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星空で繋がる世界  作者: 江崎涙奈
第2章 目覚め始め
25/37

19.1歳と3日〈前編〉

 


 日も明けたにも関わらず静まり返る廻廊に、頼りない足音が響く。


 神聖さの漂う白で統一された丸い部屋。天井はなく、円で切り取られた青い空だけが覗いていた。床は扉のある場所から中央に向って傾斜があるのか、水が溜まっている。そろそろと足を進め、中央にいるお母様の元までつく頃には、脹ら脛まで水に浸かっていた。


 本来は此の場でしゃがむ必要が有るらしいけど、そこは幼児には不可能な為しなくても良いとのこと。頭を下げ、次の指示を待つ。


「表を上げなさい」


 声が響く。ゆっくりと前を向くと、シャランと音のしそうな美しい服を纏ったお母様がいた。占い師というより、聖女のような清らかな姿で、正直、この人が6児の母ですと言われても信じられないだろう。


「それでは、“始める”」


 不思議な韻律で紡がれる、古代語。魔術などで用いられる言語で、この言語は誰が聞いても意味がわかる不思議なものなのだ。


 お母様の言葉を受け、天で円を描くようにカードが浮かぶ。


「“カルティーエルナ=クライヴ・アルデ・ルーン、汝の内に宿りし力を示せ”」


 すると、その中からキラキラと輝く二枚のカードがエルナの元へと落ちて来た。


 水面に浮かぶカードは揺られることはなく静止している


「“汝、秘めし力を目覚めんと願うか?”」


 お母様の言葉と共に、私の答えを待つようにカードはちかちかと光る。


「“我は、願う”」


 そう古代語で答えると、瞬間、眩い光に包まれた。次に、目を開けた時には既に水面に浮かんでいたカードはなかった。


「あら、星は手元に残ってしまったのね?」


 そうお母様に言われて初めて、手元に一枚のカードを握っていた事に気付いた。


 返すべきかと思い、カードをおずおずと差し出すが、お母様は首を横に振る。


「大切に持っておきなさい」


 全ての事に意味があるのだから。そう意味深に語りかけ、微笑む。


 踵を返すお母様に首を傾げながら、手元に残ったカードを見る。少女が媒体を手に携え、空には輝く星々が。透明な不思議なカードを懐に仕舞い、お母様の後を追い掛けた。




 * * *




 向かった先にいたのは、グラデーション…じゃなくてクルドさん。


 クルドさんは星の飾りのついた鍵を取り出すと、傍にあった扉の鍵穴に差し込んだ。きぃと音をたて扉が開けば、中は吸い込まれそうな程に真っ暗だった。


 お母様を見ると行けと言わんばかりに先を促され、扉の向こうへと足を踏み入れた。


 あまりにも暗く、どこに行くべきかわからない。というよりは実の所、ここに来た目的を全く理解していないのだ。


 今からどうするの?と振り向けば、扉を締めるクルドさんの姿が見えた。唯一の光源である扉が閉じられ、正真正銘暗闇になったわけだ。


 これ、暗所恐怖症の人にしたら発狂ものだよ。違ったとしても幼児にこれはトラウマになること間違いなしだって!!


 扉を叩いて開けて貰おうとし、扉のあった場所に手を伸ばした。が、空を切る。足を進めてみても一向に壁らしきものは見当たらない。何度か試してみても同じ。


 止む無し、適当に歩き出す。それからどれ位歩いただろうか。先に微かな明かりを見つけた。


 やっと見つけた光明に走り出せば、いつの間にか無機質な床から、草に覆われた大地へと変わっていた。


 立ち止まり、周りを見渡すが、やはり黒い靄に覆われているか見えない。もう少し光に近付けば、今度は風が肌を掠めた。更に光に近付けば、その正体が見えてきた。


 光は杖の媒体部分に浮かぶ、小さな宇宙のような丸いラピスラズリを中央に渦巻いている。更に媒体を囲うように幾何学的な歯車が幾重にも重なっている。


 キラキラと輝く杖を手に取ると、光は霧散してしまった。また暗闇に放り出されるのかと、辺りを見渡せば、あの黒い靄は既に晴れていた。とはいえ、夜なのか結局真っ暗だ。ただ、何故か周りの様子がわかる。


 ここには見渡す限り視界を遮るものはなく、広大な大地が広がっていた。そして、空には頭上にキラリと光る星が一つ。じっと見つめていると、脳裏にぼんやりと名前が浮ぶ。


「…“ベネトナシュ”?」


 そう呼べば返事をするかのように瞬く。


『はい、初めてましてですね?ご主人様』


 しゃべったぁぁぁぁ!?




 * * *




 ベネトナシュという星は、大熊座の、更に言えば北斗七星の中の一つで、別名、先導者(アルカイド)とも言う。詳しい事は割愛するとして、彼は自らは先導者の役割を担っていると言っていた。簡単に言えば、チュートリアルやナビゲーターに当たる存在だとも付け加えてくれた。


『本来、星単体に意思は与えられません。が、私の場合は新たに星を得る者が迷わぬよう、その媒体から力を頂き、特別意思を持つよう、初代様の手によって呪文を刻まれております。』


 初代様?


『はい、最初の星術使いであり、我らを生んだ生みの親のような方です。因みに、その杖は初代様が生涯使ってらした媒体です。』


 これがそうなのかと、感慨深気に触ってみる。ペタペタ触っていると、よく握っていた場所なのか擦り減って剥げた部分があった。そこに手を添えるとしっくりとくる。


『まず、ご主人様の媒体を手に入れる必要がございます。』


 媒体?これじゃ駄目なの?


『駄目ではなく、ご主人様に合わないといった方が正しいです。魔術は一応凡庸性があるので、他者と同じ物を使っても構わないのですが、特に星術は特別な術なので使用者によって多種多様な使い方をなさります。ですので、まず、ご主人様にあった媒体を探しましょう』


 媒体を探すって、ここで?


 はい、続きは歩いながらと言って、頭上で光っていた星が降りてきた。そうして、ふよふよと杖の周りに漂う。地面が照らされたところで歩き出した。


 そういえば、此処って何なの?


『正確な所、私も理解はしておりませんが、初代様は私のプラネタリウムと呼んでおられた空間です』


 私のプラネタリウム?それってどういう意味か問えば、暫しの沈黙の後、ベネトは濁した。


『…いずれ分かります。さぁご主人様、着きましたよ』


 そう言われて着いた場所は、今までの場所と何ら変わりない、ただひたすら平坦な場所だった。


 …着きましたって、何もないけど?


 首を傾げていると、ベネトは。


『足元に石が転がってませんか?』


 言われて、杖を下に翳せば大小様々な石ころが転がっている。


 あるけど?…まさか、これ、とか言わないよね?


 一縷の望みを掛けて問えば、ベネトは肯定するように輝く。


『そのまさかです』


 杖で輝くラピスラズリのような綺麗な宝石が媒体になるのだと思っていたばかりに、ショックを隠し切れない。


 打ちひしがれるエルナに、ベネトはあれはどうですかと、転がる石に近づいた。


 そこには、滑らかな楕円を描いた石が二つ転がっていた。手に取ればしっくりと嵌る。


『良さげですね』


 満足そうに笑うベネト。未練がましくラピスラズリを羨むエルナを傍目に、それでは、調律しましょうと言って、言葉を紡ぐ。


『“我ら()が紡ぐ願いの唄をカルティーエルナ()は詠みし者”』


 ベネトの詠唱と共に、石は淡い光を纏う。


『“星が石なれば、意思は輝き、輝きを宿すカルティーエルナ()は星を得る”』


 光は収縮していき、呆然としていたエルナの両掌にはラピスラズリが一つずつ収まっていた。


『それが貴女様の媒体です』


 まじまじと媒体を見る。


 これが、私だけの媒体。


 歓喜に震える胸を抑え、目を閉じる。すると、確かに今まで感じたことのない未知なる力の片鱗を感じ、手指が妙に疼く。


 魔法とか使いたいなと思いを馳せるエルナに、ベネトは杖を適当な場所に差して向き合った。


『では、帰ろうと思いますが、これから言う言葉は、今後必要になりますので、覚えていて下さい。

ーー“仮初めの夜は裂け、世界は元に戻る”』


 そうベネトが唱えると、世界は光に包まれた。



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