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星空で繋がる世界  作者: 江崎涙奈
第2章 目覚め始め
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2-.我が家は世間の非常識


 この話は23話とその少し後のソルsideです。



 


〈side:ソル〉


 クライヴ。アルカドス国の光の守護家、いや守護神とさえ揶揄される人外一家。あいつらには常識なんてものは通用しない。世間は才能溢れる奴らを見て、尊敬と畏怖を込めてクライヴは非常識の原語と呼ぶが、俺は違う。


 あいつらの異常さを肌で感じた上で言う。奴らは、非常識だ。




 * * *



「ソーーーーールーーーー!」

「うげ、」


 魔素を漂わせながら満面の笑みを浮かべて近付く少女(レセ)を見て、厄介な奴にあったと回れ右をしようとすれば、挟み撃ちするかのように背後から無言で剣を突きつけてくる少女(リア)を反射的に去なす。


 適当に蹴りをかまし、恐らく罠であろう方角だが構わず駆け出す。ここから、冗談抜きで笑えない鬼ごっこが始まった。




 * * *




「よっ、と」


 ある程度撒いて逃げてきたソルは、空いた窓から侵入すると、何事もなかったように廊下を歩き出した。


「あー、くそっ。あの餓鬼共」


 エルナとか言った少女を見てから見ると、更にあいつらの常識のなさがより一層酷いものに見えてくる。


(しかし、変わったクライヴの子だったな。 )


 カルティーエルナ。クライヴとルーンの名を受け継ぐ少女。ある意味クライヴらしからぬ少女で、ある意味クライヴらしい少女。


(だがまぁ、常識は…どうかはしらんが、一般の良識はありそうでまだ安心だな)


 今までを思い出し、今回は楽が出来そうだと安堵していると、先程の少女(レセ)の片割れが前を歩いていた。


「お、ルセ」

「ソル?レセがそっち行ったんじゃ?」


 顔が引き攣るのを感じながら、ガシッと頭を掴む。


「おい、あのバカ共なんで止めないんだよ」

「そんなのリア姉もレセも止めたら止めたで後が面倒」


 だから頑張って相手してと、さらりと流す。噛み付いてばかりだった少年の成長を喜ぶべきだが、これとそれは別だ。


「あのバカ共相手なんぞ、命が幾つあっても足りんわ」

「まぁ、ソルなら大丈夫だよ」


 そう屈託無く笑う。大丈夫な筈がないと、そう言おうとした時、首筋に嫌な物が走る。


 ぎぎぎっと音をたて首だけ振り返れば、目の前には、ニュウドウカジカ(にゅるじい)が。


 情けない悲鳴が口から飛び出し、奴らのけたたましい笑い声と共に家中に響き渡る。


 更に近付けて来ることを恐れて距離を取れば、未だに笑みを浮かべる少女達に嫌がらせ(これ)がまだ終わらないことを知った。


「おま、ルセ!」


 見えていたのに黙っていたなと鋭く睨むと、ルセは困ったような顔をして言った。


「フォー姉には逆らえないから」


 頑張ってというルセにもう振り返ることなく、走り出す。後ろから物騒な物を躊躇無くだしてくる少女達には、油断が命取りになる。


 これは冗談や比喩ではなく、事実だ。


「ソルーーーーーー」

「っこのクソ餓鬼共、こっち寄って来んじゃねーよ!」




 * * *




 その後は言わずもがな、少女(エルナ)を連れとっととあの家を出たソルだが、エルナがたかが数日程度の外出だと高を括っていたのを知らないソルが修行は少なくとも1年、その間は家に戻らないとの事を告げたのはそこから1週間以上も先の事だった。


 突然の宣告に固まるエルナに首を傾げつつ、ソルは話を続ける。

 

「本来なら武術、魔術を身に付けて貰うんだが、お嬢ちゃんは魔術を使えない。よって、基本的に武術を中心に教えていく。とは言っても、世の中魔術を扱う奴ばかりだ。よって、魔術の詠唱、発動条件、効果など覚えて貰う。だが、魔術なんてもんは幅が広い。どれだけ覚えても知らん魔術も出てくるだろう。その場合の魔術に対しての対応についても実践を交えて行うつもりだ。」


 矢継ぎ早に述べた言葉に固まっていた少女はなんとか頷く。次の説明に入ろうとすると少女は片手を上げ質問を投げかけた。


「ほしじゅつは?」


 大アルカナを持った連中をぽんぽん生み出すクライヴに例外はなく。少女もまた、大アルカナ持ちだ。しかも、未定者。未定者が有利な点は無数にある。だが、余りにも大き過ぎる欠点が一つ。それはある過去の例外を除いて、未定者にはそれを教えてやる指導者がいないという事だ。


「残念だが星術に関しては俺は知らん。一応自由時間を多めにしておくから始めは自学自習だな。まぁ、始めは使い方を覚えろ。ある程度使える様になったら、実践中に組み合わせたらいい」


 ああ、そういえばと思い付け足す。


「ユノの野郎が言うには星術は見つけることが大変だって言うから必要な事があれば言え」


 何のことかさっぱりわからんが、少女には理解出来るのか、納得した顔で返事をした。


「そんじゃ、まずは体術からだ。体術は無手で戦う時もそうだが、武術全般に必要になって来る。ただ通常、魔術には必要ではない、とされている。

 なぜなら魔術とは、基本的に後ろで突っ立って魔術をぶっ放し、辺りを一掃することが役目とされているからだ。

 だが、もし剣士が目の前にいたとしたらどうする?

 魔術を使うにも詠唱は長い。唱える時間を稼ぐにも、逃げるにも、対抗する術が必要になって来る。つまり、ここで体術の出番ってわけだ。まぁ、今では学院の魔法専攻学生も体術は必須となっているな。」


 魔法使いが体術を習うなんて昔じゃ考えられなかった。だから、あの野郎と会った時は度肝を抜かされたな。後で、魔術には体術が必要不可欠である理由を熱く提唱されたところで、理解も出来なければ興味もなかったが。


「お嬢ちゃんは星術、恐らくは魔術型だろう。普通なら最低限の体術を身に付ければいいんだが、残念ながらお嬢ちゃんが生まれたのはクライヴなんで、その程度では許されん。武術と極めた者と渡り合える位の武術を極めて貰うからな。」


 正直、クライヴの家訓や教えや習慣なんかは理解出来ないが、子供だから甘やかさないってとこは気に入ってる。


「先ずは体を解し、体力作りから始める。その後、型を少し教えるから、その型を体に慣らさせろ。じゃ、始めるぞ」


 それから朝は武術、昼は自主的に星術、夕方のご飯前後に魔術の暗記と中々子供には辛いだろうが、文句一つ言わない辺り我慢強いのだろう。だが、始めてから既に5日目。少しづつ疲れが出てきていた。6日目の早朝、毎朝させていた走り込みと軽い鍛錬を終えると今日と明日は休みにすることを告げる。


 喜びに満ちた少女に一抹の不安が胸をよぎり、何点か注意しようと下を見ればもういなかった。恐らく街へ行ったとは思うが。


「大丈夫、だよな?」


 クライヴとは言え、良識のありそうな少女を思い浮かべ、その場で迷う。


(クライヴだ、あの少女もクライヴなんだ。あの非常識人間(クライヴ)の血がそんなに容易く、……薄まるのか?)


 血の気がさっと引く音がして、その場を駆け出す。半ば外れていて欲しいと思いながらも、やっぱり少女も非常識(クライヴ)なのだと思い知るのだ。




 本文中にあった“にゅるじい”はニュウドウカジカという有名な深海魚の事です。にゅるっとしたじじいのような顔です。


 この魚についてはソルが幼少時代に植え付けられたトラウマから嫌いになった唯一の弱点ですね。その命名したのが誰かとか、誰がトラウマを植えつけたのか、また機会があれば書きたいです。


 では次回本編は、結構時間が飛びます。



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