1-.不穏な影<後編>
この話は8~10(誕生祭)のフォーと王女のミレイsideと、13(後日祭)の夜のエルナが寝た後の会話です
〈side:フォー〉
リア姉、往生際が悪い…
引き摺られる様に連れて行かれたリアを見送り、そっと溜息をつく。素直になったらいいのにと思う反面、あの方はそういう反応を返してくれるリア姉が好きなのだから、丁度いいのかもしれないけれど。
「お父様、お母様。もう宜しいですよね?」
あ、スイ兄行くんだ…
お母様はふんわりとした笑みを浮かべ了承していた。けれど本当は内心、素直じゃないリア姉とカーティス様の結婚までの捏造妄想と、一途なスイ兄とサシーラとのお付き合いの妄想でもしててにやにやしてる気がする…
「では、私はこれで」
スイ兄はお手本のような綺麗な礼を一つすると彼女の元へと颯爽と歩いていった。その姿を見ていた少女と呼べる令嬢が何人か頬を染める。
今、何人か落ちた…あ…そうだ私も今の内にお母様の妄想が終わらぬ内に抜けだそう…
「…私も…行って参ります…」
同じく一礼をして近くの扉を潜る。そこから暫く歩くと丁度庭に出る。そこは、先程までの賑やかさから一転して、しんと静まり返っていた。月も雲に隠れていて、普通の人にとっては足元も覚束無い程に暗く淋しい道を無言でずんずんと突き抜ける。すると、ようやく古めかしい倉庫のような建物の裏口が見えた。
立ち止まり胸元から出した鍵で扉を空けようと手を伸ばし掛けた時、壊れるかと思う程乱暴に内から開けられた。
「フォー!遅いわよ!!」
この古びた倉庫に似つかわしくない煌びやかなドレス姿の少女が、腰に手を当て仁王立ちをしていた。
「…ミレイ…貴女もあそこにいるべきだと…思うんだけど…」
「貴女達が来る前に全て済ましたわ」
「…逃げたの間違いじゃ?…」
「細かい事は気にしない方向でお願いしたいわ」
「…まぁ、いい…」
どうせ…お母様達は、その辺はお見通しだろうし…
そう思いながらも溜息交じりに返事をすると、ミレイは顔をぐいっと近づけ期待に満ちた瞳でこちらを見上げる。
「それで、今日は何をしますの?」
「…ん…」
胸元に隠し持っていた紙を広げて見せれば、ミレイは笑みを浮かべる。
「それじゃ、始めましょ!!」
自分の手元からするりと紙を取るとそれを大事に抱え、スキップでもしそうな勢いで所狭しと置かれる荷物の山に向かう。その狭い通路でも危なげなくドレスを翻し奥へ入って行こうとする姿を見て、一番言っておかなくてはいけない事を思い出した。
「…まず…服、着替えよ…」
* * *
〈side:ミレイ〉
「…ミレイ…」
「何かしら、今良い所なのよ」
左手で部品を動かない様固定し、右手に持った器具で細心の注意を払って部品を嵌め込む。それが少しでもずれたり、今まで嵌めた物が取れるとこの作業をもう一度やり直さなくてはいけない為、失敗は許されない。
ようやく最後の一つを嵌め込み終わった。最後に術式を描いた蓋を閉める。あと、これと同じ様な作業を反対側にも行ったら完成。
そこで一旦、縮こまった身体を解すために伸びを一つし、背凭れに凭れながら先程まで触っていたモノを手に取る。それが掌でころりと転がり姿についにんまりとする。
それにしても、完成に近づいて来たモノを見ると胸が高鳴るのは何故かしら。
嗚呼、いっそこのままこうして生きていけたら…
そんな夢のような事に思いを馳せていたら、フォーが眉を潜めて呟いた。
「…足りない…」
「え?」
「…パーツが、一つ…」
そう言われ、部品の数を確認すると確かに足りない。
「それは不味いわね…どうしますの?」
城下街の店はもう閉まってますし、この倉庫の中から部品を探すという手もなくはないけれど、それはあるか分からない上に時間が掛かるのは必至ですわ
後は城の何処かからくすね…もとい貰い受けるという手もありますが、これも時間が掛かる事に何ら変わりはありませんわね…
いろいろと模索していると、フォーが重い口を開いた。
「…多分……ヴィッチの店なら、開いてる…」
嗚呼、確かにスラム街の片隅にあるその店ならまだ開いてますし、品質、品揃えもそこそこ悪くありませんでしたわね
店主と客層は全っっっっく持ってよろしくありませんでしたけどね!
とはいえ、仮にも王女の私がスラム街に行ったと知れたら、後々面倒な事になるかも知れませんが
…まぁ、明るみに出なければ良いだけの話ですし
「そう決まったなら、出発ですわね」
* * *
「何人居ますの?」
店の外にいる気配に溜息をつく。
店に入る時、何んとなく嫌な感じがしましたの
「…8…ぅん、9人…」
9名…か弱い(?)女の子二人に対して大の大人が寄って集って、見え透いた下賤で下種な思惑に反吐がでそうですわ!!
さっさと逃げることは可能ですけど、放っておけば抵抗の出来ない方々の被害を増やし、犯罪を増長させるだけ……これは正義の鉄槌を下さねばなりませんわね!!
とはいえ、ここで暴れると何かと厄介な事が多いですし…
「少々やり合うには都合も場所も良くないですわね」
「…撒く?…」
「ええ、それが最善でしょう」
素知らぬ振りで店を出て無言でそそくさと歩く。
後ろで叙々に距離を縮め、下卑た笑みを浮かべているだろう彼らへ溢れ出そうになる殺気を抑える。
まだ…まだいけませんわ…これは法の下で裁かなくては意味がありませんの……
何故なら、此処スラムで起こった事は公然と公表されることはない。それは暗黙の了解で決まった未だに残るルールだ。その為、スラムをぎりぎり出るか出ないかの場所で始末してしまうのが一番望ましいのだ。
それが分かっていても、このじれったさと手に持っている部品を持ってさっさと帰りたいという感情が入り混じりいらいらとする。
嗚呼、早く帰ってあの魔道具を仕上げたいのに!!
「……」
「?…どうしましたの」
「…リア姉とカーティス様が、近くに…居る…」
あら、そうですわね
こういう類の管轄はお兄様が全てすべき事なんですから、押し付けてしまいましょう。
「まぁ、それは名案ですわ」
了解の意を込めて笑みを返し、内心ではほくそ笑む。
ましてや、可愛い妹が恐ろしい目にあってるのに、自分は恋人といちゃいちゃするなんて、到底許されることではありませんしね。
「そうと決まれば、善は急げですわ」
さっきまでの憂鬱な気分から一転して、心浮き立つような気分で駆けだす。
突然走りだした私たちを、追手は慌てて追って来た。ただ如何せん慌てたが故に、超人一家に比べては気配に疎い(それでも十分過ぎる)私でもはっきりと感じ取れる程には、気配を隠すのを疎かになっていた。
本当に9名いますわね…さすがフォーですわ
後はこの角を曲がれば…
先に感じる微かな二つの気配に緩む頬を抑えながら、彼らが居るであろう道へと踊り出た。
「え!?」
剣を抜き驚く二人の姿に、つい笑みが零れる。
二人の横をそのまますり抜け、走る足を更に加速させながら横にいるフォーへこの喜びを分かち合おうと、満面の笑みを浮かべる。
「成功ですわね!」
フォーを見れば親指を立てて、めったに見ない良い笑顔をしていた。
颯爽と欠けてく私たちの後ろから、呼び止めようとする声が剣戟に紛れながら響く。
『…!!』
あら?後ろから何やら騒がしいお声が聞こえますけれど、私たちには他にやるべき大切な使命がございますから些細な事は無視ですわ。
では、頑張って下さいまし、お兄様☆
* * *
〈side:――〉
「あら、エルナは寝てしまったようね」
「ええ」
「嗚呼丁度良い、アース、お前も部屋で休みなさい」
「え、ですが…」
「甘えておけ、昨日の今日だ。疲れているだろ?」
「っ…は、い」
エルナから貰ったお土産を抱え俯くアースに、皆何処となく気まずい空気が流れる。
「アサナ」
フレイは扉の向こうに控えているアサナを呼ぶと、さっと姿を現した。
「はい、ここに居ります」
「エルナとアース様をお願い」
「畏まりました」
恭しく礼をするとエルナを腕に抱え、アースに小さく礼をすると共に部屋から出て行った。
見るからに萎れるアースに居たたまれない思いで皆沈黙が流れる。
「追い出すような形になってしまいましたね」
「嗚呼、そうだな…」
「そうは言っても仕方がないでしょう…正直、こんな話まだ聞かせたくありませんわ」
「そう言えば、レセとルセは良かったのか?」
末端の席の方で騒ぐまだ幼い双子をディーリスがちらりと見ると、アルバは当然と言った顔で答える。
「自分の意思でこれに参加する事を決めていたようです、それにもう5歳です」
「まだ、だと思うがな」
確実に世の中の枠という枠から逸脱している彼らの常識に、ささやかながら異議申し立てをする王の言葉も彼らの前では空しい。
「失礼します」
「スイ、戻ったか」
「はい」
スイの他に数人部屋へ入ると、各々席に着く。
「これで揃ったようだな…では、始めようか」
【第1章 リスタート 了】