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星空で繋がる世界  作者: 江崎涙奈
第2章 目覚め始め
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24.滑り込みセーフ

 


「ソルーー急いで!」

「ったく、なんでこんなに急ぐ必要があんだよ」

「お母様からの手紙に、至急今日までに家に着くことって!」

「は?手紙って昨日届かなかったか?」

「そうだよ!」


 やっぱおかしいだろ。そうぼやくソルは、げっそりした顔をしていた。


 あの日、修行の為に家を出てからもうそろそろで2年経つ。お父様やお姉様、お兄様やアサナからは頻繁に手紙は届いたけれど、お母様からの手紙は今年の誕生日祝いの手紙を除いたら始めてだった。


 簡潔な文が書かれた紙に同封してあったのは、魔法省で発行された王都までの転移の切符。


 転移は、電車と同じで何処からでもそれを利用することが出来る訳ではない。電車でいう駅、この場合は魔法陣から飛ぶ必要がある。魔法陣はギルドもしくは、魔法省の庁舎にて使用可能で、ここからだと山を下って1日かかる所にある街まで行く必要があった。


 1日っていうのは、ソルと自分が普通に山を下った場合、掛かる時間だ。で、問題はそのペースで行くと5時間ほど前に役所が閉まってしまう計算になる。つまり、普通に行けば、今日中に家に着くことは不可能なのだ。


 でも、無茶を通してこそのクライヴ。普通じゃ不可能だというところもやってのけちゃうお家だから通る要請なんですね。うん…もうね、最近は非常識(クライヴ)の扱いにも慣れたもんだよ。


 この2年近く、いろんな所に行った。その行った先でクライヴと関わった人から、出てくる出てくる。伝説と見紛うほどの話を、日常の話の様にほいほいと。


 そして、その全ての最後締めくくるのは、必ずと言っていい程お決まりのパターン。やっぱりクライヴは非常識だって。


 でも、自分はやっぱり常識も備わった人間だからね。その辺りはその歴代のクライヴと比べると霞んで見えちゃうだろうけど。


「…い、おい!ちょっと待て!」

「何?」

「何じゃねぇよ!この先、崖だ!」

「うん?それが?」

「…は?」


 山道を駆け下りるというか、滑り落ちるくらいの気持ちでさっきから降りている。だが、このまま普通(・・)に降りていても間に合わないことに変わりはない。


「だから、これが時間短縮」


 そう、だがらこそのショートカット。(ここ)を降りれば、2時間も経たずに街に着く。


「いや、普通に考えて死ぬだろ!」

「もうね、普通とかの考えに縛られてたらクライヴ(ここ)で生きていけない事に気が付いた」

「そんな事を悟るな!」


 ハリセン持って叩かれそうな勢いで突っ込むソル。早まるな、死に急ぐだけだ!と必死に止めようとしているが、私だって何も考えなしに行動しているわけじゃない。


「大丈夫だよ、ソル」


 にっこり微笑んで森を抜ける。翔けた足は宙へと。一瞬の浮遊感から、下へと引き摺り落とされた。


「死ぬ時は一緒だから!」

「駄目じゃねぇか!!」


 何一つよくねぇ!と、ソルの必死の突っ込みに笑う。流石に何もしないままでは死んでしまうので、冗談はここまで。媒体を撫でながら唄った。


「“地へと叩き落とされる我らを浮き上がらせよ、飛翔するワシ(アルタイル)”」


 下向きに加速した体を包み込む様な風が上へと舞い上がり、宙に停止する。続けて重ねる様に唄う。


「“宙に浮かびし我らを地へ送り届けよ、降り立つワシ(ヴェガ)”」


 浮いた体はゆったりとした速度で地へと運ばれる。ほうと無事に着くことに安堵したソルを尻目に、瞬唄の効果を切ってしまう。


「ぶっ、」


とんと、降り立った先何か柔らかいものを踏んだような気がした。


「と、無事ついたよ…ソル?」


 何処にいったのかと、見渡していれば下から呻き声が聞こえた。そろりと下を見れば、地面に沈んだソルの姿があった。


 踏んでいた足をゆっくりと外し、そろそろと後退りをする。


「あ、じゃあ、先いくね」


 あは、はは、は…と笑えないながらも笑うと、のそりと怒気を纏ったソルが起き上がる。


「ぉい」


 あ、これはやばい。くるりと向きを変え全力で走る。


「待ち上がれぇぇ、このクソ餓鬼がぁぁぁぁぁ!!」




 * * *




 ソルと鬼ごっこに興じて森を走り回って、漸く森を抜けた時には予定してた時間より遅かった。


 叩かれじんじん痛む頭を抑え、役所に向かう。日も陰り時刻もあまりないので足を止めずに走る。


「あー、ソルの所為だよ!」

「だったら最初から大人しく殴られとけ!」


 怒鳴るソルの声にびっくりしてひっくり返るおばあちゃんを追い抜いて、ガラガラと閉まりかけた役所の扉の中へと滑り込む。


「ん?お嬢ちゃんか。待っとったんじゃが、中々来んじゃけんもう閉めようと思っとったとこじゃ」


 ほれほれ一応、魔法陣も繋げたままじゃ、早よう行きなさい。そう柔らかく笑うガストは、仰向けになったエルナの体を起こした。


 陣の中で待つソルの方へと背中を押され、そちらへ歩いて走っていく。光を放つ陣の中に体を納めると、今だこちらを見て微笑むガストに大きく手を振った。


「ガスト爺ちゃん、またね!」


 ガストが手を振り替えしたのを見て最後、視界が光で埋まった。


 次に目を開いた時、もうガストの姿はなく年若い女性が陣の外に立っていた。


「アルカドス国王都、オウス・フィストへようこそ!」



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