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星空で繋がる世界  作者: 江崎涙奈
第2章 目覚め始め
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22.嵐の前の騒がしさ?

 


 モノトーンな世界で、小さな自分の手が小さな誰かの手に引かれ、夜の丘の天辺に向かって駆け出す。


 ただ何故か、待ってよに続く誰かの名前を呼ぶ私の声も、早くと私の名前を呼ぶ君の声も、歪に剥ぎ取られ聞こえない。


 頂上に辿り着いた二人は、肩で息をしながら無邪気に笑い合う。


 そして、空を指差し、君が言った。夜空に輝く、星が好きだと。私は、星を眺めながら言った。星が輝く、この空が好きだと。


 手を握ったまま、二人は星空を飽きるまで眺め続けた。




 * * *




「……ルナ、エルナ」

「ぅー…んあ?」


 目を薄っすらと開ければ、心配そうなアースの顔が視界一面に広がった。


(うぉっ、近いな…)


 微かに顔を引き攣らせていると、アースは驚きに目を見開き、ぱっと顔を綻ばせた。


「目が覚めたか!」


 そして、言葉をかける間もなくアースは、よし、今から医者を呼んで来てやる!と言い残し、扉の向こうに行ってしまった。


 悪い所どこもないのになぁとぽりぽり頭をかいていると、頭に何故かガーゼが貼ってある。よく触っているとタンコブが出来ているのに気付いた。


 すると、眠っていて鈍くなった神経が徐々に戻ったのか、後頭部にじんじんとした痛みが襲った。気休め程度に摩っていだが、ふと、気を失うまでに持っていた本の存在を思いだして手を止めた。


(そういえば、本…本は?)


 ごそごそと枕元や、布団、机、椅子、挙句には床の下を這って探したが、ない。


(うぁぁぁぁ、ないよーーー)


 半ばパニックになりながらうろうろしていると、扉の向こうからどどどどっという無数の足音がしたのを聞き、思わずベットの中に潜り込んだ。


 何事かと布団を少しずらすと、勢い良く開いた扉から家族(ただし、一部を除く)が雪崩れ込んできた姿が見えた。


「エルナ!大丈夫か!?」

「ちょ、お父様、邪魔!エルナ、怪我したんだって!?」

「痛くない?大丈夫?」

「くっ、レセ、引っ張るな!!「ルセは心配じゃないの?」誰もそんな事言ってないだろ!」


 決起の如く詰め寄る彼らの後ろからひょっこり頭を出したフォーが、心配そうな顔を覗かせていた。


「…大…丈夫?」


 それに対してこくこくと頷く。すると、フォーはほっとして優しく微笑んだ。


「怪我人相手に煩くしてはいけませんよ」

「あ、スイ兄」


 開けっ放された扉からスイに続いて、お母様とアースと初めて見る初老がにこにこしながら入って来た。


「ノスじぃだ!」

「ちょ、」


 跳ね上がるように喜ぶレスが、ルセを連れその初老のもとへ走る。


「ふぉっふぉっふぉ、レセ様は元気ですなぁ。おお、ルセ様はなかなか男らしさが出てきましたな」


 頭をくりくり撫でられ喜ぶレセと照れ臭そうにはにかむルセ。


「しかし…少し見ない間に御二人共大きくなられてたのでは?最近は医務室には来られないので寂しいですぞ」

「だって最近はあんまりけがしないもん」

「それはなによりじゃな」

「イーノス殿」

「おお、アース様すまんかった」


 誇らしげに笑うレセに、暖かな笑みを浮かべ返すイーノス。祖父と孫のようなほのぼのした会話だったが、横にいたアースが痺れを切らし、中断されてしまった。


「さて、エルナ殿何処か痛い処はありませんか?」

「ここ」


 そう言って後頭部に貼られたガーゼの上に手を乗せる。


「頭だけですな?」

「あい」

「コブになっていますな」


 うーむと唸るイーノスに、アースは不安気な顔で問う。


「イーノス殿、エルナはどうなのだ」

「詳しいことは見て見なくてはわかりませんが、おそらく大丈夫でしょう」

「そうか」


 ほっと肩を撫で下ろしたアースに、神妙な顔をしたイーノスが…ですがと付け加えた。


「髪の下の為、目で直接確認する事が出来ません」

「そ、それでは絶対大丈夫か分からないのか?」


 イーノスがええと頷く。


「念の為、剃ってみた方がよいですかな?」

「そうだ、剃って貰った方がいい」


 茶目っ気のある笑みを浮かべるお医者様が目の端に見える。心配顔のアースには悪いが、この話はご丁寧に辞退させて頂きました。


 イーノスが退出した後、そういえば、気を失っている間、何か大事なことを思い出しかけた様な気がして、首を捻る。だが、にこにこと微笑んで見ていたお母様の発言によって疑問は遠くへ追いやられた。


「ふふふ。そういえば、目覚めの儀式も無事すんだことですし、翌週から先生をつければ、来月までには修行に出せますわね」

「…あい?」


 突然何を言われたか理解出来ず、一時停止する。


「フレイ、あいつなら翌週とは言わず明日にでも来させればいいじゃないか」

「ソルが来るのか!」

「リア姉…嬉し…い?」

「当然。次会った時、負かすって決めてたんだから!」


 がやがやと騒がしいる中、珍しくレセがスイの裾をおずおずと引っ張った。


「どうしましたか?」

「ユノさんはー?」

「ユノさんは今回はこっちまで来ることが出来ないので、後日合流になる筈ですよ」

「そっかー…」


 残念そうな顔をするレセに、ルセが声を掛ける。


「レセ、会いたいなら会いに行けよ」

「ううん、まだだめ」

「…そうか」


 何かを決めた顔をしたレセに、ルセはそれ以上言うのを止めた。


 正直、盛り上がっている所悪いのだけれど誰か説明してくれないかなと、周りを見渡していると同じように困惑したアースの姿に安堵する。


 結局、思い出話に飛んだ為、初めの話がなんだったのか聞けず仕舞いに終わったのだった。




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