27.影は宝玉を攫う
ある人は言った。世界は理不尽で出来ている、と。
そして、理不尽に遭遇した者は言う。理不尽な世界が憎い、と。
* * *
貴族と名の付く者はある例外を除いて領地を持ち、その領地に住む領民を統治する。
その例外に唯一適応されるのが、我が家クライヴだ。
王都に隣接する領地は7つに分けられ7大貴族、ないし4大武貴族、3大文貴族と呼ばれるルーン、シャノ、ミュー、フィー、フュー、ロー、エンの名を受け継ぐ者達が統治している。
だが、唯一ルーンの名を受け継ぐクライヴ家の領地のみ、領民が存在していない。とは言っても、人がいない訳ではないのだけれど。
まぁ、何が言いたいかっていうと、クライヴ領地には大きな街と呼べるものが存在しないってことが言いたいのだ。その為、クライヴ家の人間は基本的には王都にある屋敷に滞在する。
(職場だったり、学校が近いというのが一番の理由だけど)
「エルナ」
「あ、お母様」
帰って来て慌ただしい中、アースの誕生日を祝い、後日祭も堪能した後、ソルとお母様でクライヴ領にある我が家に帰ってきた。
「今日はソルと外に行かないのかしら?」
「ソルが今日は修行はお休みでいいって言ってました」
「お休み、ね?あの子達もいないのに暇でしょう?」
他の家族は皆王族の警護の任に付いている。レセ姉やルセ兄も自分のいない間に、アースの護衛の任に本格的に付き始めたらしい。とは言っても、学業が優先なのでまだお試しみたいなものだろう。
年末ということもあって、外に頻繁に遊びに行くわけにもいかずお母様の言う通り暇だ。とはいえ今年も残すところ4日、もうすこししたら自分の3歳の誕生日だ。今回はアースも家に来てくれる。あの日、お母様達に二人でお願いしたら、とっても良い笑顔で了承された。正直、もっと渋られるかと思ったが、結果オーライだろう。
今年の誕生日はソルとユノさんだけで、みんなからの手紙がなかったら忘れてた様なものだった。あれはあれで嬉しかったけど、今度はアースも来てくれる。初めて出来た同世代の友達に、年甲斐もなくわくわくしていた。
「そういえば、昨晩アルバが帰って来ていたわ」
お話でもしに行ってらっしゃい。そう言うとフレイは早々に何処かへ行ってしまった。
余裕のなさ気なお母様の様子に首を傾げつつ廊下に出た時、兄姉が不在時には静かな屋敷が何故か騒々しい。小走りでお父様の書斎へと向かった。
* * *
「お父様!」
「!エルナか」
「どうされたの?」
「ああ、王都との通信機や魔方陣に問題が生じてな」
「問題?」
「旦那様、やはり何者から阻害されている可能性があります」
首を傾げていると、アルバの後ろからアサナの緊迫した声がした。
「アサナ、直せそうか?」
「解析に時間が掛かるので、復旧まで一刻は掛かると」
余程の緊急事態なのか、お父様が焦っているのがわかる。
(普段使ってない頭をフルに活用しようとあのお父様が頭を抱えてる…)
「一刻、か。俺がここから馬を走らせたら…」
「大して変わりありません」
「だが…」
「状況を把握する為には通信機も復旧する必要があります。ここでじっとしていて下さい」
いつの間にいたのか自分の後ろにお母様が立っていた。
「フレイ」
「あなたがジタバタした所で何も変わりませんわ」
ほら廊下に出ていて下さいと、二人揃って追い出されてしまった。
「お父様、大丈夫なの?」
「…大丈夫だ」
普段は凛と響く声が今は頼りなく聞こえた。俯いて手元で光る媒体をぎゅっと握って、不安な気持ちを和らげようとする。が、次の途端、ドンッ!と何かが衝突した音と体が浮くような衝撃が身を襲った。
咄嗟にエルナを抱えたアルバは、2階であることも構わず窓から下りる。
すると目の前には、隕石でも落ちたのかという程の大きなクレーターがあった。アルバはエルナを地面に下ろし、へこんだ地面を慎重に下りていった。
「う、うぅ」
クレーターの中心には、呻き声を上げる王族直属の伝令服を見に纏った男がいた。
「おい、何があった!」
「ぅ、あ、た、大変で、す」
泥まみれでボロボロになった身体など構わず、伝令は顔を真っ青にして苦痛で喘ぎながらも必死に言葉にした。
「アース様が、攫われました」
【第2章 目覚め始め 了】