3.占い
最近、ようやく一人で座ることが出来るようになった。まだ安定はしないが、寝たきりの時に比べてなかなかの進歩した方だと思う。
後、せめてはいはいとか出来るようになったら、それなりに動ける範囲が広くなるのになぁ…
「スイ兄、それもうちょっと向こうにやって」
「これでいいですか?」
「フォー姉さんこれはここでいいの?」
「…嗚呼…それは……」
ところでさっきから何をしているのだろう?
兄姉共に揃って私の部屋にいる。今日は週末なので家にいてもおかしくはないし、暇があったら(というか無くても)私のところに来るのもいつも通り。そこまでは全くいつもの週末なんだけど、皆何かの準備で忙しく動き回っている。
彼らは家具を少し移動し部屋の中央に何もない空間をつくると、床に白い布を敷き更にその中央に魔法陣が描かれた不思議な布を敷いた。
クレイヴ家長男、紅い髪に藍の瞳の少年ことスレイリヤは、ベットの上でその様子を伺っていたエルナの体を持ち上げ魔法陣の上に置いた。
なにやら儀式か何かを始めるようだ。気になって下に敷かれている怪しげな魔方陣を恐る恐る突いてみた。
…まぁ、何にも起きませんでしたが
そんな挙動不振なエルナの様子を、兄姉が好奇心旺盛な赤ん坊として微笑ましく見ていることを本人は知らない。
白を基調とした服を纏ったクレイヴ家次女、朱の髪に緑の瞳の少女ことフォーディティーナは、タロットカードを膝に置き、エルナの正面に座った。
これから何が起こるか一切検討がつかずに周りを見ると、兄姉達が固唾の呑んで見守っていた。
え? そんなに重要なことするの!?
「…エルナ……」
フォーが名を呼ぶ声が聞こえてエルナは前を向くと、彼女は聞き慣れない言葉を呟いた。
すると、魔方陣が光りだした。
うお!?
突然光りだした魔方陣に驚いて下を見ていると、フォーは膝に置いていたタロットカードの束をエルナの前に差し出した。その意味がわからなくてフォーの顔を窺った。
「…これに…手を当てて…」
訳は分からないが言われた通りにタロットカードに手を当てると、魔方陣は突如光を失いはらりと二枚のカードが落ちてきた。
逆さになった魔術師のカードと星のカード。
「…魔術師が逆さ…それに星って…」
「フォー姉、これってどういう意味なの?」
難しい顔をして黙りこむフォーに、エルナは何か不味かったのかと不安になった。
「大アルカナのカードですか…珍しいですね」
「なんで?スイ兄の時も私やフォー、ルセやレセの時も出たじゃん」
クレイヴ家長女、紅い髪に緑の瞳の少女ことフィリーリアは、さも当然だと言わんばかりに言った。そんなリアにスイは首を左右に振る。
「大アルカナは、本来めったに出ないものなんです。この家が特殊過ぎるんですよ…」
「ねぇねぇ、フォー姉。そうなの?」
こくこくと頷くフォーに、レセはへぇーと分かったような分かってないような返事を返した。
「それにしても大アルカナのみとは…」
神妙な顔付きで呟くスイはその先を言わず黙ってしまった。
そんな所で話終わられるとすっごい気になるんですけど!?
何があったのか聞こうにも言葉が話せない。その事はそこでお開きになってしまい、結局どんなことか分からず終いだった。
* * *
〈side:ーーー〉
「…お母様…」
「あら?フォー、結果はどうなったのかしら?」
エルナ達兄弟の母親であるフレイティーは、フォーが部屋にいることにようやく気づいた。そんな母親にフォーは意に介さずに淡々として答えた。
「…魔術師の逆位置に…星の正位置でした…」
「珍しいわね。それに星が出るなんて」
フレイは驚いたわと言ったが、驚いた表情を一切見せなかった。その姿に顔を顰めたフォーだったが、一瞬で気持ちを切り替え尋ねた。
「…エルナは…未定者ですか?」
「おそらくはね。星術を扱う者は今までいなかった訳じゃないけど…ふふっ、これから大変ね」
子供達の先に苦難が待っているの事が分かっているのに、それさえ楽しげに笑うに母親に、フォーは呆れた顔をする。
「…お母様は…楽しそうですね…」
「ええ、ここまで生む子全て非凡っていうのは、なかなかないもの。」
それもそうだと顔をしつつ、言葉に出さずに退出するフォーの姿に、フレイはやっぱり私の子だわと言って笑った。
―説明―
☆この話の世界の占いの方法は様々あります。
タロットカードを使った占いの方法は2つあって、一つは一般のタロットカードの正規の占いの方法と、もう一つはこの話オリジナル(完全作者の創作です。)の能力測定のためのタロットカードの占いの方法です。
☆もともとタロットカードは大アルカナと小アルカナがあります。
大アルカナは星や塔や吊るされた男などの22枚のカードです。
小アルカナはワイド、カップ、コイン、ソードの四種類あってそれぞれピップと呼ばれる1~10の数字札と、コートと呼ばれるペイジ、ナイト、クイーン、キングの人物札があります。ワイドは杖を象っていてトランプでいうクラブに相当し、カップは聖杯を象っていてトランプでいうハートに相当し、コインは硬貨を象っていてトランプでいうダイヤに相当し、ソードは剣を象っていてトランプでいうスペードに相当します。(分かりやすく言うとトランプに近いです。)
☆能力測定のためのタロットの設定はこうです。
小アルカナの場合、ピップが表すのは各四大元素の魔力の限界値でワイドは火、カップは水、コインは地、ソードは風を表します。また、コートが表すのは各才能の限界値でワイドでは魔術、カップでは聖術、コインでは商術、ソードでは剣術を表します。
大アルカナの場合、例えば魔術師が、正位置の場合=膨大な魔力を有するという意味になり、逆位置の場合=魔力を一切持たないと言う意味になります。もともと、この世界に住む人は大アルカナにある全ての能力を有します。しかし、能力を有するといっても0.1でも0.001でも0でなければ能力を持っている内に入ります。そして、大抵の人々がその能力を使える程は持っていない場合が多いのです。なので、大アルカナが出る場合はよっぽどその能力が多い者か、全くない者なのです。