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星空で繋がる世界  作者: 江崎涙奈
第2章 目覚め始め
23/37

17.城下へお忍び?

 


 目が覚めたらそこは自分の部屋ではなく、異性が隣で寝息をたてていました。


 ...このフレーズだけ聞くと、何やら如何わしい状況に思うかもしれない。とはいえ、所詮先日1歳になったばかりの幼児と5歳の子供が同衾した処で、心温まるエピソードくらいにしかならなかったりする。まぁ、横で愛らしい寝顔を覗かせる少年を、ほっこりしながら見ている私もとい幼児という何とも奇妙な構図ではあるけれど。


 ただ、お腹がきゅーきゅーなっているそんな状況でもなお寝ているアースにもそろそろ起きて欲しい。気持ち良さそうな眠る幼気な少年を起こさせるのは忍びないけど止むを得ない。


 全ては朝食の為...いざ‼


 むきゅ。


 鼻を摘むことその間数秒。微かに漏れる呻き声に罪悪感が頭を擡げる。


 どんどん険しくなっていく顔を見て、流石にそろそろ危ないかなと思って手を放し掛れた。その時、ゆっくりと瞼が開かれる。


「ぷはっ...む、カルティーエルナか?」

「あい、あれしゅてぃあしゃま、おきてくだしゃい」


 わかった、と言うとふらふらしながら呼び鈴を鳴らす。暫しの間が空いて2人の侍女が来た。そして、腕の中にあった簡易な服を各自の目の前に置いて出ていってしまった。


 これ、お忍び用の服なんだけど。アースを見ると同じく下町風な服が置かれていた。ただ、予め知っていたのか、その服を無言で袖を通していく。


 それにしても、アースは王子様なのに自分で着替えるんだ。


 感心感心とふむふむ頷きながら、自分も着替え始めようと思い服を手に取った。


 ボタンに苦戦しつつも、なんとか着替え終わった所で扉を叩く音が響く。


「お着替えなさいましたか?」

「ごはん‼」


 振り向けば、優しい笑みを浮かべるレイスが押すワゴンの上には美味しそうな朝食が。


 目にも留まらぬ早さで席に着き、目の前に置かれていくご飯の数々に目を輝かせる。そんなエルナの姿をぽかんと見つめていたアースはレイスに促され食事の席に着いた。


 二人共席に着いた所でレイスは短めの感謝の言葉を述べ、最後の箇所を復唱する。エルナは心の中で頂きますを付け足して、食べ始めた。


 そこから無我夢中で食べ続け、お皿の大半が空になると、漸くお腹いっぱいになった。そんな満足そうなエルナを横目にレイスは話しを切り出した。


「アース様、今後の御予定は聞いておられますか?」


 食後の紅葉を味わっていたアースはカップをゆっくりと下ろす。


「一応、母上から伺ってはいる。が、2人で街に行ってらっしゃいと言われも、街に行ったことなど数える程しかない」

「何処に行くのか迷われているのでしたら、あえて気の向くままに行かれてみては?」

「そういうものなのか?」


 そう不思議そうに尋ねるアースをみて、幼いのに難しく考え過ぎじゃないかと心配になった。王族故に子供らしくあれないのは酷く寂しい。なんとかしてあげたいなと思っていると、レイスはエルナの後ろに居た。


「失礼しますね」


 そう一言掛け、高めに作られた椅子を引いて手を差し伸べたレイス。その手を取れば、ふわりと体が浮かぶ様な軽ろやかでいて尚且つ優雅な動作で地面へと足がつく。


 成る程、これやられたら一発で女の子落ちますね。顔だけでなくエスコートも素晴らしいとあっては、あれだけ人気があるのもわかります。


 そう1人でに納得していると同様にエスコートし終えられたアースが横にいた。


「それではお見送りいたしますので此方へ」


 そう言ったレイスに連れられた先には、こぢんまりとした門がひっそりと立っていた。


 仮にも王族の住む城なのに無人で誰でも入れる場所があるのは、防犯上の問題は大丈夫なのか。もんもんと一人で考えこんでいれば、いつの間にか門は開かれていた。


 門で阻まれていた街の様子を目にすると、街への行くという事実を今更ながら実感する。高鳴る期待に先程までの疑問すら忘れて、さぁ行こうと後ろを振り向けば、レイスは深く礼をしていた。


「御気を付けて行ってらっしゃいませ」


 それに対してアースは鷹揚に頷く。


「ああ、行って来る」

「いってきましゅ」


 すたすた歩いていくアースに着いて行こうとして、ふと後ろを向くと、てっきり着いてくると思っていたレイスはその場所から微動だにしない。留まっていても意味がないのでアース続くように門をくぐった。




 * * *




 あっちにふらふら、こっちにふらふら。歩き売りをしている甘辛い串を食べたり、出店を冷やかしてみたり、肝っ玉母ちゃんの食堂でご飯を食べたり、お母様へのお土産を買ったり、お菓子を物色したり。そんなことをしていると、アースの硬かった表情も、戸惑ったり驚いたり笑ったりする内に自然な子供らしい顔になった。


 休憩がてら噴水の淵に座る。小さな体で半日歩き回ったにも関わらず思ったより疲れてなかった。アースも疲れてなさそうなので子供故という事だろうか。


 微炭酸の効いたフルーツが包まれたお菓子を口に方張りながら、ちらりと横をみやる。どうやら、アースはキラキラ光る飴がお気に召した様で、袋の中にある色取り取りの飴を大事そうに口に含んでいる所だった。遠くで聞こえる喧噪すら気にならないくらい、穏やかで満たされた時間を暫しそうして過ごした。


 買ったお菓子も尽き、そろそろ移動しようかとしたとき先に立ったのはアースの方だった。


「カルティーエルナ、次はどこに行きたいか?」

「なまえ、ながくないでしゅか?」


 さっきからずっと思っていたことが気付けば口に出ていた。アースは首を傾げる。


「ならば何と呼べばいい?」

「えりゅなってみんなよびましゅよ」

「エルナか、わかった」


 不敬罪とかに当たったりしないかなとか?と思ったけれど、嬉しそうなアースを見ると言ってよかったのだと安心した。


 まぁ最悪、子供ですから分かりません。で、通そうかと思ったけどね。


「それならエルナもだ」


 突如意味の分からない事を言われ、先程のアースと同じ様に首を傾げる。


「なにがでしゅか?」

「それだ、普通に話せ。あとアースでいい」


 嗚呼、敬語は要らないって事と名前の事を指してたわけか。此処で断るのはおかしいし、不敬罪云々は子供の特権で考えないでおこう。


「うん、わかった」


 そう言って笑みを交わし合う。けれど、そんな和やかな空気に水を注すように、遠く聞こえていた喧噪が近づいて来た。


「何やら騒がしいな...エルナ、向こうに行くぞ」


 喧噪とは反対の方へと足を進めるアース。人気のない道を真っ直ぐに進んでいくと、見覚えのある丘に辿り着いた。


「ありぇ、ここ...」

「来たことが有るのか?」

「うん、にぃしゃまと、ねぇしゃまと、あしゃなときたの」


 特に昔の話ではないのに懐かしいなとぽかぽかした気分になった。思い出に浸っていると、妙に聞き覚えのある2つの声が耳を掠めた。


「...ちょっと...引っ張らないでよ」

「...ふらふらしてるからだろ」

「何それ!!ルセだって...」


 樹の幹にはみ出しながら隠れる2人の影。夢中になって押し合いへし合いになる2人にそっと近づく。


「れしぇねえしゃま、るしぇにぃしゃまなにしてりゅの?」

「「あ」」


 2人揃ってぽかんと口を開けて、動きを止めた。先に我に返ったのはレセで、ぷくりと頬をふくらました。


「あーあ、ルセの所為でばれちゃったじゃん」

「何でもかんでも人の所為にするな!」


 激しく突っ込むルセ。見る見る内に口喧嘩へとなる2人。


 ...どうやら2人の話の内容から察するに、彼らはお母様から付けられた正式な護衛らしい。確かに、1歳と3歳の子供二人(ましてや片方は王族)が護衛や保護者なしに街に出ていいのかとは思ったは事実ですが、だがしかし、護衛が5歳の兄と姉だけってどうなんですか!?


 なんともおかしい状況に、ただただ平和呆けしているだけなのか、自分のもつ常識がこの世界とはずれているのか悩む羽目になった。



 


 鍵穴もない門や、それを開けようとしないレイスの不自然さにエルナは気付けないまま去った後、建物の中に隠れている2人に声を掛ける。


「何故わざわざ隠れて護衛なさるのです。一緒に行かれたら宜しいのでは?」


 そう振り向き尋ねると、片割れの少女がやっぱりばれてたかーと笑いながら出てきた。まだまだですよと笑うと、次いで出てきた少年が先程の問に答える。


「相手に知られずに護衛するのも勉強の内だと、お母様が言ってらっしゃったのです」

「王妃様も言ってたよー」


 ぴょこぴょこと飛び跳ねるレセに、落ち着けと嗜めるルセ。2人はお揃いの隠密仕様の護衛用の服に身を包んで、些か浮かれている様だった。


(...成る程)


 御二方の思惑が透いて見えるような気がして、失笑しているとレセが不思議そうな顔をしていた。


「どうしたの?」

「いえ、なにも御座いませんよ」

「そう?じゃぁ、そろそろ行くねー」

「はい、御気を付けて」


 先刻と同様に深く礼をする。


(クライヴ家とはいえ、やはりまだまだ子供、という訳ですか)


 彼らがあの域に達するのは一体いつ頃になるのか。それを身近に見れると思うと楽しみで仕方ないな。と、考えながら、この場を後にした。



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