着いた。
背中に乗せていた絵本をベッドの上に乗せ、自分もシーツの端を掴み攀じ登る。
よいしょ。はぁ、やっと上がれた…
程良い疲労に達成感を覚えながらベットに寝転がった。
時計を見てもお昼までは、まだ余裕があるようだし読んでみようかな…
横に置かれた絵本を手に取り、ページを捲った。